蘇我入鹿と中臣鎌足 マジで懐かしい。小学校以来の香り?
聖徳太子 - 山背大兄
蘇我蝦夷 - 蘇我入鹿(クーデター首謀者。山背大兄暗殺計画@斑鳩の宮)
中大兄皇子 を擁立した 中臣鎌足
で終わりなのだがあまりに味気ないので抜きだそう。
動員令をくだしたのは、大臣の地位を父からゆずりうけたとされる蘇我入鹿である。いわば蘇我の威をもって命じてきたもので
大君のいます宮殿をまもるのを使命とする者がそれに服することはないという大義名分が子麻呂にはあった。蘇我によるこの突
然の動員はなんのためであるか。おそらく父、蘇我蝦夷から権力をゆずりうけた入鹿が、代替わりの手始めになにか途方もない
ことをはじめようとしている
に違いなかった。蘇我入鹿という人物は優柔不断なところのある父、蝦夷とちがって頭の切れが鋭
く、独裁的なことを決していく型の権力者であるといわれている。蘇我全盛の今、人事の全てを握っているのはむろん蘇我勢で
ある。であれば蘇我に縁のない子麻呂と網田はいつまでたってもうだつがあがらないことになる。巨勢徳太(こせのとこだ)、
冠位第二位の小徳をいただく重臣で蘇我勢きっての切れ者と言われている。巨勢は網田ら5人の部隊長を呼び寄せて、こう告げ
たのである。「斑鳩の宮を包囲襲撃する。ねらいは山背大兄の御首である」
 入鹿には鎌足にないものがあった。頭の回転の速さと些事にこだわらない決断力である。逆に言えば大事なことを切り捨てて
かえりみないということでは短所、鎌足は入鹿のこの大胆さが好きだった。鎌足自身はつねに慎重に綿密に考え、そののちに決
断にいたるという性格である。あえて言えば鈍重にしか動けない、と自分では思っている。
 鎌足は敬語をまじえつつ、しかも学友としての親しみを失わないように話し出した。
「まず山背大兄の件である。巨勢徳太の臣が指揮を取って斑鳩の宮を急襲したよしであるが、太郎(入鹿)どの、あなた自身が
指令されたのか」
「そう大臣の権限をもってやった。山背大兄には気の毒なことになったが、われら蘇我としてはやらざるをえないんでね。山背
大兄が存在する限り天下大乱の火だねは消えない。いまの大君、鎌足はどう思うか、つまり天皇にふさわしいかどうかだ。」
先帝の皇后であった大君(皇極天皇)が即位されて2年になるが、蘇我の力があまりにも強大で、天皇による政といえるものは
皇居板葺の宮が建てられたことを除けば、皆無に等しいのである。
「大后を天皇に奉戴したのは、蘇我ではなかったのか」
「そう、父だ。したがって、父蝦夷が身をひいた今は、我が決める」
「太郎どの、あなたがいわんとしているのは、いまの大君を位からおろし、古人大兄をたてるということか」
「古人大兄で様子を見て、どうしてもうまくいかなければついには我が皇位につく。もっとも大事なもの。それは言うまでもな
い、天命だ。この大和の国にも天命が革まるときがくるのだ
。」
鎌足と入鹿の師、旻師(みんし)は、殷、周から春秋戦国、さらには秦、漢をへて隋、唐の今に至るまで、その思想と制度の
変遷を説くにあたりくりかえしくりかえし、「大和はそうあってはならない」といわれた。なぜか。師は隋朝末期にあって、どれほ
ど多くの民が革命の騒乱の中で犠牲になり、死んでいったか現実に見ておられるのである。極言すれば、革命とは人民の半数を
殺すものである、と言われた。
「山背大兄については、無能で無力で蘇我の敵ではないとは思っていた。しかし山背大兄の背後に巨大な亡霊が立っている。
これが問題だった。この亡霊が動き出すと、あぶない」
父君、聖徳太子である、いまも国民の崇拝をあつめ、聖人としての伝説化が進んでいる太子の霊をうまく奉戴する勢力があらわ
れるなら、蘇我といえども勝利はおぼつかないというのである。
「山背大兄は斑鳩の宮の大殿で焼死されたことになっているらしいがじつは生きておられる。」
「山背はどこにいるのだ。言え、鎌足。」
「私は蘇我が大和の天皇に代わって帝となるのに反対である。中国ではなるほど、そのようなことが史上くりかえされたかもし
れない。しかし、大和はそうあってはならないと、師は教えられたのではなかったか。ましてや、そのために山背大兄を殺害する
というのは、いかに太郎どのに友誼をもっていようとも、私は反対せざるをえない。私は山背大兄をまもるほうにつく。」
「我が山背大兄を生かしておけないのもわかるだろう。父(聖徳太子)ほどではないが、山背もそこそこ人望はある。大兄の
皇子とよばれるのだから皇位継承権ということになればまちがいなく三位までには入る。その山背が父の霊を背にわれに対抗し
て兵をあげれば、天下は二分され、大乱になるおそれが多分にある。」
「しかし、情勢を見て、古人大兄を降ろし、あなた自身が立つというのであろう。それを我々臣民はみとめることができない。
あなたは大和の皇族ではない。天皇家の血は入っていないのだ。」
「我が山背大兄を殺し、古人大兄を屠ったとしても、この大和に貞観の治を実現させればいいのだ。それこそが天命というもの
だろう。隋、唐であたりまえのことが大和ではなぜ、あたりまえではないのか。中国では1千年もまえから革命は肯定されてい
る。天命が革まるのは万民にとって喜ばしいことなのだ。ただ、そのさい大乱になるとすればそれはさけねばならない。つまり、
いまの大和でいえば、山背大兄をほうむって大乱の火だねを消したうえで革命につきすすむのが正しい道だ。」
「鎌足よ、君は知らないだけなのだ。山背を生かしておけない理由が蘇我にはもう一つある。」
山背大兄は父、聖徳太子が蘇我の陰謀によって毒殺されたと信じており、反蘇我の兵を挙げるときは、太子毒殺をはじめ蘇我
のこれまでの罪科を天下にさらして諸勢力を結集しようとしている
、というのである。

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