ある時刻τと満期の2回だけ行使可能な最もシンプルなバミューダンをモンテカルロでバリュエーションしてみよう。
モンテカルロはとにかくごり押し手法なので、現在の株価Sから、ある時刻τでの株価をで発生させる。前回のヨーロピアンと同じだが、時刻を満期Tからある時点τに替えただけのことだ。そして、ある時刻τ時点での最適行使判断をしなければならないので、イントリンシックバリューはS(i)から即座に求まるが、オプション・バリューは、さらにもう一段、時刻τから満期Tまでの間のVolatilityを乱数を発生させ計算する必要があり、このS(i)から派生的にをすることで求まる。
よって、ある時点τでの最適行使判断を合わせて、現在価値に戻すとという二重構造になり、現在からある時点τまででn通りの株価が発生しており、その各点からさらに満期Tまでn通りの株価が発生するのでn^2個の乱数と計算が必要とされるので、n=10,000で設定してしまうと、合計で100,000,000個の乱数の生成と計算をすることになる。
次に、満期までのある特定の時点で250回途中行使可能なバミューダンのバリュエーションを考えるわけだが、これは事実上のアメリカンオプションである。
では、ある時点τで、継続価値と行使価値の比較を行った最適行使判断を、満期までの時間を250分割して、全時点で最適行使判断を行えば良いだけの話なのである。つまり、Treeの最小構成で見るとわかりやすくて、
満期の状態からバックワード・インダクションするわけだから、SuあるいはSdを使ってペイオフを計算し、一個前のS時点での期待値がpとp-1で計算できる。つまり、E(S)=p・Max(Su-X,0)+(1-p)Max(Sd-X,0)。これが満期からその一個前の時間に戻す時の式である。その一個前の状態ではこうして計算された継続価値であるE(S)と現時点の株価Sの行使価値Max(S-X,0)の高い方を取れるので、Max(E(S)、Max(S-X,0))で高い方を選択し、各時点でのオプション・バリューが定まる。そのオプションバリューOV(S)をもってもう一個前の時間に戻し、同様に継続価値と行使価値の比較を250回やれば、時刻t=0まで戻すことができるのである。
一方、モンテカルロで同様にやろうとすると、各判断ごとのモンテカルロ試行回数をpとすると合計試行回数がp^250というクレイジーな数値となり、最小のp=2の精度であっても、2^250なので、エクセルのRandで発生できる乱数の数2^15と比べると、乱数発生プログラムがオーバーフローしてしまいそうということがお分かりいただけたであろう。
各点最適行使の申し子、アメリカンオプションのために存在するようなTreeアプローチに対して、モンテカルロは、アメリカンオプション相性が悪い、いや、この手順では事実上計算不可能ということがお分かりいただけたであろう。もちろん、特殊な方法でバックワード・モンテカルロというのも、存在しないことは無いが、お抱えクオンツ部隊=数学者が10人以上在籍しているような超大手金融機関でも、実務上取り入れているか入れてないか・・・というくらいの代物である。ましてや、どうでもいいような規模のファイナンスの価格の正当性をチェックする零細の第三者評価機関が、バックワード・モンテカルロ? 絶対に無い。というか単なるアメリカン・オプションなら、Binomial Treeで十分で、鬼のような工夫を凝らしたバックワード・モンテカルロで評価する必要もないからだ。
怪しげなファイナンスの一例としてよくあるのが、第三者割当先に対しての有利発行が疑わしいファイナンスがある。価格の不透明性を上げるために使われるデリバティブの典型例は、Convertible=新株予約権付社債(=昔は転換社債と呼んだ)、もしくは、Warrant=ワラント=新株予約権で、この付随する予約権の行使型はAmerican型の任意のタイミングで行使可能であることが多い。このデリバティブの引受価格の正当性を”評価した”と言っている手法が、モンテカルロと言っている場合、まずその評価機関はデリバティブの評価を全くわかって無い素人、つまり詐欺師が適当にフカシこいているだけ と判断して良いだろう。
初心者諸君、あるいは株の人たちは、このくらいの理解で十分であろう。しかし、デリバティブの人間は、怪しげなファイナンスがポジションとして発生することもあるので、ポジションの管理に際して、Treeモデルにおける最も基本的なリスク・グリークの計算方法について少し言及しよう。
この先の文章を理解しよう・読もうという読者は世界広しといえども50人以下、理解できる人がさらに少なく、読者でこの程度のことなら知っていると言えるのは10人未満なのは確実だな。だからその40人と言う少数ヘビーユーザーのための記事なんだぞ。ここまで読めた読者諸君は偉い。
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3 Responses to アメリカン・オプションをモンテカルロするのが難しい理由 4/5 ~バミューダンのバリュエーション
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お久しぶりです、また先日はトラックバックありがとうございました。
自分が目にするファイナンス(ボロ株系)ではモンテカルロ法で第三者評価を行ったことになっているものが多いことから、(評価結果が正しいかどうかはさておき)ファイナンスの評価手法としてはモンテカルロ法が一般的だとこれまで思っていました・・・今回の記事でそうではないことを知り、大変勉強になりました。
今後の記事も楽しみにしております。
全く同じ株価の変動を再現しているのに、
0=>Tまでのものと、0=>t1=>t2….=>Tまでに分かれた時に全く違う精度が要求されるというのが興味深かったです。
ちょっと話がずれるんですが、前に、粒子の2重スリットの実験として以下のビデオをみたんですが、観察点が加わっただけで粒子の挙動が変わる(そもそも、このビデオの内容が理論として正しいかはわからないですが)というのを見て、ディリバティブ側(観察点)からの視点でUnderlyingの発生のさせ方が変わる(変わるわけじゃないですが、ニュアンスとして)点と似てるなとちょっと思いました。
モンテカルロで と書いておけば良いだろう。というようなノリのプロスペクタスが散見されるので書いてしまいました。
日本人のファイナンシャル・リテラシーがあまりにも低く、先物(Future)と先渡(Forward)の区別もつかないくらいので、詐欺師たちになめられている証拠です。私のブログでは限界があるので、こみけさんの明快な記事で、リテラシーの底上げを期待しています。
> 粒子の2重スリットの実験
これ、次元が違う話でしょう…。単に時間に神経質だから秒針を作りましたって話と、不確定性原理はあまりにも…。
「俺がこの牌をツモるまで、この牌は確率的に変動している…」
「あのー、不確定性原理を勘違いされてませんか?」