刺殺された民主党の石井紘基議員
石井議員は国会議員に許された国政調査権を行使して事前に調査した上で、官僚機構の急所が会計
検査院になると見抜き、こう質問していた

「会計検査院が調べなければいけない団体はいくつあるのですか」
じつに単純な質問のように見える。ふつう会計検査院が税金の無駄遣いを指摘したりする対象は建設
省や厚生省などの役所と思われている。他にも国家が資本金の二分の一以上を出資している特殊法
人も検査の対象である。日本道路公団や住宅・都市整備公団などの公団、住宅金融公庫などの公庫
年金福祉事業団などの事業団、電源開発株式会社などの特殊会社・・・・
石井さんの質問に対し会計検査院は日本道路公団や住宅都市整備公団(のちの都市基盤整備公団)
など特殊法人の名と数を列挙した。これらは訊くまでもなくすでに明らかだった。問題はこの先である。
特殊法人が出資している株式会社は幾つあるのか。会計検査院は公的機関を検査対象としている。

たがって特殊法人の紐付きであろうと民会企業の装いをこらして市場社会に紛れ込んでしまえば、追跡
調査の対象にならないのである。石井議員は、これらの法人がどのくらいあるのかその実数を調べてあ
った。なんと合計3000団体もあるのだ。それに対し会計監査院は、それぞれ3と19という数値しか示さな
い。

「必要に応じて検査を行うというものでございまして、それぞれの数につきましてはわたしどもでは現在
把握しておりません。」
石井議員は語気を荒げた。
「会計検査院が検査しなければならない団体がどこだかわからないというのは何ですか!」
国鉄がJRとして民営化されたとき税金で大幅な債務カットをした先例が自分たちにも適用されてしかる
べきと信じているのだ。だが国鉄と日本道路公団はあまりにも違う。国鉄には明治時代以来の基幹産
業としての歴史と伝統がある。国鉄も八幡製作所と同様に日本の近代化に大きな役割を果たした。国
鉄は単なる運輸業ではなく、先端技術産業でもあり防衛産業でもあった。物資を大量に輸送する高速
鉄道はさまざまな先端技術の集積だった。鉄は国家なり、であればまた国鉄もしかりであった。敗戦に
より外地の満鉄などから引き上げてきた職員も国鉄が引き受けた。戦後の出発点で国鉄の職員は60
万人にも膨らんでいた。そういう歴史を引きずった上に赤字路線を政治路線としてつくらされた。70年代
まで運賃も国会で決めていたので経営の都合で変更しにくかった。国鉄を民営化する際に債務カットが
行われたのはこうした歴史を背負っていたからだった。内部改革派が生まれたのも当然であった。
 ところが日本道路公団はたかだか50年ほどの歴史しかない。首都高速の開業は東京オリンピックを
2年後に控えた1962年だ。東名高速が全通して名神高速と合わせて東京・神戸間が高速道路で結ば
れたのがようやく1969年である。同時に急激なモータリゼーションの波が日本列島を覆った。小さな公
団の企業規模は急拡大した。斜陽産業の鉄道に対して、高速道路に関わる公団はいわばバブル企業
なのだ。
本当に債務超過か
余剰金のマイナスが6000億円になっているから債務超過だというが政府出資金の二兆円は民営化ス
タート時には国による100%出資の特殊会社となるのでそのまま資本金と解釈するのが常識であり、
6000億円が二兆円に食い込んだところでそれは一部資本欠損にすぎず、債務超過ではない。余剰金
のマイナスが二兆円を越えてようやく債務超過といえる。
道路四公団には年額二兆六千億円の収入がある。40兆円の債務は保有・債務返済機構が持ち、5つ
の民営化会社はキャッシュフローに応じてリース債務総額を再配分すればよい。投資総額や不動産評
価額などを算定して債務超過か否か、という計算をしてもあまり意味がないのである。資産の価値とは
その資産を取得するために費用がいくらかかったかではなく、資産がどれだけの収益をもたらすかで決
まる。
私小説の現実感覚は社会や国家に対して現実というばからの凄みを利かせるというふうにはならず、
拡がりを持たない。日本には国家や社会に恐れを感じさせるようなどすのきいたリアリズムは育たなか
った。作家が狭い世界にとどまっても、なんら関係なく都市はさらに求心力を増すし産業化は進んでいく
わけでそれにより構成される世界はよりとらえがたくなるばかりであった。言論の表現者がリアリズムを
理解しなかったのは致命的だった。「日本の知識人の教養に軍事知識という課目がなかった」ことが大
きかった。軍事費は国家予算のかなりの部分を占めているのだから、納税者であれば関心を持つのが
あたりまえだが「軍事という具体性の中から内外を見ようとしなかった」のである。「明治・大正のインテリ
が軍事を別世界のことだと思い込んできたのが昭和になって軍部の独走を招いた。軍事知識を現代なら
ば「肥大化した官僚システム」と置き換えてよい。あの時代においては軍部こそが最大の官僚機構であ
ったのだ。特務機関が大陸で謀略事件を起こすが、それは官僚機構の制御機能が低下した現象の一つ
ともいえた。チェックできない機密費が増えていった。ここまで述べれば察しの良い読者は理解してくれる。
道路公団はかなり前に独走を始めていたのだ。予算なら国会の審議の対象だが、国営企業の財務の実
態は把握できなかった。
本書のテーマである道路公団民営化がたんなる一特殊法人の改革にとどまらないことを確認しておきた
い。道路はバラマキ政治の中心に位置していた。それゆえ、道路公団の改革は日本の政治的メカニズム
の根幹を揺るがすものであった。予算を使った利益分配政治には、おのずと限界がある。そこで財政投融
資という仕組みを利用して、公共投資を拡大するメカニズムが作られた。若き日の田中角栄の天才的着想

であったといってよい。まだ30歳代であった角栄は、1956年から57年にかけて道路公団の発足に関わり、
郵政大臣となって特定郵便局倍増を宣言する。郵便局が集めた金を特殊法人に流し、公共事業に使おう
という目論見であった。このバラマキ政治の限界と悪弊を察知し、特定郵便局->財政投融資->特殊法人
というメカニズムの抜本的改革を図ったのが小泉純一郎であった。
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