家畜化できている動物はどれも似たものだが、家畜化できていない動物はいずれもそれぞれに家畜化できないものである。この文章をどこかで目にしたような気がしても、それは錯覚ではない。文豪トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』の有名な書き出し部分、「幸福な家庭はどれも似たようなものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」をちょっと変えたものだからだ。

正確な理解はどれも似たようなものだが、不理解はいずれもそれぞれに不理解なものである。

エジプト、中国、そしてイースター島の例を除いて、歴史上、文字は、シュメール文字かマヤ文字から派生的に改良されたか、これらの文字の使用に刺激され考案されたものと思われる。文字を発明した社会がほんのわずかしか存在しないという事実は、文字システムをゼロから編み出すことの難しさを示唆している。シュメール人は少なくとも数百年、おそらくは数千年をかけて文字システムを完成させている。そして文字の発達にはいくつかの社会的要素が不可欠であった。文字が使用されるようになるには、その社会にとって文字が有用でなければならない。文字の読み書きを専門とする人々(書記)を食べさせていけるだけの生産性のある社会でなければならない。

新しい技術のおかげで、より高速でより強力な、そしてより巨大な装置が可能になり、その使い道が見つかったとしても、社会がその技術を受け入れるという保証はない。1971年、合衆国連邦議会は超音速旅客機の開発予算を否決している。世界はいまだにキー配列を効率化したタイプライターを受け入れていない。イギリスでは電機が登場した後も長い間街路照明にガス灯が使われていた。

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