もしあなたが漁師だったら
サラリーマンのように毎日8時間漁に出かけるような仕事の仕方をするだろうか。漁師の仕事はきつくて、どの働き方の漁師も一週間の労働時間は40時間だとしよう。毎日の天候がランダムに変化しているとしよう。この時、毎日8時間タイプ、目標漁獲高タイプ、大量時集中タイプのどの漁師が、一週間での漁獲高が一番多くなるだろうか。答えは大漁の時に集中して働くタイプである。なぜなら一週間で働く労働時間が決まっているのだから、最も魚が獲れる時間に集中的に働いた方が、魚が獲れない時間に長く、魚が獲れる時間に短く働くより、より多くの魚が獲れるからだ。若手芸能人や歌手が売れっ子になると、ほとんど寝る間もないほど働き続けるのも同じ理屈だ。人気がいつまで続くかわからない以上、仕事の依頼がある時は睡眠時間を削ってでもできるかぎり引き受けて人気がなくなった時に十分休めばいいのだ
一日の目標金額を決めて仕事をすると、お金を貯められないだけでなく、大損してしまうことになりかねない。ギャンブルで毎回の損益を絶対にマイナスにしないように、決めているとしよう。競馬の最終レースまでの間に負けが込んでいたら最終レースで大穴を狙いに行ってしまうかもしれない。パチンコで三時間やって負けていた場合も、大当たりを狙ってもう一時間挑戦してしまうかもしれない。どちらもとても危険な行動だ。毎日の目標額を決めて行動するという「計画的な態度」が悲惨な結果をもたらしかねないのだ。
競争嫌いの日本人
貧富の格差が生じるとしても、自由な市場経済で多くの人々はより良くなる という考え方にあなたは賛成するだろうか。主要国の中で日本の市場経済への信頼は最も低く49%しかこの考え方に賛成していない。これに対してアメリカでは70%の人が賛成している。では自由な市場経済に信頼を置かない日本人は、市場ではなく、政府の役割を重視しているのだろうか。同じ調査では「自立できない非常に貧しい人たちの面倒をみるのは国の責任である」という考え方に賛成するか否かを尋ねている。日本ではこの考え方に賛成しているのは59%である。実はこの数字も国際的には際立って低い。ほとんどの国が80%以上の人が貧しい人の面倒をみるのは国の責任だと考えている。つまり日本人は自由な市場経済のもとで豊かになったとしても格差がつくことを嫌い、そもそも市場で格差がつかないようにすることが大事だと考えているようだ。
民主党、社会民主党、国民新党の三党は、2009年8月30日の第45回衆議院選挙での自公連立政権からの政権交代を受け、連立政権を樹立することになった。そのための三党合意文書の冒頭には、「小泉内閣が主導した競争至上主義の経済政策をはじめとした相次ぐ自公政権の失政によって、国民生活、地域経済は疲弊し、雇用不安が増大し、社会保障・教育のセーフティネットはほころびを露呈している。」という文章がある。
人生の成功に重要なのは勤勉よりも運やコネ という考え方が不況で強まったのは事実だろう。運・不運による所得の差を小さくするものは民間の保険、家族の助け合い、そして税や社会保障による再分配制度である。こうした政府による所得再分配政策や雇用創出政策は、市場機能に制限を加えて行うものではない。しかし現実には市場主義そのものに問題があり、市場に対する様々な規制を加えていくべきだという議論になった。最低賃金の引き上げや製造業派遣労働の禁止が2009年の民主党の選挙公約にあげられたのは、そうした反市場主義的な考え方を反映している。規制を強化すると規制で守れた人のなかでの格差が小さくなり、そのなかでの運・不運の要素は小さくなるが、規制の枠に入れなかった人たちとの格差は拡大する。規制に枠に入れるかどうか、という運・不運の要素が大きくなってくるのである。最低賃金の引き上げによって、運よく職を得られた人は高い賃金が得られ、働いている人の間での格差が縮小する。しかし、最低賃金の引き上げは、仕事に就けない人を増加させるため、失業者と就業者の間の格差は大きくなり、それこそ運不運の差を拡大してしまうのである。
競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書) 大竹 文雄 中央公論新社 2010-03 |
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