サレーニオとサリーリオ、あるいはサリーリオとサレーニオ-お互いに取替え可能な名前を持ち、お互いに取り替え可能しか台詞しか述べることの無いこの二人の友人は、まさにその取り替え可能なことゆえに、アントーニオの友人の中で最も取るに足りない人物であることを象徴している。そして、実は、この取るに足りない二人の男たちの取るに足りない台詞によって、『ヴェニスの商人』のテキストはそれ自身をめぐってその後なされた数限りない批評の取るに足りなさを先取りしているのである。たとえば、アントーニオの憂鬱とは一体どのような内面における原因に基づくものであるかを検索したり、かれと対立するユダヤ人シャイロックの性格が滑稽な悪役として描かれているのかそれとも悲劇の主人公として描かれているのかを決定しようとしたり、『ヴェニスの商人』という劇において作者シェイクスピアは一体何を言わんとしたのかを吟味すると言った類の批評を。
利潤とは、詐欺、ペテン、泥棒、掠奪といったまさに不等価交換が行われているところでしか生み出されえないものなのであろうか?利潤とは、等価交換からは決して生み出されないものなのであろうか?この問いに対する答えは、しかし、否である。実は、あくまでも等価交換の原則にもとづきながらも利潤を生み出すことのできる場所が、いわば場所ならぬ場所において存在するのである。二つの異なった価値体系の狭間-それが、そのような場所、いや非場所である。すなわち、お互いに異なった二つの価値体系の間を媒介して、一方で相対的に安いものを買い、他方で相対的に高いものを売る-それが、等価交換のもとで利潤を生み出す唯一の方式である。利潤とは、価値体系と価値体系の間にある差異から生み出される。利潤とは、すなわち、差異から生まれる。
たとえば、遠隔地交易に代表される「ノアの洪水以前から」の商業資本主義とは、地域的に離れた二つの共同体の間の価値体系の差異を媒介して利潤を生み出す方法であり、いわゆる産業革命以降に確立した産業資本主義とは、生産手段を独占している資本家が、労働力の価値と労働の生産物の価値との間の差異を媒介して利潤を生み出す経済機構であり、いわゆるポスト産業資本主義的な形態の資本主義においては、新技術や新製品のたえざる開発によって未来の価格体系を先取りすることのできた革新的企業が、それと現在の市場で成立している価格体系との差異を媒介して利潤を生み出し続けている。実際貨幣の無限の自己増殖をその目的とし、利潤の獲得をその動機としている資本主義にとって、差異さえあれば、それはどのような差異であってもかまわない。
マルクスによれば、商品交換の場である市場(マルクスはこれを「流通」と呼ぶ)は、「真の天賦人権の楽園」である。なぜならば、ここにおいてのみ、自由と平等と所有とベンサムが支配しているのだ。自由-なぜならば、商品・・・の買い手と売り手もともに自らの自由意志にのみ制限されているからである・・・。平等-なぜならば、彼らは・・・等価物同士を交換するからである。所有-なぜならば、彼らはそれぞれ自分のものだけを自由に処分するからである。そしてベンサム-なぜならば、彼らはそれぞれ自分のことのみを気にかけていれば良いからである。
この流通の場において、いかに剰余価値あるいは利潤が発生するのであろうかと、マルクスは自らに問いかける。もちろん、使用価値に関しては商品交換によって買い手と売り手は双方に得をしているはずである。さもなければ、取引を強要されていない限り商品交換は成立しない。しかし、交換価値に関してはまったく別である。商品交換は、その純粋形態においては等価物の交換にほかならない。そして「等しい交換価値を持つ商品同士、あるいは商品と貨幣、すなわち等価物が交換されているならば、明らかに誰にも流通の中に投じた価値以上のものを流通から引き出すことはできない。剰余価値の創造はありえないのである」。
産業資本主義経済の中には、二つの異なった「価値体系」が共存していることになる。一つは内なる遠隔地で成立している価値体系であり、具体的には市場における労働力と必需品との交換比率である。それは、労働者、資本家ともどもに共通に開かれているものである。もう一つは、生産過程における、労働力、原材料および生産手段とそれらの結合によって生産される必需品および生産手段との間の交換比率である。この2つ目の価値体系は、生産手段を所有している産業資本家にのみ開かれたものであり、自らの労働力のほかに売るべき商品を持たず、従って生産手段から切り離されている労働者に対してはまったく閉ざされたものなのである。それゆえ、生産手段を所有しているがゆえに、2つの価値体系に同時に接触できる産業資本家は、それらの間に存在する差異を利潤という形で搾取することができる。ここに剰余価値が発生するのである。
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