道路特定財源(国が三兆五千億円、地方が二兆三千億円)が五兆八千億円もある。ガソリン税
(揮発油税)などを中心とした目的税で道路以外には使ってはならぬとの金城湯池、これを高齢
化対策や環境対策を振り向ければどれほど国民のためになるか、小泉首相は一般財源化を総
裁選の事実上の公約にしているのだ。高速道路だけでなく一般国道のほか地方単独事業の道
路でも道路特定財源は核になる。それでも足りず一般財源も投入され地方債も発行されてきた。
これで年額12兆円ある道路予算がはじき出される。日本の25倍の広大な国土を有するアメリカ
の道路予算とほぼ同額に当たる
のだから異常である。
9342キロという旗
税金投入ゼロで30年返済の対極は、税金投入3000億円で50年返済というケースで、この場合な
ら9342キロは全部できるがその投資可能額は20兆6000億円と算定されている。この20兆6000
億円という数字が国交省や道路公団、道路族議員たちにとって9342キロを実現するための決定
的な指標とされた。あくまでも国交省が計算した数値である。
スパウザ小田原で消えた455億円
雇用能力開発機構が作った豪華リゾート施設。
人口が2006年を境に減少に向かうのに交通需要は2030年をピークを迎えるという推計はおかしい
と僕は指摘した。需要予測を多めに見積もることにより高速道路の建設を促進するねらいが込めら
れているからだ。交通需要推計値の参考資料として、本州四国連絡橋、東京湾アクアラインの事
例を用いてケーススタディを試みたい、両ケースについての交通需要推計値と実績値をご用意願い
たい、と僕は前もって国交省に要求しておいた。
 しかし、提出されたのはアクアラインのケースのみで、本四連絡橋については何故か1997年のデ
ータであった。いわゆる使用前、使用後のケースを検証することで需要予測がいかに甘い見積もり
になりやすいのか、それを確認するためにやるのだから、当初の予測値を提出してもらわないと議
論にならない。本四公団の需要予測の一番古いものは79年、つぎが83年、85年、87年、88年・・・
10回目は現在進められており、平成九年度の償却計画は実績との乖離が生じていることから、償
還計画の変更作業中」とのことである。日本以外で需要予測が10回も変更される国があるだろう
か。いや日本のどんな企業であっても需要予測を10回も変えはしない。なぜならその前にすでに倒
産してしまうからである。本四の需要予測で2001年時点の瀬戸大橋は一日平均で43800台であっ
た。では実績値はどうか。14400台でしかない。1/3である。
行政コスト計算書に認知されたファミリー企業は、すでに示した日本道路公団84社のほか、首都高
速公団12社、阪神高速公団25社の合計121社とされている。これらは公団との出資関係や取引額
で決められたもので、通常の民間企業の連結財務諸表で子会社・関連会社と認定されるものでしか
ない。だが僕があらためて調査したファミリー企業はこうした概念だけではとらえられない。なぜなら
ば公団が出資していなくてもファミリー企業が別の子会社を作っていたり。その子会社がさらに別の
ファミリー企業に出資していたり、ファミリー企業同士の株式の持ち合いや、互いの丸投げによるもた
れ合いなど連結財務諸表にはおさまらない形で繁殖しているからだ。天下りに関して言えば、日本
道路公団からじつに708社2519人もの膨大な数のOBがファミリー企業に生息している。
 たとえば、日本道路公団に運転手を派遣している日本道路サービスと日本道路興運の二つのよく
似たファミリー企業のうち、日本道路サービスは行政コスト計算書ではファミリー企業、日本道路興運
はファミリー企業にあてはまらない。日本道路サービスの売上は103億円だが、料金収受やサービス
エリアの売店のほかに道路公団に運転手を派遣する業務で28億円も稼いでいる。道路公団本社の
社員食堂までやっている。売上高67億円の日本道路興運も同様にさまざまな業務を受注している。
受注の運転手派遣の19億円なのでファミリー企業に分類されていなかったのだ。この運転手派遣は
道路公団やファミリー企業のずぶずぶの高コスト体質を反映した典型的なケースといえる。
「北朝鮮と戦っているようなものですよ」
道路関係四公団民営化推進委員会が置かれた立場、そこでの戦いの実情について僕はこう説明す
ることにした。道路公団を民営化しようとすればおのずと、官僚「独裁国家」が支配する統制経済との
対決になるのだから。道路公団は特殊法人で、わかりやすく言えば社会主義国にみられる特権をもっ
た閉鎖的で非効率な組織、不正の温床でもあった国営企業のことである。
 霞ヶ関は1府12省庁で構成されているが、そのひとつひとつが版図拡大を目論んでいるのだ。予算
(税金)の分捕りは売上であり、特殊法人・許可法人のほか公益法人(社団・財団法人)をたくみに設立
していかに天下り先のポストを余計に作るか、彼らの業績はそれらの高によって評価される。
 道路公団・国土交通省とは別にもう一つ、北朝鮮なるものが存在する。デマゴギーによる妨害である。
民営化委員会は第一回委員会で議事の公開を決定した。役所の審議会はほとんど御用委員会で、そ
の度合いは密閉度に比例していた。言論表現の自由のない北朝鮮では、拉致された人物の墓が一度
に洪水で流されたり、9月の海水浴場で死んだり、心臓病や交通事故や一家三人が石炭ガス中毒で死
亡するなど突発的な死因が多い。こうした怪しい事実を検証できないだけでなく拉致の責任者とされる
人物が既に処刑されたり服役したりしている、と発表されるデマが白昼、公然と流されるのが北朝鮮型
の社会である。

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