さて、先日は指数の説明が長くなってしまったが、先物自身を見つめてみることにしよう。
http://www.cffex.com.cn/zjs_en/flfg/zjsgz/
なんだか工事中であんまり詳しく書いていない。
中国語では書いてあって、日本人かつ専門知識があれば気合で読みきれるのでTryしてみて欲しい。
http://www.cffex.com.cn/sspz/hs300/
SQは毎月第三金曜日
では実際に見てみることにしよう。
SHSN300Fut.png
建っているのは、5,6,9,12月の四限月。商いは直近の5月モノで、10万枚オーダーの出来がある。
Contract Sizeは300倍なので、指数値3000ポイント×300=900,000CNY
1枚あたり約1000万円Equivalentとなる。よって出来高換算で言うと1-2兆円は出来ていることになり、早速
日経先物に追いつかんばかりのご盛況である。期先もそれなりに出来高がある。
お気づきの読者は多いだろうが、この先物のValuationについてどうだろうか?
配当0だとしても・・・なんでこんな高いの? と思った読者は私と同じ感覚である。
配当は約1%。金利もSHIBORだろうがDepoだろうが、1-2%程度である。この先物価格からImplyされる金利は、
20%前後ある
ことになる。この先物、規制によりリテールのみが参加できる状態で金融機関は参加できないようなのである。
ではプロである貴君等はここでArbitrage Portfolioを考えることになるだろう。
先物が高いのだから、先物を売り、現物を買う。
+株式収益-先物収益+配当-金利となるわけであるが、中国の貸出金利の状態はよくわからないので手金でやることに
しよう。いずれにしても年率20%とあらば金利・配当など、この際無視しても構わない。ではこのArbitrageで気をつけ
なければならないことは何だろうか。
・株式・先物売買手数料
・300銘柄同時発注インフラ
・株式Basket/先物のAsk/Bid Spread
・株式BasketのTracking Error
仮に1000万元(1億円強相当)というIndex Arbitrageとしてはかなり小さな金額でBasketを組むことにしてみよう。
金額が小さいと最小売買単位に引っかかり、Indexと実際に持っている株式Basketのパフォーマンスが乖離することがある。
これを一般にTracking Error(以降T.E.)と呼ぶが、この種のArbitrageの基本である。
1000万元を株式Basketに時価総額加重で割り振ってみたところ、驚くべきことに、全ての銘柄に割当が存在すること
がわかった。CSI300採用銘柄の最小取引単位は100株に統一されており、値ぐらいは、4-120元程度で、その殆どが
5-30元程度である。すなわち、10元×100株=1000元(約1万円強)で刻めることから、T.E.はかなり限定的であ
ることが想像できるだろう。でも、さすがに100万元(1000万円強相当)の場合は、割当0の株が時価に対して30%ほど
存在してしまい先物現物間の小さなSpreadに対してTrackを期待するのは無謀と言えよう。
また同時に株式BasketのAsk/Bidも調べることができる。IndexのBasket買いとなるわけだが、実際に買う時
にはこのSpreadはコストとして払わなければならない。が・・・、見てみると狭い。実に狭い。10bps程度だ。
その要因は中国市場の刻み値で、1毛(元の100分の1)単位で、クォートを見ても一つ一つの銘柄のSpreadが1毛
しかないような銘柄ばかりであり、その和である株式BasketのAsk/Bid Spreadも狭いのである。
残るは、2つの問題であるが、これが個人口座(リテール)だとかなり厳しいのが現実である。
例えば、発注手数料が、0.3%だとしよう。
先物とCash IndexのSpreadが1ヶ月で1.5%あるとした時の収益は、
先物現物Spread - 金利 + 配当 - 取引手数料 - T.E. – Ask/Bid Spread
となるので、(1.5%-0.3%-0.1%-0.1%)×12回として、年率12%程度まで下がってしまう。
2ヶ月ものが3%あるならば、(3.0%-0.3%-0.1%-0.1%)×6回=15%となり、期先の先物が効率が良いことになる。
300銘柄同時発注インフラも厳しいのであるが、これを回避する方法が無いわけではない。答えは誰しもが思いつくETF
と先物間のArbitrage
である。CSI300のETFは複数上場されており、オフショア上場もあるので、外国人でも
参加できる。ETFと株の違いは何か? これはETF自身が持つ流動性プレミアムで変動するという新たなMarket Risk
が存在する
ことだ。NAV(Net Asset Value)に対する時価は、常に変動し、一定ではなく、ETFが原株引受
(Physical Settle)ができない場合、ETF購入時よりも時価-NAVが低くなってしまう(Discount)と
このArbitrageの収益性の根幹が揺らいでしまう。詳しく調べたわけではないが、通貨と株に対する投資家別取引規制
が存在する中国株の世界で、通貨も違うオフショア上場ETFが原株引き落としができるとは到底思えないのである。
ここまで話しておいて何なのだが、この面白いArbitrage提案に必要な、最も重要な権利は、A株に対する発注権、
つまり外国人である我々にはQFII枠、それから、先物に対する発注権、すなわち個人口座の開設である。
このArbitrageのために中国人と結婚して、がんばる手も考えなくも無いが、相手を探している間、元を調達している間に
制度変更があり、Spreadが無くなり、残ったのは、売れない元と使えない嫁なんて結果になったら目もあてられない。
これぞ、本当の意味での”Country Risk”をとったArbitrage! 
ちなみに、このブログ上にはカテゴリーというのが存在するが、この記事はデリバティブではなく、”株のカテゴリー“である。
ガンマ無き者はデリバティブに非ず。お後がよろしいようで。
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