中学の頃の話だ・・・、キヨシとは中学2年と3年の時、クラスが一緒だった・・・。
中学2年の時は、いわゆる悪クラスで、問題児と呼ばれる連中が複数人放り込まれていたクラスであった。
クラスの不良グループは合計7人。男4人の女3人で、私とキヨシもそのグループに属していた。
グループの中で仲間外れにされていたのが二人居た。一人は私だ。言わずもがな、私はいわゆる不良ではない。
嫌な言い方をすれば、彼らより”かなり”勉強ができた。席替えの際、隣に座った非不良グループの女の子からも
「一族君の隣だ。ラッキー。数学の時間、助けてね。」と頼られていた私は、標準よりも成績が著しく悪い7人グ
ループの中、試験や授業の後など彼らとは共有できない断絶が存在していた。
もう一人の仲間外れがキヨシだった。
彼は幼い頃、心臓病を患い、成長そのものが遅れていたため、背は女の子よりも小さく、成績は相対評価では
誰かが取らなければならない”1″を一人で全部背負い、不良グループの中でも極端に悪かった
このキヨシという呼び名だが、当時の中学生男子の価値観では、
苗字さん付け>苗字君付け>名前君付け>あだ名>苗字呼び捨て>名前呼び捨て
呼び名の順列がその人物の格を示すものであった。キヨシは中学3年になっても二個下の1年生から「キヨシ」と呼
ばれるほどの位置づけであった。つまり、喧嘩になれば、二個下にも女の子にも勝てないということを暗示していた
運命とは残酷なものである。遠足など校外学習のグループ分けは好きに組めるのだが、我々のグループ以外は
男女分離したグループばかりであった。一方、不良グループはマセガキだったため男女混合で、遠足が半ばデート
に変わるのであった。グループは7人。一人余る・・・
番長とヤン娘、そしてサラサラ茶色髪のお洒落不良カップル、この2×2はお似合いの鉄板であった。残る女の子
は一人。男は私とキヨシの二人が残っている。お洒落追求型で学校の規則に、少しはみ出してしまう程度の、
不良というには適切ではないおとなしめの背の低い女の子(Tちゃん)であった。
キヨシはその子のことが好きだった。
教室での席、バスでの席、ジェットコースターの席、皮肉なことにその全てが2つのペアで仕切られており、7人グル
ープでの行動は仲間外れを一人作ることを常に強要された
。オプションを持っているのはTちゃんだ。しかし、彼女
の選択は我々二人を公平に扱うようなことはなかった。一人で座る者、補助席に座る者はいつも決まっていた。
キヨシはどんな思いで、中学二年の学校生活を過ごしたのだろうか?
二年生も終わりの三学期。バレンタインデーは、公平だった。彼女ら3人は、我々4人に同じチョコを贈ってくれた
「食べちゃおうぜ」と頬張る我々を横目に、キヨシは食べずに大事そうに抱えていた。
一ヶ月後、いよいよ三学期も終わろうとしていた頃、衝撃は突然訪れた。私は放課後、一人で教室に居た。
そこに世話焼きのネーさん(同じクラスのおせっかい女)がドタドタと入ってきて私に言った。
世「Tちゃんに、ホワイトデーのお返しをするでしょ?」
俺「いや、Tちゃんにもらったわけじゃない。みんなにもらったんだ。」
世「みんな(2×2ペアのこと)それぞれ渡すって言ってるから、Tちゃんにお返ししてあげてよ。」
俺「わかった。」
世「その時に、Tちゃんに『付き合って』って言ってあげて欲しいの。ねっ!よろしく!」
とごり押しして去っていった。世話焼きのネーさんが熱心に言うので、数日後、勢いに押された私は言われた通りに
行動した。新カップルの誕生を、不良グループは歓迎した。「一族にも彼女ができた」と彼らは大いに喜び祝福した。
キヨシはその場に居なかった。誰かが配慮して呼ばなかったのかキヨシが自分の意思で来なかったのか私は知らない。
中学3年になり、キヨシはますます学校に来なくなった。年間欠席日数を調べると年間60日を越えるほどのペース
で休んでいた。クラスが2年連続同じだったヨシミで、学校が終わった後、よくキヨシの家に行った。
ある日、キヨシは家に居なかったので、キヨシの家のそばの公園に行ってみた。
キヨシが砂場に居た。
小学校5-6年生くらいの男の子に混じって、中学3年生のキヨシが遊んでいる姿があった。
背格好も同じくらいであった。「キヨシ君キヨシ君」と呼ばれ、心なしかキヨシが得意気に話をしているように見えた
私は、しばらく様子を見て、黙ってその場を去った。
誰しも頼られたい、少しくらい威張ってみたいという感情がある。一度たりとも褒められたことのない中学3年間を
読者諸君は想像できるだろうか。成績表は1以外無く、喧嘩で勝ったことは無く、女の子からも相手にされない。
ボンタンを履いてつっぱってみても誰にも脅威を与えることもできず、煙草をふかせば「おめーこれ以上背が伸びな
かったらやべーから止めとけよ。」と諭される。彼が劣っていたわけではない。成長が3-4年、普通の子供より遅れ
ていただけのことであったと思う。
私が20歳になった頃だろうか。私と同じ中学の二個下の女の後輩が、私に言った。
女の後輩 「あれ? キヨシじゃねーか? 背が高くなってるよアイツ。」
遠目ではあったが、キヨシらしき小さな男の後姿を見て、私は安心しながら彼女に言った。
「キヨシ君と呼んでやってくれ。」

【昔の思い出】
2009.10.28: 女の好みも時と共に成長する
2009.04.08: 試験の評価がスペシャリストを殺す
2009.02.13: 女系家族の掟
2009.02.06: 博打における女性誘致
2008.08.07: 子供のための動物園だよね
2008.08.06: 老後もアマくない日本の現実
2008.08.05: 一族の素敵な仲間たち
2008.07.09: 妹が見た悪夢