ヘンリーフォック 戦争とビジネス
1945年8月に第二次世界大戦が終わり、日本軍の香港占領も終わる。沖縄やフィリピンなど、アジア各地の戦地で廃棄された大
砲や装甲車などの大量の軍需品は当時、港湾都市である香港に集まったようだ。香港政庁は当時それを民間に払い下げたのだが
それを官報で目ざとく見つけたのがフォックだった。大量の軍需品を安く買い入れて知人に転売すると約30万円以上の金になった。
それは当時、普通のサラリーマンの年収分に相当するが下ったようだ。だが、それはその後大々的に展開する戦争ビジネスの始ま
りに過ぎなかった。1950年に朝鮮戦争が勃発するのである。国連は中国への輸出を一部禁止する経済制裁を実施。だが英国占領
下にある香港に集められた欧米からの軍需品や物資を中国側に密輸したのがフォックだった。戦時中香港は中国にとって重要な補
給の命綱となった。
60年代には、現在マカオのカジノ王と呼ばれるスタンレー・ホー氏らと組んで、マカオの独占的カジノ経営権取得に成功し、マカオ
娯楽有限公司(STDM)を設立
。カジノ「リスボア」の創業者に名を連ねた。それから2003年に独占的経営権が失効するまで、マカ
オでは実に40年間もSTDMによるカジノ王国が君臨することになる。
ニーナ・ワン(2007年69歳の若さで病死)
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ニーナ・ワンが世界的に知られているのは、アジアで一番の女性富豪だったということである。香港にある如心広場(ニーナタワー)を
はじめ、香港だけで約300件も不動産を保有し、その時価総額は42億米ドルに膨れ上がるといわれる。チャイナケムの本社のロ
ビーに入れば、おさげ髪の大きなキャラクター人形がマリリン・モンローのように舞い上がったスカートをおどけながら押さえた姿
で現われて、始めてきたものならど肝を抜かれるだろう。高齢にそぐわぬおさげ髪とミニスカートの奇抜な格好がトレードマーク
だったニーナが作らせたものである。また「キャンディ・キャンディ」でおなじみの漫画家いがらしゆみこ氏に、自分のキャラクター
漫画を作らせて話題になったこともある。
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李嘉誠は、地元テレビのインタビューでこんなことを話していたことがある。ある日彼が自宅から出て車に乗るために鍵を出そう
とポケットをまさぐっていたところ、2香港ドル(約30円)硬貨がポケットから落ちて道に転がり、暗渠に入り込んでしまった。李嘉誠
をそれを拾いあげようと四苦八苦していたところ、通りがかった自宅の使用人が「旦那様、私が取りましょう」と拾ってくれた。李嘉
誠は彼に100香港ドル紙幣(約1500円)のチップをあげて礼を言った、という話である。李嘉誠は「その話を人にすると結局損をし
たことになったではないかと笑われる」と言いながらも
自分の損得が問題ではないのだ。もしも硬貨を拾わなければ、その2香港ドルは消滅
してしまったことになる。だが100香港ドル紙幣はいつまでも使われ続けるだろう。

市場の独占
米政策研究機関のヘリテージ財団とウォールストリートジャーナル(WSJ)が世界162カ国・地域を対象に毎年発表している世界
経済自由度指数で、2008年香港は14年連続総合世界一
の座をキープした。貿易、ビジネス、投資、財産権保護の4項目の自
由度を指数化したものだが、これによって香港は最も自由な経済を持つ都市として世界的評価を得ている。ところが香港のドメ
スティックな市場を見てみると、この結果とは全く正反対の状況がみられる
。財閥グループによる『カルテル』と言ってもいい部
門が多数存在しているからだ。
IMFは2007年に香港ではスーパーマーケット、港湾、ガソリンスタンド、電力供給部門で財閥系による独占状況が見られると指摘
している。港湾部門を見ると、李嘉誠のハチソンとワーフのモダン・ターミナルズ、新鴻基、新世界などが主要運営業者だ。世界
一高い港湾使用料(THC)は財閥群の重要な資金源で、中小の荷主業者が長年引き下げを要請しているが、THC自体の料金設
定が不透明で公開されず、引き下げは実現していない。電力供給では前述したように李嘉誠の香港電燈(HKE)と中華電力
(CLP)が市場を二分している。またスーパー部門では李嘉誠のパークンショップとジャーディンのウェルカムが市場の70%を握
る。ドラッグストア部門も同様で、ハチソン系のワトソンズとジャーディン系のマニングスが市場を二分している。フランス系小売大
手カルフールも香港市場で展開していたが、2000年に撤退を余儀なくされた。カルフールによると、パークンショップの納入業者
22社から「自分たちの定めたラインより値下げした場合、商品の提供をストップさせる」と圧力をかけられたという。香港市場から
撤退した別の大手小売業者は、李嘉誠グループ系住宅団地やオフィスで商品のデリバリートラック配送を拒否されたと述懐して
いる。これらの訴えにも、消費者委はなんら対応措置を打ち出すことができなかった。なぜか。香港には日本の独占禁止法に
当たる法律が存在しないためである。香港は先進地域では唯一、独占禁止法がない地域である
。2008年現在、独占禁止法に
当たる「公平競争法」の施行準備が進んでいるのは確かだが、これは大企業による独占や買収に条件付でお墨付きを与えると
いった、骨抜きの法律になると懸念されており、守られるべき中小企業の団体がこの法律制定に反対している。つまり、香港は貿
易や投資といった外部と関わる経済では世界一の自由競争社会だが、内部で完結する経済では非常に閉鎖的社会だといえる。
市民が財閥に食い物にされているのに、その市民が財閥を崇拝しているという構図は、全く皮肉で哀れなことだ。ピーター・チャコス
【民の欲と国家】
2009.12.29: 何のために生きるのか?ふと考えるときがある
2009.10.07: 物欲の定義
2009.08.20: インド旅行 招かれざる観光客
2009.08.14: インド独立史 ~東インド会社時代
2009.05.07: 幸福感と欲の関係
2009.05.04: 民族浄化を裁く 旧ユーゴ戦犯法廷の現場から
2009.04.15: 貯蓄率にみる人々の自信度合い
2009.01.07: ユーゴスラヴィア現代史 ~国家崩壊への道
2008.09.24: 俺の欲しいもの
2008.09.23: 被支配階級の特権
2008.07.18: Olympic記念通貨に見る投資可能性