陸羯南(くがかつなん)は親友の加藤恒忠から正岡子規をあずかり、子規の東京遊学中のことについては責任を持たされている。その子規が落第して退学したとあればフランスにいる加藤に申し訳が立たぬように思えるのである。叔父の加藤恒忠も陸羯南も司法省法学校の3年生のときにストライキを起こし、退学を命ぜられた。子規の場合よりも不穏であり、とても子規を説諭できない。そのときのストライキで退学させられたものは16人にのぼった。原敬、国分青崖、福本日南、陸羯南、加藤恒忠らである。ふしぎなことに退学組のほうが、明治大正史にその存在をとどめた。福本日南をのぞいて日本の在野史学は論ぜられないし、国分青崖をのぞいて明治大正の漢詩は論ぜられず、陸羯南をのぞいて明治の言論界は論ぜられず、のちに平民宰相といわれた原敬をのぞいて近代日本の政治は論ぜられないであろう。
> 時代が古すぎて現在と制度は異なるのだが、正岡子規も秋山真之も東大。大学予備門(旧一高のさらに前身)。へー。ここで出てくる司法省法学校も、東大法学部の前身ということらしい・・・。
「小村寿太郎の清国観察」と題すべきもので、当時の北京の様子が視覚的に浮かんでくる。「北京の人口は200万というが、実際は80万余にすぎない。戸数は10数万。みな平屋である。道路はわが東京の上野御成道ほどのひろさのものが2,3ある程度で、それも道路の両側に露店が並び、はなはだ窮屈である。その道路には人道と馬車道とがある。露店はその主がそこに泊まりこむから一戸の家と変わらない。道路は古来のまま状態で修繕ということをしないからデコボコであり歩行ははなはだ困難である」
> 現在のジャカルタである。
2015.10.22 第5次ジャカルタ攻略 4/5~危険な道路《重要!読め》
日本は国が小さすぎたが、しかし清国との戦争に勝とうとした。勝つには、勝つためのシステムと方法があるであろう。そのシステムと方法こそ、参謀本部方式というべきものであった。プロシャ主義である。これについてはプロシャ陸軍の参謀少佐メッケルが教えた。さらにそれをより多く知るために多くの英才がドイツに派遣された。そのなかでの最大の人物は、この当時、陸軍の至宝といわれた川上操六であった。彼は明治20年1月にドイツに派遣され、ほぼ1年半ベルリンに滞在し、参謀本部の組織と運営を研究し、帰国後参謀次長に再任した。この帰国後、この薩摩出身の軍人の思想はプロシャそのものになったといっていいであろう。国家のすべての機能を国防の一転に集中するという思想である。たとえば、鉄道である。鉄道は海岸をも通るが、川上はこれを不可とした。
「敵の艦砲射撃をうけるではないか。一朝有事の際、軍隊輸送がそれによって大いに阻まれる。鉄道はよろしく山間部を走るべきである」
明治25年、かれは鉄道会議議長となってこれを主張した。この当時、東海道線は既に開通していたが、中央線、山陽線その他は敷設計画中であった。9月、鉄道の主管大臣である逓信大臣黒田清隆の官邸でその会議が開かれ、逓信省側がその精細な実測図と計画案を出したが、川上はこれに異論を唱え、「海岸暴露線はやめよ」とあくまでも主張し、川上の意見を通すとなれば山間にトンネルを無数にほらねばならず、そのための経費が膨大になるという理由で、会議は大いに紛糾した。
川上の反対者は陸軍大臣大山厳であった。「そういうばかなことをすべきでない」 大山は川上と同じ薩摩出身の陸軍幹部ながら、その教養をフランスで受けたために発想の方法は多分にフランス的であった。「なるほど我が国は将来、他国と戦いをするかもしれない。しかし世界中を相手に戦いをするということはありえず、常に同盟国があるはずであり、その海軍の援助も受けうる。それに鉄道は国民の便利のためにあるものであり、軍事輸送を眼目におくなどということはあるべきではない」
「どれだけの兵を韓国に派遣するつもりか」と、伊藤。
「一個旅団です」 川上はさりげなく答えた。伊藤はその程度ですら不満であった。多すぎるな、といった。
「いいかね、もう少し兵数を少なくするのだ」
「閣下、お言葉ですが、それについてはうけあいかねます」
伊藤の命令には従わぬという。首相に対し、参謀次長が胸を張ってこのようにいうについては法的根拠があった。伊藤が作った憲法はプロシャ憲法をまねしたものであり、それによれば天皇は陸海軍を統率するという一項があり、いわゆる統帥権は首相に属していない。作戦は首相の権限外なのである。このことはのちのちになると日本の国家運営の重大課題になっていくのだが、そういう憲法を作ってしまった伊藤は、はるかな後年、軍部がこの条項をたてに日本の政治のくびを締め上げてしまうに至ろうとは思わなかったであろう。
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