ESOP (Employee Stock Ownership Plan)
企業の自社株を社員に配分し、原則社員全員が対称で確定拠出年金の一環。
今日の日経新聞に載ってました。新人向けの新聞読み合わせとしては多少ハイレベルですが、私なりの考察を。
事業会社側から見れば
自社株の取得コストは自社株買いのタイミングで決まる。
一方、社員に毎月時価で売り付ける。
株価が上がった場合は、上記の取引で運用益が上がるので、それを従業員に配分する。
株価が下がった場合は、会社が損失分を補填する。
と書いてあります。
つまり、従業員から見ると、下がった場合は時価で買え、上がった場合は値上がり益が来るので
持株会に毎月参照のAsian Call Optionがついてくるイメージです。
では、新聞記事にあった4社について、どのくらいの従業員還元なのかをエクイティデリバティブの
Valuationの観点から分析してみます。
大同メタル
http://www.daidometal.co.jp/news/photo/20080125120645_0_0_4.pdf
によれば5年分の取得規模とあります。
安く見積もっても大同メタルだったら5年のオプションは、20%くらいのValueはありそうです。
配分がいつ起こるかというと多分退職するまでは、ダメでしょうから、終身雇用を想定するのであれば30年後です。
なので30年÷5年で6回オプション価値を楽しむことが出来るわけです。
また株の最終Asian Fixingから実際のセトルまで25年あるデリバティブですので、Cash SettleかPhysical Settle
かがとても重要です。
Cash settleの場合、素直に金利で割り引けば、約半分になり10%÷5年程度のインセンティブになりましょう。
Physical Settleの場合、Forwardで見積もれば、大体Flatでしょうから20%強÷5年を期待できます。
5年で信託契約が終了し、その時点で残余財産がある場合には、株数に応じて分配とあり
日経の文面にも、退職時に株式受取と書いてあるのでPhysical Settleでしょうが。
これはおいしいですね。
一方、持株会加入率が55%から69%に急上昇した広島ガスはどうなのでしょうか?
http://www.hiroshima-gas.co.jp/com/w_new/index.htm
によれば同じく5年のオプションですが、大同に比べ恒常的にVolatilityが低いのでオプション価値は10-15%程度でしょう。
公共系の割りに配当がそれほど高くないので大丈夫ですが、あまりに高配当の場合、30年後のPhysical Settle
はおいしくない可能性も出てきます。
そして、一番のネックは、株式そのものの流動性です。これは殆ど売れないに等しい。
10000株(約250万円相当)売るのにそれなりに苦労しますよ。
オプション価値、Physical Settle、売却時のMarket Impactを考えると多少疑問です。
日本駐車場開発
http://www.n-p-d.co.jp/ir/pdf/20070907_shinkabu.pdf
によれば、ストライク1円の無償割り当てなので、退職金の株式化で、これといったオプショナリティはありません。
American Forwardのようにも受け取れるので落ち日の前に行使すべきといったところでしょうか。
計画中の住友不動産
http://www.sumitomo-rd.co.jp/ir/pdf/080207_2.pdf
これは買い付け期間が十数年分と書いてありますので、10年で見積もってオプション価値が大体30%とします。
大同の場合と違い、10年サイクルですと30年の在職期間中3回転しかできないので、トータル30%÷10年となります。
仮に15年だとさらに悪く大体36%÷15年くらいのイメージでしょうか。
というわけでESOP対象の従業員の皆さん、退職金の計算はエクイティ・デリバティブとしてどうぞ。
持株会の割引買付価格と比較したい場合は、オプション価格を年数で割った値で同じ尺度になります。
例えば大同メタルのESOPの場合20-25%なので5年で割って4-5%の割引と等価です。