1990年代、アメリカの大投機時代を代表する二人の人物がいた。アイバンボウスキーとマイケル・ミルケンだが、彼らはウォール街の錬金術師といわれた。そのボウスキーがインサイダー取引の罪でSECに摘発され1億ドルの罰金を払わされた上、3年の実刑に処せられたのは1986年のことであった。ウォール街を震撼させたこの事件はさらに拡大し投資銀行の幹部たちを巻き添えにしたが、ついに、ジャンクボンドの帝王マイケルミルケンに波及し、6億ドルの罰金と10年の体刑に処せられて、ミルケンが刑務所送りとなったのは1990年のことであった。ミルケンが所属していたドレクセル・バーナム・ランベールは倒産し、バベルの塔はあっけなく崩れ去ってしまったが狂乱の80年代を象徴する事件であった。
1989年4月~11月にかけて稲川会の石井会長が野村證券と日興証券を通して、東急電鉄株を2240万株も買い集め、さらに他人名義で140万株、計2380万株を買い占めたことが明らかになっている。北祥産業(千代田区、庄司宗信社長)は、事実上石井前会長がオーナーで東京佐川急便とも関係がある不動産業の会社だ。小谷光浩被告が、巨額脱税で逮捕された竹井博友から1000億近くの返済を迫られた時、蛇の目ミシンに対して、暗に暴力団の後ろ盾があることを示唆した時に利用した会社としても知られている。  石井会長は茨城県のゴルフ場岩間カントリークラブのゴルフ場会員資格保証金預り証というほとんど無価値の紙切れを発行している。なぜ紙切れかと言えば、もともと岩間カントリークラブは会員制のゴルフ場ではないからである。ところがこの紙切れと担保に、東京佐川急便80億円、青木建設50億円、間組24億円、平成ファイナンス(野村証券子会社)24億円、グリーンサービス(日興証券子会社)20億円、ケー・エス・ジー(光進関連会社)70億円、仕手筋の安達グループ関連と誠備グループ関連などからの資金合わせて384億円の資金が提供されているのである。
これまで裁判所の判例として現れている株価操縦(相場操縦)は3件しかない。証券取引法125条の相場操縦とは、株式市場などの有歌証券市場での売買取引を誘引する目的で、その有価証券の売買が非常に盛んに行われているように誤解させ、またその相場を変動させるための売買取引、またはその委託、受託を行うことである。 いくら世間的に見て相場操縦とわかっていても、”有価証券市場における有価証券の売買を誘引する目的”さらに”その有価証券売買取引が繁盛していると誤解させ又その相場を変動させるべきもの”があると立証されなければならない。
協同飼料事件、副社長と経理部長らが資金調達の方法を考えた。まず株主割当の増資を行って、その後に時価発行することにした。だが、この2つの資金調達をクリアーするためには日程に合わせて協同飼料の株価をうまく操縦してつり上げる必要があった。そこで株主割当増資に関係する売買取引が増資の権利落ちとなる前後に株価操縦することになったのである。当然、協同飼料側の人間だけでは実行できることではないので、N証券、D証券の支店長その他計5人と共同謀議を行ったわけである。株式買い上げ資金は主として協同飼料が出すことになり、614万9千株をN証券、D証券が継続買いに入り、10万4千株の仮装売買などを行って株価変動のための取引を行い170円台の株価は256円となり権利落ち株価は220円にすることができた。次に時価発行公募価格を有利にするため、株価の維持を計り、86万6千株を買ったというものである。
東京証券金融事件、丸茂工業は買い占めた(1978年)大阪二部上場の日本鍛工の株式の大半を親会社に当たる大同特殊鋼に売り渡した。残りの株式は、東京証券金融会社の社長であるAと相談した結果、Aから投資家のTに売ることになった。AはTに対して、”これからも買占めは続けるので、日本鍛工は上がるはずだし、万が一下がった場合には、売った値段で買い戻すから心配ない”と補償したのである。だが、実際には買い占めるはずの丸茂工業側が約束を反故にしたため、日本鍛工株は下げ一方となった。大切な顧客の信用を失っては商売に差し支えると考えたAは日本鍛工株の株価操縦をすることを思いついたのである。かねてつきあいのあるY証券コミッションセールスマンSに相談を持ちかけ、X証券に事情を話して、1980年388万株の仮装売買を行い、一般投資家から見ると人気がさかんなように見せかけようとしたのである。この事件が発覚して東京地裁は、1981年にAは懲役2年、Sに1年の刑を課している。
91年7月2日夕刊・読売新聞は次のような記事を掲載している。
広域暴力団稲川会の東京急行電鉄株大量買いにからみ、野村證券が平成元年10月東京と大阪で法人、個人の大口投資家を集めた講演会を開き「東急株は現在2000円前後だが明日から急騰する。12月には5000円を突破する」と煽っていたことがわかった。講演会とセットにされているのが「ポートフォリオウィークリィ」発行されたのは10月15日ごろ、それには東急電鉄株を含めて、東急グループがどんなに有望であるかを並べ立てている。もう一つ忘れてはならないのが、大蔵省と裏取引があったと思わせるように、東急電鉄の推奨のすぐ下に”JR株式、91年度から売却へ”という記事を掲載し、私鉄株を東急電鉄主導で上げていき、JRの高値上場への布石を敷いているのである。東急電鉄株の株価操縦は、単に稲川会がからんだだけの株価操縦事件ではなく、JRを高値で上場して、一般投資家からNTT同様虎の子をむしりとり、同時に暴力団を使って東急グループを買い占めようとした策謀だと考えられるわけである。
野村證券は、日本橋本社ビルに近い東急日本橋店(旧白木屋)の土地が欲しかった。仲介役になったのが元三井信託銀行の中島健社長だったが、東急の横田二郎社長はこれを断ったという。そこで野村は暴力団稲川会の石井会長に話を通じた。暴力団の前会長が東急側に直接話をつなぐわけにはいかないので、最初から東急株買占めについては一口乗っていた横井英樹が仲に入った。インテリジェントビルを建て、名称は東急ビルとして実際は野村不動産が取り仕切るという話だった。この話を押し進めるための無言の圧力として稲川会石井進前会長が発行済みか部数の3%をもって圧力をかけるという図式ではなかったか。
大蔵省の”野村切り “ 証券スキャンダルの表面化の背後には大蔵省の国の資金調達戦略の転換が絡んでいる。
【株にまつわる事件】
2011.10.14: ゴールドマン元トレーダーをETFインサイダー取引
2011.09.06: 投資詐欺 1/3 合法
2011.04.19: 史上最大のボロ儲け ~ポールソンの追い討ち 6/6 
2011.01.11: イトマン・住銀事件 ~脇役 経済事件史顔ぶれいつも同じ
2010.10.07: マネー・ロンダリング入門 ~バチカンの役割
2010.09.14: 三井住友FG、証券業務? やんの?
2010.08.20: 株メール Q3.コーポレートアクション
2010.06.28: 政商 昭和闇の支配者 ~企業買収
2010.05.18: 秘録 華人財閥 ~李嘉誠と包玉剛 「英資財閥への挑戦」
2009.11.13: 7736企業乗っ取り 300億円強奪を示す財務諸表
2009.10.15: BNP作為的相場形成の疑義についての見解
2008.02.02: 信用取引 証券会社の儲けと投資家(顧客)のうまみ