中澤秀夫の所得税法違反で一斉査察なんですが、いまどちらですか?」 まずい、私がいたマンションはマルサが狙っている中澤が経営するコリンシアンパートナーズ株式会社が事務所を構えていたマンションと同じマンションだった。コリンシアンパートナーズの事務所は1801号室。私の部屋は1601号室で、部屋の作りも同じだった。
「いまマカオに来ているんですよ」口から嘘が突いて出た。「それは困りましたね、いつ戻られますか」
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ほっとしたのもつかの間、落ち着くまもなくピンポンと呼び鈴が鳴る。マルサだと思い、確認のため覗き窓から覗いてみる。やはりマルサと思われる見知らぬ男の人が2,3人通路をウロウロしている。早く立ち去ってくれることを願うばかりだった。幸い3,4回呼び鈴が鳴るがその後は止まった。ガサの場合、マルサがいきなり踏み込んでいく強制捜査を行うためには捜索する場所および押収するものを明示した裁判官による捜査差押許可状が必要となる。1601号室にまさか私が住んでいるとも思っていなかったので事前準備がなされていなかったらしい。
マルサは当然コリンシアンパートナーズの元代表取締役であった私の海外渡航に関しても事前に調査済みだったが、東京国税局を管轄している財務省とパスポートを管轄している外務省では担当が違うため、マルサがリアルタイムに出入国を知る事ができるわけも無く、私がマカオにいることを前提に交渉を進めなければならなかった。ただ、その後私が初めて東京国税局へ行った時には、東京国税局は海外渡航の最新履歴を照会済みで、この日、私が日本にいたことは判明していた
> 国税は最高権力を持っていますから、縦割り行政の縄張りすらも乗り越えてしまうのですね。くわばらくわばら。