一国の税金は経済発展のレベルを制約条件として変化する。地租・関税から内国消費税へ、そして所得税へと変遷するのが一般化されたパターンである。しかしある経済発展のレベルに達すると経済的要因は制約条件でなくなる。つまりどの税金でも物理的に徴収可能となり、どのように税制をデザインするかに関し、自由度が増すことになる。経済発展が租税構造の生成にとっての制約でなくなると次に何が主な決定要因になるのであろうか。それは各々の国がもつ歴史・文化・社会的な背景が重要となる。換言すると国民の好みといった属性が支配的になってくる。OECDあるいはEUに加盟している先進諸国は今日、経済的にはどのようなタイプの税金でも実施できる段階に達しているはずである。ところが欧米先進諸国をみるとある一定ルールによって選好する税金のタイプがあることが判る。大ざっぱにいって、ラテン系諸国は間接税をアングロ・サクソン系諸国は直接税を好む傾向にある。いま歴史的に見ていずれが国税の50%以上を占めるかで2つのグループに分類すると次のようになる。
直接税を好む国 アメリカ、イギリス、北欧、ドイツ、オランダ
間接税を好む国 フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル
直接税は個人ならびに法人に対する所得税が中心である。所得税や個人や企業といった納税者が自己の所得を明確にし、税務当局に正直に申告し納税することを前提としている。このためには納税者は原則として、税務当局に所得獲得状況をつぶさに開示せねばならぬ。税負担を公平に課するためには、どの納税者も税務に関し、いわばプライバシーは存在しないことになる。一般的に云ってアングロ・サクソン系の国民は、このような直接税による納税方法のほうが公平で優れていると考えているようだ。所得隠し等の不正を許さないという姿勢に加え、累進税率のもつ公平間が大きな魅力となっていることは疑いない。これに対し、間接税を好むラテン系の国民性は、税務当局に懐具合までチェックされることを好まない。所得が消費される段階で税負担するほうが、より公平だと考えている。たとえばマフィアがアングラ・マネーで脱税を繰り返しながら蓄財しても、その金で高級車を買えば通常は間接税を支払わねばならない。把握の難しい所得を追いかけても、税務当局が100%を押えることは不可能だから支出する段階で課税する方向が公平だいう主張にも一理ある。