1941年、ホテル・ベルビュ(アメリカ・ワシントン)で死体で見つかった男は本名をたしかにサミュエル・ギンスバーグというが、クリビツキーという名前で知られるソビエトの元情報将校で、スターリンの手を逃れてアメリカに亡命してきた人物だという。
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1937年 東京丸の内、帝国生命館に事務所を構えていたナチス対外組織部、東京支部長ルドルフ・ヒルマンからベルリンに当てたもので「ハック博士について」と題された文章は「ハック博士は、飛行機の売り込みのため、日本軍部との関係を緊密にすることを第一の課題としているように見受けられる。この任務がドイツの国益にとって有益なることは認められるがハック博士については疑わしい点が続出している。1936年から日本に滞在、ドイツのどこかの部署から政治的な使命を与えられ、日本で活動していたのではないか。ごく最近、樺山伯爵からハック博士は日独防共協定の責任者であると聞かされたのもその一つである。これが事実だとすればハック博士自身、それ相応の秘密保持に努めるべきである。ハイル・ヒトラー」
初の日独合作映画「新しい土」撮影隊のドイツ側のプロデューサーであったドクター・ハックの行動に疑問を抱いたナチス東京支部の密告書である。ドクター・ハックが理由不明のままゲシュタポによって突然に逮捕されたのは、この報告書が書かれた4ヵ月後の昭和12年7月のことである。
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ドクター・ハックの名が海軍記録の中に始めて登場するのは1920年、三菱の技術者がヨーロッパを視察した際に、案内役として同行した時である。ハックの手を通して日本に輸入されたものは、ロールバッハの飛行艇、デュレネル・メタル、ウェルケのジュラルミンなどでその中で最大のものはハインケル社の航空機であった。ドイツ空軍が採用する以前に、新機種の設計図や試作機の情報をハックを通して日本海軍は入手することができたのである。
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防共協定案に日独双方で大きな思惑の違いがあった。ドイツ側としては防共協定を日本だけど結ぶのではなく、イギリスやポーランドとも結びたい意 向が強かった。ソビエトに対抗する西欧同盟といったものを構想していたのである。とりわけヒトラーはイギリスをこの協定に参加させることを強く望んでいた。これはドイツとだけ同盟を結ぼうと考えていた日本陸軍にとって受け入れがたいものであった。
1935年モスクワを舞台に開かれたコミンテルン(国際共産主義運動)の第7回大会は大きな戦術転換を行った大会として知られている。日本とナチス・ドイツの国際連盟脱退、ドイツの再軍備宣言、イタリアによるエチオピア侵入と、世界情勢は緊迫していく。ソビエトは国際連盟に加盟し、ヨーロッパ諸国との接近をはかった。同時にソビエトが指導するコミンテルンも世界革命から人民戦線の結成へと転換した。人民戦線とは、進歩的な勢力を結集して反動勢力に対抗しようというもので、そこには各国に人民戦線をつくり、親ソビエト政策を取るように働きかけることが、急速に台頭しつつあるファシズムと闘う有力な手段だとする、ソビエトの考え方が強く働いていた。
ヒトラーの関心はスペインに親独政権を作ることにあった。東と西から宿敵フランスをはさみうちにすることが可能となる。ヨーロッパで力を持ち始めた人民戦線派に大きな一撃を与える絶好のチャンスであった。これに加えて、スペインが産する鉄鉱石や水銀などの資源も大きな魅力であった。フランスのブルム首相はイギリスのボールドウィン首相と会談して「帰国がスペインの援助をなさるのも結構。ただしその場合はイギリスをあてにしないでいただきたい」と語ったという。
クリビツキーは、本名をシュメルカ・ギンスバーグ 1899年生まれのユダヤ人である。1917年ボルシェビキの革命がおこった。「私とって、貧困、不正、不平等を一掃する絶好の機会と思えた。私は全身全霊をこの革命に捧げる決心をした。マルクスやレーニンの信念を、諸悪を打ち破る強力な武器と考えたのだった」
ロンドン郊外リッチモンドにあるイギリス国立公文書館、イギリス外務省や海外情報局M16が集めた、幕末以来1955年までの日本に関する膨大な量の情報が整理され治められている。史料はその重要度に応じて公開の解禁年限が、25、50、75、100年そして永久禁止と分かれている。1987年まで閲覧禁止の資料の中に1936年の「日独防共協定」に関する資料が含まれていた。
大島武官が打った暗号電報はベルリンの情報局からナウエンにある中継所を経由して送信されたことが私たちの調査でわかった。ベルリンであった通信の専門家はナチスの諜報機関はこのナウエンの中継所で傍受し、交渉相手のドイツ当局が、大島と東京のやりとりをすべて盗んでいたのである。そしてクリビツキーが密かにナチス諜報機関内部に潜入させていたエージェントがナチスが傍受した極秘電報をまんまと手にいれた。
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