騎兵というのは、どういうものか。幕末、幕府はフランスを規範とした洋式陸軍を作ったが、騎兵科は設置しなかった。一つには騎兵が理解できなかった。「歩兵は分かりやすい」と好古はいった。歩兵は徒歩兵で小銃を持ち、集団で進退し、的に対して小銃弾をあびせ、躍進して肉薄し、あとは銃槍や白刃をもって斬りこむ。砲兵も分かる。大砲を撃つ兵種である。
「すると、源平合戦や戦国の合戦に出てくる騎馬武者というのは騎兵ではありゃせんのかな」
「ちがうな」 好古はいった。
あれは歩兵の将校が馬に乗っているというだけのことだ。騎兵ではない。本当の騎兵を日本史に求めるとすれば、源義経とその軍隊だな
好古にいわせれば、源平の頃から戦国にかけて日本の武士の精神と技術が大いに昂揚発達し、世界戦史の水準を抜くほどの合戦もいくつか見られるが、しかし乗馬部隊を集団として用いた武将は義経だけであった。