鉄鋼業界 ニューコア
鉄鋼業界は、鉄道と石油の後を継いで、19世紀終盤から20世紀後半にかけて米国の産業界を支配した。上場時の規模でみてユナイテッドスチールを上回る企業は未だに現れていない。1901年に上場を果したときの時価総額が14億ドルだった。米国の上場企業で時価総額が10億ドルを越えた第一号だ。ベスレヘムスチールの創業は1857年にさかのぼる。USスチールとベスレヘム・スチールとは、米国経済の電源であり、両社合わせて国内鉄鋼需要の約半分を供給していた。だが1970年代前半から、外国メーカーとの競争が始まった。国内の鉄鋼労働者数の推移を見ると、第二次大戦中の100万人から、2002年には14万人まで減少している。2002年ベスレヘムスチールは破産法を申請し、歴史に幕を閉じた。逆風を突いて、卓越したリターンを達成した会社がある。ニューコアだ。他者に先駆けて電路製鋼技術を採用し、鉄スクラップの再利用の草分けとなった。平均17%のベースで売上を伸ばし、いまや業界第2位の地位にある。
ニューコアの製鋼の理由を「破壊的技術」の採用に見る向きが多い。つまり「鉄鋼大手」に代表される、過去の巨大企業を転覆させる新技術を採用したために成功した。だがジム・コリンズは『ビジョナリー・カンパニー』で、こう述べている。
我々が偉大な企業への飛躍をもたらした要因を5つ挙げるように求めたとき、ニューコアCEO、ケン・アイバーソンは、技術力を1位にはあげなかった。2位にもあげなかった。第三位でもなかった。第4位でもない。では、第5位だろうか。これも違っていた。「主要な要因は、会社の一貫性、組織全体に我々の考え方を浸透させる能力、それを可能にした要因として、経営階層がなく官僚主義がない組織だ」


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ケン・アイバーソンは自著「真実が人を動かす ニューコアのシンプル・マネジメント」で
ほとんどの企業では、いまだに不平等がはびこっている。企業階層の最上部にいる人たちが、自分たちの特権を次々に作り出し、実際の仕事を担っている従業員に特権を見せびらかしている。そうしておいて、経費削減や収益性向上を経営陣が呼びかけても、従業員はなぜ付いて来ないのかと首をひねっている。経営階層の最上部にいる人たちが、階層制によって従業員を常に抑えつけていながら、従業員の動機付けに巨額を投じていることを考えるたび、私は信じがたいと首をひねっている。
配当と企業統治
エンロン危機が株式市場の信任を揺さぶったのは2001年秋。まもなく投資家は、会計を操作していたのはエンロンだけではないことを知らされた。タイコ、ワールドコム、アデルフィア、ヘルスサウスなど、投資家の拍手喝采を浴びていたいくつもの企業が決算を偽っていた。優良の中の優良、ゼネラル・エレクトリックさえ、会計手法の一部を問題視された。ただし、不正会計スキャンダルが次々に明るみに出たとはいえ、私の見方では企業経営陣の大多数はいまも倫理基準を失っていない。本当の問題は次の点にある。株式価値の最も基本的な源泉であるはずの配当が軽視されている。軽視を招いたのは、短期的な株価の動きに一喜一憂する投資家であり、米国の税制であり、行き過ぎた経営陣向けストック・オプションだ。この3つこそ、投資家信認危機を引き起こした真犯人だ
2003年5月27日、ブッシュ大統領は「2003年雇用と成長のための減税調整法」に署名した。配当減税とキャピタルゲイン税率を15%まで引き下げる減税策が主眼だ。マイクロソフトのケースを見ればわかりすぎるほどよくわかる。2003年1月16日、ブッシュ大統領が配当減税案を発表して1週間後。マイクロソフトは、創業以来初の配当支払いを発表した。1株につき8セント。利回りで見れば低水準だが(1%の1/3以下)、かなり大きな前進だ。だがマイクロソフトはこのとき、同じくらい重要な決断を下していた。従業員向けストックオプションの廃止だ。同社は以降、取得権(オプション)ではなく、普通株でインセンティブ報酬を供与するという。このストックオプション制度廃止がなければ、1年後の2004年に1株当たり3ドルの特別配当を発表することもなかっただろう。オプションで儲かるか損するかは株価次第であり、配当は関係ない。配当が支払われれば、株式保有者のリターンは上昇するが、オプション保有者にとっては何の意味もない。
経営陣向けストック・オプション制度は、1990年代半ばに急激に普及した。1993年に議会が新法を成立させ、損金参入が認められる役員報酬の上限を100万ドルとしたからだ。だが企業側はこれに対し、経営幹部の報酬は成功報酬型でなければ増益はおぼつかないと反発した。そこで議会は役員報酬に上限を設ける法律を成立させ、同時に、インセンティブ型報酬は上限規定の適用を受けないとの一条を盛り込んだ。追って内国歳入庁が、オプション付与はインセンティブ型報酬に分類されると規定した。これで水門が開かれた。これが強い要因となって、CEOらは配当を引き下げるようになり、役員報酬の高騰を押さえることが目的だったはずの法律が、役員向けストックオプションの氾濫を招き、やがて短期的な株価変動に焦点が集まって、株主の長期的な利益はどこかに行ってしまった。私の見方では、過剰のオプション発行を抑制したいなら、オプション費用の経費計上を義務付けるのが近道だ。議会には現金報酬の税控除に上限を設けた1993年法の廃止を薦めたい。
当期利益は本物か? 利益の定義
利益とは、当期純利益とも収益とも呼ばれ、ようするに収入から経費を差し引いた差額を言う。ただし、単純に「売上から出費を差し引く」だけで利益が確定できるわけではない。経費や収入の項目には、設備投資や減価償却や、先渡し契約など、幾年にもまたがるものが多いからだ。しかも経費にも収入にも、キャピタルゲイン、キャピタルロス、大型再編経費といった、一度限りの特別項目があり、これが加わると経常的な利益が見えにくくなる。経常的な利益とは、持続可能な利益と言い換えられ、企業のバリュエーションにあたって決定的に重要だ。こうした問題があるため、利益を定義する唯一の「正しい」概念はありえない
利益の質
利益の質を評価したいとき、発生主義会計に基づく利益を調べるのが、一つの方法だ。これは会計利益からキャッシュフローを差し引くことで算出できる。発生主義会計利益の水準が高い場合、利益を操作している可能性があり、将来に問題が起こる兆しとも考えられる。逆に、発生主義会計利益が低い企業は、利益を保守的に評価している可能性が高い。
> そうだね。キャッシュフロー計算書は私も重視している。発生主義会計に替わって、私は評価性利益と実現済み利益としているが、キャッシュフローを伴っていない利益は、不正会計の温床、ありがちなバランスシート上の項目でいうなれば、商品(仕掛品や在庫)、売掛金、過剰な設備投資による土地や工場などの設備、そして子会社株式である。
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