1999年、夏。僕が東京都足立区で10年以上前に起った殺人事件の犯人ではないかと、疑いがもたれているとマネージャーから聞いた。
本の表紙の顔写真はテレビで見たことがあるAという人物だった。「まさか、本当にあんなことは書いてないだろう」 見逃さないようにゆっくりとページをめくると、文面には刑期を終えた犯人のその後の消息に触れ「犯人の一人は出所後、お笑いコンビを組み、芸能界デビューしたという」といった内容が書かれていた。半信半疑のつもりで読んでいたのに、本当にこんなことが書いてあるなんて…。本にはお笑いコンビの名前はおろか、取材をした経緯や情報元も一切無い。存在を証明する証拠が何一つ記載されていなかった。こんなことが書いてあれば、その「お笑いコンビ」が誰なのか、気になる読者も当然出てくるはずだ。僕は1999年からネット上で殺人事件の共犯者にされ、デタラメな情報が書き込まれている。この本を読んで「お笑いコンビ」の殺人犯が気になった人はマスコミが取り上げなければ、ネットで検索する。そうすれば、僕の名前がヒットしてしまう。これは被害妄想ではない、明らかな風評被害だ。本の発行日を見ると「2005年1月21日」とあった。沈静化した噂がなぜ再燃したのか、これでやっと謎が解けた。「あいつら、遊びじゃなかった…。本気で殺人犯だと思い込んでいる…」
しかし元警視庁刑事と名乗る人物がこんなことを本に書けば、ネットに書き込まれたデタラメな情報と、本に書かれたお笑いコンビの殺人犯があまりにも酷似しているので、僕に関する事実無根の中傷が、真実のように化けてしまう。
第一線で活躍している現役の刑事のお二人から、元警視庁刑事と名乗るAという者の正体と、警察の人事や仕事の内容について教えてもらった。「お巡りさんだってさ、私服に着替えて刑事課とか公安の仕事を手伝う時はあるからね。でも刑事部とか公安部の事件に携われば、『元刑事』『元公安』って本人が言っても嘘にはならないんだよ。捜査本部が設置された時、捜査員にコピーを配る仕事を一度でもすれば、その時は刑事部の一員になるんですよ。菊池さんの仕事に例えると、出演していない映画をプロフィールに書けば経歴詐称になってしまいますが、通行人の役で一瞬でも出ていれば、プロフィールに映画の題名を記載しても経歴詐称にならないのと同じです。殺人事件が起きたらさ、マスコミとか野次馬を現場に近付かせないように、交通課の人間が道路を封鎖するんだよ。その時は交通課の人間も捜査一課の一員になるからね、極端な話、交通課にいた人間だって『私は元捜査一課です』って言っても経歴詐称にはならないの。警察にいた人間なら、ほとんどの人が元刑事っていえるんじゃない」
弁護士が言うには「インターネットの掲示板に書き込んだ発信者を民事訴訟で割り出すのは相当な根気と労力が必要」とのことだった。中傷の書き込みをした人物を特定するには、掲示板の管理者と接続業者を相手に二度の訴訟を起こさなければいけない。最初に掲示板の管理者と民事裁判をし、発信者のログを開示できたとしても、次に接続業者と裁判をした際、裁判所が発信者の「個人情報」の開示を認めなkれば、今までの訴訟が水の泡になる。裁判をしたからといって絶対に身元がわかるとは限らない。それならいっそのこと身元がわかっている出版社「B社」と裁判し、いかに風評被害に遭っているかを相手側に訴える方法もあると教えてもらった。
中野署のO警部補が「こんなに長い間やられて…。何で今まで警察に来なかったの?」
8年前、ネットの書き込みをした人は見つからないと警察で言われたこと、元警視庁刑事と名乗る者の本のこと、ここにたどり着くまでの間に何があったかをO警部補の前で洗いざらいぶちまけた。
「そうですか、うちでそんな対応をしてたんですか、本当に申し訳なかったです。誹謗中傷や脅迫はネットだろうと関係ありません。れっきとした犯罪です。必ず検挙しますから、安心してください。コメント欄に殺人事件の犯人だとコメントしてきたら、うちで引っ張ります。ネットは発信者の証拠を残すから、足跡をたどっていけば誰がやったのか、わかるんですよ。発信者の身元を割り出すのはそんなに難しい捜査じゃないんです。」
2008年8月15日、ブログで事件との関与を否定した。刑事告訴すると警告した直後、一番乗りで中傷のコメントを4件も投稿してきた得体の知れない者の正体は、有名国立大学の職員と判明した。インターネットで他人を中傷する行為や、コメント内容をそのまま職場で話せば、同僚や学生から人間性を疑われるだろう。世間に思いっきり溶け込んでいる人物ということに面食らった。
O警部補が男性に電話して犯罪行為を尋ねると「そんなの知らない、やってない」と否定し続け、シラを切っていたが、契約しているプロバイダ名(インターネット接続業者)、ブログに投稿した時刻、コメント内容の話をすると、観念した様子で素直に認めたらしい。中傷をしていた男性も電話口で「二度としません」と反省した態度をとっていたらしく、後日、警察署に出頭すると約束した。O警部補は落ち着いた様子で「本人もかなり反省していたので、もうしないと思います」と言った。だが、その考えは甘かった。
2ちゃんねるを覗くと、削除されたコメントとは別の書き込みを目にして驚愕した。8月15日のブログで刑事告訴しますと警告したが、中野署とは一言も触れていない。それが「中野署まで来い」と書き込んであった。この日の出来事を知っているのは、O警部補たちと、犯罪事実を告げられた「N」と僕しかいない。「二度としません」と言っておきながら平然とまた中傷を書き込む。
この男性は警察への出頭要請では済まなくなった。自宅の玄関の前に数人の警察官が現われ、本人確認と犯罪事実を告知する。捜査差押え許可状を読み上げた後、使用したパソコンを押収し、身柄を確保された。
2008年11月、もう一人の人物の身元が判明した。パート事務員の女性(当時23歳)、この女性は警察での取調べで、掲示板のデタラメな書き込みを本気で信じてしまい、「人殺しが許せなかった」と話し、O警部補がすべて事実無根だと説明すると「妊娠中の不安からやった」と供述したらしい。
2009年1月上旬。O警部補から「捜査対象人物の身元がすべて判明した」と連絡を受け、中野署に行った。誰一人聞いたことのない名前ばかり。北海道から大分県まで、上は46歳から下は17歳の男女。半数近くは30代後半の男性だったが、その中に女性が複数含まれていた。「事件をネタにしたのが許せなかった」と供述した者もいたが、O警部補が「そのネタを見たのか」と質問すると「殺人事件をテレビやライブでネタにしたとネットに書いてあるから」と言い、実際に誰一人ネタを見ていない。もちろん、やってもないことなので、見られるわけがない。
O警部補から摘発を受けた人物たちの印象を聞く。「どこにでもいる、おとなしそうな感じだったよ」これが「人殺し」「強姦の共犯者」と中傷した18名の正体。
突然、僕は殺人犯にされた ~ネット中傷被害を受けた10年間 スマイリーキクチ 竹書房 2011-03-22 |
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