在日米軍基地の法制上の根拠は、日米安保条約と同条約6条に基づく米軍地位協定である。基地は、いうまでもなく在日米軍の活動を支える人的物的施設であるから基地をめぐる法的諸問題については、米軍の法的地位を含めて全体として考察しなければならない。米軍の日本国内における駐留と軍事基地の存在およびそこでの米軍の行動を保障する法体系は、いわゆる安保体制あるいはサンフランシスコ体制と呼ばれる日米間の条約による「安全保障」にかかわるもので、前述の安保条約および地位協定を頂点とする関連条約および国内特別法等によっていわゆる安保法体系を形成している。安保法体系は条約と名付けられたものだけでなく、「協定」「交換公文」「議定書」「合意議事録」「往復書簡」等さまざまな名称のものがあり、これらはいずれも日米両政府間の合意に基づくものである限り、その名称の如何にかかわらず条約としての効力を有するものであって、その内容はかなり複雑であり、また通常の国内法と交錯していて一般国民にとって極めて分かりにくいものとなっている。
日米両国間の裁判権帰属を分かつために重要な「米軍人の公務」中の行為であるか否かに関する証明は「被疑者が所属する部隊の指揮官から提出されるものとし、その証明書は反証の無い限り公務中に属するものであるという事実の十分な証拠資料となる」としている。公務中か否かを十分認定する手段を持たない日本側にとって、アメリカの軍人が犯した犯罪の裁判をアメリカ側の一方的な「公務」証明書によって処理されることを意味している。
基地に関する経費の負担については、地位協定24条において、基地及び路線権の設定や提供に必要な経費は日本側の負担になるが、基地の使用を含めて米軍の維持にともなうすべての経費は米側の負担とすると定められている。ところが、日本政府はいわゆる「思いやり予算」として、昭和53年度から駐留軍労務費のうち福利厚生費等を、また昭和54年度から給与のうち国家公務員を越える部分および基地内の老朽隊舎の改築、家族住宅の新築等の費用を負担するようになり、さらに昭和62年1月30日、日米両政府の特別協定により労務者の退職金、一時金等八手当の1/2を一般会計予算で負担するようになった。この思いやり予算についてはその内容と額がほとんどチェックされることなく拡大されてきたことが問題とされている。
上瀬谷通信基地は、横浜市旭区上川井町から瀬谷区瀬谷町にかけて広大な田園地帯の中に、アンテナ群、レーダー、兵舎、地下施設等の通信施設等の通信施設を有する面積242ヘクタール(国有46%、公有9%、民有45%)の米海軍所属の通信基地である。この基地の任務は「極東の海軍関係の通信、船舶の方位測定に当る」となっており、一見したところ規模の大きいこの種の通信施設の一つしか見えない。しかしこの基地は単なる通信施設の一つとしか見えない。しかし、この基地は単なる受信専用の通信施設ではない。このことは何よりも基地周辺の広範囲な地域に他に類を見ない厳しい電波障害規制が敷かれていることからもうかがわれるが、この基地の存在を改めて日本国民に印象付けたのは次の3つの事件からであった。第一は昭和40年9月24日の火災である。この日未明、基地内の地下施設から火災が発生、米兵12名が焼死、14名が傷害を負った。現場にかけつけた横浜市消防局の消防車に対し、米兵がカービン銃を突きつけて中へ入れず、遠巻きの放水に終わった。正門前でカメラを構えていた日本人記者は米兵に連行され、フィルムを没収された。焼死のほとんどは暗号表などの機密文書や重要機械持ち出しのため施設 に引き返し、煙に巻かれたらしいというのである。それだけではなく翌日基地の米兵が二人一組になって基地付近の日本人住宅街に入りこみ、火事で飛んできた燃えかすや灰を残らず集めて持ち去ったというのである。不気味な印象を住民に与えた。第二は昭和42年12月、米軍から日本政府に対し、北はキャンプ千歳から南は佐世保に至る全国12か所の基地周辺に新たに上瀬谷基地並みの電波障害規制区域を設けることを要求してきたことである。第三は、同年1月のアメリカ情報艦プエブロ号事件である。朝鮮民主主義人民共和国に拿捕されたプエブロ号乗組員の自供書によると「私の所属は上瀬谷アメリカ海軍安全団海兵隊支援大隊E中隊である。上瀬谷に居る無線盗聴手たちの任務は、共産国の海軍情報や外交情報を集めることである。そこでは3000人もの特殊な人間が働いている。」つまりこの基地は情報基地であり、スパイ訓練基地でもあったわけである。
危険な浦賀水道
工業開発の進展により、海の過密では世界でも最高クラスと言われている東京湾。その人口を扼する浦賀水道は狭いうえに、潮流も速く、暗礁も多い。古事記の倭健命と弟橘比売命の走水の伝説にも見られるように、古くから海上交通の難所として知られている。明治末から大正にかけて、「帝都防衛」のために海堡が築かれ、もともと狭い水道をさらに狭めることとなっており、現在の航路幅員は700メートルしかない。この過密で危険な海域にさらに輪をかけているのが、横須賀にある米海軍および海上自衛隊の基地の存在である。東京湾に入ってくる船舶は浦賀水道航路として定められた航路を右側通航で航行しなければならないが、横須賀港へ入港しようとする場合、どうしても、対向の航路を横切る形で左転しなければならないのである。昭和63年7月、死者30名の惨事となった海上自衛隊「なだしお」と遊漁船の衝突事故はこのような左転中の軍艦によって惹き起こされた点ものである点でその直接の原因がどちらにあったかは別として、まさに予想された事故だったと言えよう。
横須賀基地へ入港する米軍艦船はどのような取り扱いになっているのだろうか。米軍艦の中には原子力推進艦(潜水艦、空母など)も多い。その危険性は自衛隊のそれと比較にならない。この米軍艦船に、浦賀水道を通航する船舶が従わなければならない日本の国内法は適用されるのだろうか。
安保条約下の米軍艦船の地位
日本の領海を通航する外国艦船のうちアメリカ合衆国の艦船は安保条約およびこれに基づく地位協定によってほかの国の艦船とは異なる法的地位を有している。
地位協定5条等
1項は合衆国の船舶は入港料を課せられないで日本国の港に出入りすることができるとする。2項は、合衆国の船舶が米軍基地に出入りし、これらの間を移動し、およびこれらと日本の港との間を移動することができるとする。3項は合衆国の船舶が日本の港に入る場合には、日本国の当局に通告しなければならないとし、右船舶は強制水先を免除されるとする。
【治外法権領域】
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