クリスタルは昭和49年に林純一が設立した株式会社綜合サービスを前身とする会社で平成15年には主に人材派遣や業務請負等を行っていた200社の純粋持ち株会社だった。林は一代でクリスタルを売上高5000億円を超える企業へ発展させた。この売上高は平成18年時点で上場していた主要人材派遣会社と比べても圧倒的に大きなもので、株式会社パソナ、テンプスタッフ、そしてグッドウィルグループもすべて売上高は2000億円クラスでクリスタルの半分でしかなかった。しかし、一方で上場もしていなく、日本人材派遣協会や日本生産技能労務協会というような業界団体に加盟すらしていないという謎めいた部分も多かったため、周囲からは疑惑の目で見られていた。一代でここまで事業を拡大した林がクリスタルの売却を決意したのは、健康上の理由からだった。三和銀行を平成11年に退職した茶床信輝は、同行の先輩から相談を受けて、クリスタルの林純一オーナーから事業再構築の依頼を受けていた。茶床は当初人材派遣というクリスタルの本業に関係の無い子会社の売却を進めようとしたが、思うように進まなかった。
その後、クリスタルの子会社の株式会社コラボレートが偽装請負で行政処分を受けてしまった。大阪労働局はコラボレートが偽装請負を行ったことを理由に平成18年10月3日に労働者派遣事業停止命令および労働者派遣事業改善命令を出した。偽装請負とは契約上こそ請負という形をとっているが、その実態は労働者派遣であり、労働基準法に抵触する行為のことを言う。特に当時は製造業で多用されていた。そのため林は平成18年10月上旬に茶床を滋賀の自宅に呼んで「クリスタルを売ってしまおうと思うんや。ただしデューデリはなしや」と言った。林は一代で築いたクリスタルという会社に人一倍思いいれも強く、求心力を持って会社を引っ張っていた自分が、クリスタル株を売却することを役員や社員に知られてしまったら、彼らがクリスタルを辞めてしまって、会社が空中分解してしまうことになるのではないかと恐れていた。
クリスタルは当時連結で1000億円前後の純資産があり、売却金額もそれに見合ったものになる。デューデリができない、ということは本来ありえないことだ。そのような中で、茶床が頼ったのが中澤だった。売上高3000億円以上のみ上場の人材関連の会社といえば、クリスタルくらいしかないと思ったが、社会的評判が悪すぎる上に、デューデリできないとなれば無理だろうと思っていた。それでも、社名を伏せて知人の新生銀行の行員に検討可能か聞いてみたが、やはりデューデリなしでは不可能ということだった。中澤は私以外にも必死に出資者を探していたが、デューデリできないということでかなり難航しているようだった。
投資家が決まらない中で、中澤が頼ったのが緋田将士だった。中澤は知人の海老根淳司を介して、平成18年5月ごろに知り合っていた。その当時、緋田は国際空手道連盟極真会館松井派の館長である松井章圭と一緒にM・A・コーポレーションと言う会社を経営していた。
「グッドウィル・グループとかに買い取りを持ちかけられませんか」
「松井館長は折口会長と親しいですから、松井館長から話をしてもらいましょう」
「緋田さんにも分け前を渡しますから」
「当然、松井館長にも分け前を差し上げることになると思いますが、いいですか」
「ええ、それで結構です」
松井と緋田とグッドウィル・グループとの会議の際、グッドウィル・グループサイドらは、折口の他には、常務取締役管理本部長の金崎明、執行役員広報IR部長の大迫一生、法務部長で弁護士の資格を保有していた鎌田智が同席した。この場でグッドウィル・グループへ伝えられた内容は、クリスタルの発行済株式総数の約9割を中澤が取得することで話を進めていて、その約半数を600億円でグッドウィル・グループが取得しないか、というようなものだった。出席していた全てのグッドウィル関係者にとって、顔にこそ出さなかったが、この提案は非常に衝撃的なものだった。グッドウィルにとってクリスタル買収は悲願であった。折口会長はクリスタル子会社のシーテックの買収を試みたが林オーナーに会うことすらかなわなかった。しかも45%で600億円ということは、逆算した企業価値は100%で1330億円ということになり、この金額は想定していたクリスタルの時価総額4500億円の1/3にも満たない好条件だった。グッドウィルグループはクリスタルの価値を当期純利益200億円の30倍の6000億円からコラボレートの偽装請負によるディスカウント分を1500億円と社内的に見積もって差し引き約4500億円と見込んでいた。そのため折口は勢い取引への熱意を露にしながら、「最低でもクリスタル株の51%、できたら67%を取得したい」と松井に伝えた。
そしてその日のうちに中澤がグッドウィル・グループへ行って具体的なミーティングをすることになった。中澤はその席でクリスタル株の構成と林の希望を伝え、折口と次のように交渉した。
「林さんは、同業他社へは売却したくないという意向を持っていますので、御社が表に出ないスキームが必要になります。そのために、コリンシアンパートナーズが出資しているコリンシアン弐号というファンドが、林さんから買い取ります。御社はもう一つ別のファンドに出資して、その別のファンドがコリンシアン弐号に出資して、コリンシアン弐号から組合財産の分配としてクリスタル株とバンテクノ株を取得すると言うスキームでいかがですか」
「弊社としてはスキームにこだわるつもりはありません」
中澤はグッドウィル・グループからの出資金883億円の中から500億円を使ってクリスタルの株式51,825株を取得した。グッドウィルグループは883億円を出資し、クリスタル株38,190株を取得した。残った現金383億円とクリスタル株13,635株は、この取引を仲介した中澤と松井、そして緋田の3人で山分けされた。しかし中澤の怖いもの知らずの本領は、この松井と緋田との利益分配に発揮された。グッドウィル・グループからの出資が871億円で、林からのクリスタル株の購入代金が600億円で、差し引き271億円の現金と13,635株のクリスタル株がコリンシアン弐号には残っていると説明した。ここで林が600億円と言ったのは当初グッドウィル・グループへの仲介を依頼したときの金額が600億円だったからだ。また、クリスタルとバンテクノ株の67%で計算したため、その計算による合計金額が871億円となっていた。そのためグッドウィル・グループがみずほ銀行へ依頼していた融資金額も871億円だった。しかし、グッドウィルグループがバンテクノが保有していたクリスタル株5500株を取得するためには、バンテクノ株の全株を取得する必要があり、それを前提に出資金額を計算しなおすと、合計金額が883億円となった。
中澤が配分を受ける予定を指定分から7.5%分、松井と緋田は7.25%分を合計した22%分を271億円でグッドウィル・グループに売却したことを前提に、中澤分92億4000万円、松井及び緋田の分は89億3000万円とした。海老根淳司に対する手数料を18億2000万円とし、10億円を中澤が負担し、8億2000万円を緋田が負担することとしたため、中澤の取り分が82億4000万円で、緋田81億1000万円となった。
「(中澤)先生、分配はいつになりますか」
「コリンシアン弐号の決算期までは組合財産を分配することはできません。そこで松井さんには89億3000万円を、緋田さんには81億1000万円をコリンシアン弐号から貸付、コリンシアン弐号の決算期に貸付金を分配金と相殺することにしたいと思いますが、それでよろしいですか。それからコリンシアン弐号から松井さんと緋田さんに貸し付ける方法ですが、松井さんと緋田さんにそれぞれファンドを準備してもらって、それらのファンドにコリンシアン弐号から送金すると言うことにしたいと思うのですが、よろしいですか」
決算期まで分配することができないと言うことは無く、また貸付先をファンド名義にすると組合に出資していることになっている松井と緋田の名義と異なってしまうために相殺の手続きも面倒になる。私の見立てでは中澤がいたずらにスキームをややこしくしたものと思われる。これらは実際にコリンシアン弐号に残っていた現金383億円との差額112億円について、松井や緋田に悟られないようにするためのものだったに違いない。しかし緋田はこのことに感づき中澤と交渉し、分配される現金を33億7000万円増額させており、クリスタル株も720株増加させている。また、このころには中澤と緋田の間で海老根に対する手数料は無しとすることの合意ができていた。
澤田が中澤に持ち込んだのは、2014年ソチ冬季オリンピックに合わせてロシアのソチ市に人工島を作るというものだった。この計画に合わせるように平成19年中は低迷し、平成20年1月17日に最安値19円をつけた東邦グローバルアソシエイツ(当時の商号:千年の杜)の株価は、その後同月21日以降、急騰し始め、最高500円を超え、約25倍にまでなってしまった。ロシア内の登記簿謄本によれば東邦グローバルアソシエイツはホマル社の授権資本における持分の80%を取得している。東邦グローバルアソシエイツにホマル社を紹介したのは、レオニード・モストボイと山本丈夫という人物だった。一方、中澤にこの件を持ち込んだのは澤田であり、澤田に話を持ち込んだのは駒栄と紙屋だったと私は効いていた。平成19年、2014年ソチオリンピック協力委員会が設立され、久間章生元防衛大臣が委員長に就任し、ホテルニューオータニで団結式が行われた。ソチ人工島計画事件に関し、風説の流布の疑いがあり、これに久間元防衛大臣が関与していたのではないかというものだったが、そもそもソチ人工島計画は詳しく記載したように実際に進めていたのだから、風説の流布になるようなものではなかった。
> なんかこのプレスリリース読んだことあるような気がするわw
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