Chapter4. トラストの時代 1880-1910
20世紀を迎えると19世紀のアメリカ全土をつないでいた通信と鉄道に代わって、テレビと自動車がアメリカ国民の生活に欠かせないものとなっていった。19世紀後半の鉄道建設の拡大は、企業の合併、再編を促進し、1885年以降、アメリカという国の様相は大きく変わり始めた。地方の中小企業は全国に世界中の製品の販売網を持つ大企業に吸収・合併されていった。大企業はカーネギーやロックフェラー、ヴァンダービルト、グールドたちが残した莫大な遺産に助けられ、アメリカ経済の集中を成し遂げていった。企業の合併が進むと巨大なトラストが生まれ、それがアメリカの個人主義と独立独歩の理想に挑戦してきた。トラスト活動が盛んになると、世間はトラストを成り立たせているものに意義を申し立て始めた。少数の人間の手にこれほど大きな経済力を握らせる必要があるのか、労働者を歯車としてではなく人間として扱うことができないのか、経営陣の圧倒的な力から労働者や市民を守る必要があるのではないかといった異議である。
しかし、資本主義とトラストは発展を続け、多くの崇拝者をひきつけていた。トラストという言葉がアメリカ英語で市民権を得たのは19世紀に入ってからである。この言葉はもともと合併(マージャー)と同義語として使われていて、しかも独占という言葉と強く結びついて使用されていた。このトラストという企業合同の組織に参加するとき、各企業はトラストが発行する証書と引き換えに自社株を譲渡する。そこで参加企業は収益を受け取る権利とトラストを運営する財産管理人を選挙する時の投票権を得ることになる。トラストは中小企業を買収しようと決めると、その会社の株主に持ち株の代わりとなる信託証書が株式の代わりとなり、しかも、その証書が証券取引所でも取引されるようになっていたのである。初期のトラストは南部の農業関係の企業に多く見られたが、ほとんど小規模のものだった。トラストが自己資金で賄われ、買収相手の企業も自己資金で運営されている時、投資銀行の出る幕は無くて蚊帳の外ということが多かった。ロックフェラーも金融資本主義を警戒し、企業規模拡大のための資金を手持ちの現金や信託証書で調達する道を選び、ウォールストリートを避けていた。
高金利の資金を借り入れ、利子の支払いは新しい借入金で賄っていたが、この手法は20世紀に入って「ポンジー計画」と呼ばれるようになるネズミ講式のものだった。その名称の由来となったチャールズ・ポンジーは、ボストンでイタリア系移民を自分が立てた投資計画に誘い込み、莫大な配当を約束した。配当金を従前からの出資者に渡す時、新しく計画に参加してきた出資者の資金を使っている。このポンジーの計画を明るみに出したのはウォールストリートジャーナルの記事で、どんな投資でもポンジーが保証した配当を生み出すことはできないことが数学的に明らかにされていた。
ポンジースキームの歴史は古い。21世紀になっても、この手法が繰り返されているとは・・・。
1890年代、ニュージャージー州が持ち株会社を認めたことで多くのトラストが組織を再編し、持ち株会社の傘下に収まることができるようになった。もともとトラストや持ち株会社は、同じ業種の企業が集まってできた水平組織だったが、時の流れと共にトラストは外へ外へと拡大していき、他の関連会社を合併して垂直構造をもつ組織になっていった。アメリカで初めて誕生したトラストであるサウス・インプルーブメント・カンパニーがもっとも質の良い顧客だったクリーブランドの石油精製会社もろとも鉄道会社との合併をおこなったとき、その狙いは組織の垂直構造だった。それに続くスタンダードオイルも同じ狙いで、石油精製のあらゆる分野に企業の合併によって事業を拡大していった。パイプライン会社や採掘会社を買収し、製品を直接販売するための施設も買い取っている。しかし、こうした独占的な勢力はさまざまな攻撃を受けることになった。シャーマン反トラスト法が成立する前からトラスト攻撃の兆候はあった。
19世紀後期に誕生した企業のなかで、この時代の代表といえるのはジェネラル・エレクトリック社とAT&Tである。エディソンもベルも発明によってアメリカの伝説的な人物となったが、どちらも経営や事業拡大していく能力に秀でていたわけではなかった。2人とも会社を設立した当初から、経営の専門家や外部からの資本調達に大きく依存していた。アレグザンダー・グレアム・ベルは1876年、電話の原型とも言える高周波電信機の特許を取得し、ほどなく電話を発明している。1877年、ベル・テレフォン・カンパニーを設立し、電話の大量生産を開始している。地方の会社とフランチャイズ契約を結んで全国的な電話網をつくり、ベルに特許権の使用量が入ってくるようにしようと考えた。しかし、その契約手続きが始まる前にベル・テレフォン・カンパニーは人手に渡り、新しい投資家に乗っ取られたのである。新会社の名前はアメリカンベルで、AT&Tという長距離通話の子会社も設立。しかし、地方の製造会社は親会社の製品をめぐって熾烈な競争を繰り広げていて、AT&Tを中核企業とする組織再編を行った。
エディソンの研究室は今で言うメーカーの中央研究所で多くの発明を生み出し、注目すべき発明は1877年に発表されたレコードプレーヤーである。2年後、白熱灯の電球が開発され、同研究所はさらに有名になった。この電球は都市に電力を供給する発電所の建設を目指す壮大なプランのスタートを意味した。この発電事業に関して、エディソンはJ・P・モルガン社から計り知れないほどの支援を受けている。モルガンの銀行はニューヨーク市で最初の電灯利用者となった。エディソン・ジェネラル・エレクトリック社は当時、3つの主要な電力会社があったが、そのなかでもっとも儲かっている会社だった。残りの2つはウェスティングハウス社とトンプソン・ヒューストン・エレクトリック社だった。
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