死刑はどこで行われるのか
北から言うと、札幌・宮城・名古屋・大阪・広島・福岡拘置所で、高等検察庁に対応している。昭和の半ばころまで、各刑場は屋外にあり、刑の執行で床板が開く「バターン」という音響が収容者たちの耳にも聞こえてきたというから恐ろしいが、最近は拘置所の地下など、ヘリコプターで上空から空撮しても分からないような場所に隠されている。刑場については半世紀以上、写真が公開されたこともなく、刑務官や一部の関係者以外、その内部を見た者はほとんどいない。03年、新しくなった東京拘置所の刑場を国会議員が視察(図面は本誌219ページ参照)しているが、やはり撮影は禁止された。多少の相違はあれど、どこの拘置所も2階構造の落下式絞首刑台が設置されており、その横に仏間などがレイアウトされているようだ。かつて、弁護士がこの刑場内部の間取りの公開を求める裁判を起こしたが、敗訴した。刑場の情報は極秘中の極秘で「隠される死刑情報」のシンボルでもある。
戦後の1946年から2007年3月までに死刑執行が確認されている人数は627人(恩赦や病死、自殺などを除く)。これに
生きている死刑囚が101人いるため、少なくとも728人が「死刑確定」したことになる。死刑執行は法務大臣が「執行命令書」にサインをしてから5日以内と定められており、こちらは厳格に守られている。まず、日曜日・祝日と年末年始に執行がされないのは昔からの慣例である。最近の傾向としては、
1.国会閉鎖中の期間
2.法務大臣の交代(内閣改造)が見込まれる直前
3.年末の仕事納めかその前日
4.金曜日
に執行されることが多い。死刑執行の最終決定となる法務大臣サインを拒否するか、あるいはできればしたくないという意思を表明した大臣は少なくない。近年では浄土真宗の僧侶でもある左藤恵(1990年12月~91年11月)が宗教上の理由をもとにサインを拒否。また杉浦正健(2005年10月~06年9月)は、就任時に「サインはしません」と明言したが、1時間後に撤回した。(結局、在任中にサインはしなかった) 逆に、90年から3年間続いた執行ゼロの「空白の時代」を終わらせたのが後藤田正晴で、93年の死刑執行再開からは「必ず毎年執行を」が法務当局の大目標となっており、ここまではそれを実現している。法秩序維持の観点から死刑廃止論者が法務大臣に就任すべきでない。
死刑執行当日のプロセス
朝9時、処遇部門職員、警備隊員数名が、死刑囚の独房の扉を開け、死刑執行を告知する。素直に覚悟を決めるもの、腰を抜かして立てなくなるもの、暴れ、モノを投げて抵抗するものといるが、死刑囚は待ったなしで刑務官に両脇を抱えられ、刑場へ連行される。刑場につくとそこには読経が流れており、香の焚かれた仏間が設置されている。そこで拘置所長が、世紀に死刑執行命令書の到達を受刑者に伝える。ここで希望があれば、遺書を書いたり、菓子、果物などを食べることもできる。また喫煙も許される。最後の別れがすむと、白装束に着替えさせられ、隣接する絞首刑台へ進む。ガラスの向こうには、拘置所長や検事をはじめ、数名の立会人がいるが、すでに目かくしをされていることもあり、死刑囚からその姿は見えない。受刑者が室内の中央部分に進むとすばやく首にロープがかけられ、準備は完了する。その死刑囚の姿が見えないところに5つのボタンがついた壁がある。ここにはボタンと同じ数の刑務官がスタンバイしており、合図とともにいっせいにそのボタンを押す。ボタンの一つは刑場の床板と連動しており、受刑者の体は開いた大きな穴へ、吸い込まれるように落ちていく。約15分後、ほとんどの死刑囚は絶命する。医師と検事によって死亡が確認されると遺体は清掃され、搬出用のエレベーターで安置室へ運ばれる。
絞首刑は本当に残虐なのか
絞首刑を実際に見た人の証言の中には、その壮絶無しのありさまに、度肝を抜かれるというものがある。いわく、目、舌は飛び出し、頚動脈が切れることによって、口、鼻から血と吐潟物が流れ出す。糞尿は垂れ流しになり、正視に耐えかねる修羅場がそこにあると言われている。もし人間が絞首刑にされると必ずそうなるのであるならばみだりに公開などできない「見た目の残虐さ」は事実と思われるが、果たして本当のところは分からない。また1994年12月に死刑執行された小山(安島)幸男の場合、遺体を引き取った養父が、火葬する前に法医学教室の協力を得て、徹底的な検証を加えたという実例がある。それによれば遺体は麻縄ではなく、表面が滑らかなロープで気道を塞がれた跡があり、一気に記憶が消失し、縊死した可能性が高いという。

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