ラスプーチンは、まるで中世の昔からぬっと現れたかのように、ぼろをまとい、薄汚れた姿で、得体の知れないことをつぶやきながらサンクト・ペテルブルクにやってきた。何年も放浪生活を送ってきた人間であることは一目見て明らかだった。彼は食べ物でいっぱいに膨らんでいるように見える乞食ポケット付の灰色の安物外套を着ていた。ズボンはぼろぼろ、尻の部分は「ほころびかかった古いハンモックのようだった」とイリオドルは書いている。ズボンの下から見える黒いタールを塗った農民ようのブーツはやがて、彼の誘惑道具の1つとなり、上流社会の婦人たちを抱擁した時に、そのスカートに記念の徴の黒い染みを残した。居酒屋の給士のように無造作に中わけしたボサボサの汚い髪は、もつれた長い髭と絡み合って、まるで青白い顔に黒羊の皮を貼り付けたかのようだった。青い唇の上下には口髭が「2本の使い古したブラシのように」突き出していた。もじゃもじゃの眉毛の下のくぼんだ目は青みがかった灰色で、怒ると目つきが鋭くなる。丸っこい爪は汚れていて、手はあばただらけだった。彼の身体は「なんとも言えない不快な匂い」を発散していた。