稀代の怪人 リーチョ・ジェッリ
60年代のイタリアは左翼政党が勢力を伸ばし、共産主義政権誕生の危機に晒されていた。ジェッリは、退役した高級将校
を通じて軍の上層部に食い込み極右勢力の大同団結を旗印に組織を拡大した。NATOの一員であるイタリアの共産化に備
え、軍部によるクーデターを準備していたCIAの積極的な支援があった
とされる。ジェッリは冷戦時代の最大のフィクサーの
一人で、僅か10年あまりでネットワークを世界に拡大させ、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ボリビア、コロンビア、ベ
ネズエラ、ニカラグアなど中南米諸国の軍事整形と手を結んだ。
バチカンの投資家
1929年バチカンは独裁者ムッソリーニとの間でラテラノ条約を結び、主権国家としての地位とイタリアに対する免税特権を手
に入れた
。このとき、ムッソリーニはバチカン市国以外の領土を放棄する代償として7億5000万リラ、現在の時価に換算して
約1000億円を支払うことに合意した。この補償金がその後の”バチカン株式会社”の資本金となった。当時の教皇ピオ11世
は、財産管理局を新設し、ベルナルディーノ・ノガーラというユダヤ人にその管理を任せた。ノガーラの投資家としたの手腕は
目を見張るものがあった。大株主となった企業には教皇の親族を経営陣に送り込み、損害を被りそうになるとムッソリーニに
高値で買い取らせ、イタリアの敗北を予想するや資産を金塊に替えて巨額の利益を得た。ゼネラル・モータース、シェル、ガ
ルフ石油、IBMなどの大株主となった。また不動産投資にも積極的で、シャンゼリゼの1ブロックを所有し、世界一の高さを
誇ったモントリオールの証券取引所タワーやワシントンの名門ウォーターゲートホテルもバチカンがオーナーであった。1958
年ノガーラが死んだ時、バチカンは少なく見積もっても10億ドル以上の資産を保有し、そこから毎年4000万ドルの利益を得
ていた。1960年代、バチカン銀行は保有する株式の配当課税で問題を抱えていた。ラテラノ条約によってバチカンへの課税
は免除されていたが、イタリア政府はこれを不公平として最高30%の配当課税を課すと通告してきたからだ。バチカン銀行総
裁としてのマーチンクスの初仕事は、イタリア企業の株式を秘密裏に売却することであった。バチカンが株を売るという噂が
流れただけで株式市場は暴落し、巨額の損失を被る恐れがあった。この時に助力を申し出たのがシンドナで、バチカンの保
有株を言い値で引き取ることで教皇庁幹部から絶大な信頼を得ることになる。しかしシンドナにはもう一つの顔があった。こ
のシチリア出身の銀行家はニューヨークのマフィア、ガンビーノ家のために麻薬資金の洗浄を行っていたのだ。このマネーロ
ンダリングはジェッリがコカインの生産地である中南米にネットワークを広げるにつれてより大規模なものになっていく。
ジェッリは軍事政権や反共組織のために武器調達を請け負う”死の商人”であった。
バチカンがこのような犯罪行為に手を貸すことになった背景には、冷戦時代の世界情勢がある。当時、カトリック教会の最大
の敵はマルクス・レーニン主義であり、バチカンのお膝元であるイタリアですら共産化の脅威に晒されていた。そのためバチ
カンはマネーロンダリングで得たり利益で反共組織や反共団体を秘密裏に支援していたのである。軍事政権による人権抑
圧に苦しむ中南米を中心に、先進的なカトリック神父が「解放の神学」を唱え、反政府運動を展開した。だがバチカンはこう
した運動をレーニン革命主義として否定するばかりか、軍事政権に武器の購入資金を与えていた
。バチカンは、CIAやマフィ
アと「反共」の理念で完全に一致していたのである。
銀行とは概念にすぎない アガ・ハサン・アベディ 
BCCI(Bank of Credit and Commerce International) 世界最大の武器商社
アベディの事業は、麻薬マフィアのマネーロンダリングにとどまらなかった。1979年に起こった3つの出来事が、BCCIにさら
なる事業拡大の機会を提供した。イランでイスラム革命が起こり、翌80年にイラン・イラク戦争が勃発した。4月にはアベディ
の宿敵であるプット元首相が処刑され、BCCIはパキスタンで大手を振って事業展開できるようになった。そして12月イスラ
ムの反政府勢力を制圧するためにソ連がアフガニスタンに侵攻した。イラン革命によって中東のパワーバランスは複雑化し、
イラン・イラク戦争では、欧米やアラブ諸国はさまざな思惑から双方を支援し、武器を供与した。ムジャヒディンの基地はパキ
スタン・アフガニスタン国境のカイバル峠に近いペシャワール近辺に設営され、そこにCIAが大量の武器弾薬を運び込んだ
のである。BCCIはこうした秘密取引の資金決済を独占し、やがて武器の運搬にまでかかわるようになる。BCCIは銀行とい
うよりも、世界最大の武器商社となった。アメリカのレーガン政権はソビエトを「悪の帝国」と名指しし、アフガニスタンのイス
ラム勢力を支援していたが、それを表に出すことはできなかった。そこでCIAは、BCCIの隠れみのとして武器の供与を行っ
た。アフガンゲリラは阿片の原料となるケシを栽培し、その資金で武器を購入していたが、ホワイトハウスはアメリカやヨー
ロッパにその麻薬が持ち込まれることすらも黙認していたのである。このとき、CIAの指導によってソビエト軍と戦ったムジャ
ヒディン一人が、若き日のオサマ・ビンラディンである。BCCIは銀行でありながらも、さながら超国家のごとき存在であった。
パキスタンやアフリカのいくつかの国の中央銀行は、BCCIからの融資が無ければドルの外貨準備高を維持できなかった。
BCCIは中央銀行の銀行だったのだ。欧米をはじめ世界中の国々がこの犯罪銀行を必要としていたことも指摘しておく必要
がある。

マネーロンダリング入門―国際金融詐欺からテロ資金まで (幻冬舎新書) マネーロンダリング入門―国際金融詐欺からテロ資金まで (幻冬舎新書)

幻冬舎 2006-11
売り上げランキング : 21551

Amazonで詳しく見る by G-Tools

【株にまつわる事件】
2010.09.14: 三井住友FG、証券業務? やんの?
2010.08.20: 株メール Q3.コーポレートアクション
2010.06.28: 政商 昭和闇の支配者 ~企業買収
2010.05.18: 秘録 華人財閥 ~李嘉誠と包玉剛 「英資財閥への挑戦」
2009.11.13: 7736企業乗っ取り 300億円強奪を示す財務諸表
2009.10.15: BNP作為的相場形成の疑義についての見解
2009.07.17: 秘史「乗っ取り屋」暗黒の経済戦争
2008.10.14: 日経225オプションの誤発注
2008.09.25: 世界一のお金持ちの楽しいShopping@GS PPS+Warrant
2008.08.18: 8868 スワップ契約についての考察
2008.03.20: 一族家における投資教育 ~新発CBとIPO
2008.02.02: 信用取引 証券会社の儲けと投資家(顧客)のうまみ
2008.01.28: ソシエテ・ジェネラルの大損