セカンダリーマーケットに従事する人間として、我々の収益源泉は流動性供給にあると信じていますが、この動きを見ていると、誰がその供給を担っているのかわからなくなってしまいます。
取引にかかる際のコストとは、手数料のほかにAsk-Bid Spread、PriceにImpactをかけた大量の売買も、流動性コストの支払いとして解釈するのが一般的です。
一方、私は、マーケットが極端に動いた時は、値動きそのものに流動性プレミアムが含まれているとと考えます。よって値動きと同じ向きに取引する(一日で10%下げた中で売る)行為は、Ask-Bidが狭くても、100株の注文であったとしても、「流動性プレミアムを払った」=「負け組の取引」と考えます。
ゆえに勝つためにはプレミアムを受けなければならないのですが、これがなかなか難しい。
流動性供給が難しい理由は、レバレッジとガバナンス、そして報酬体系だと思います。
我々の意思決定が、レバレッジ(債権者)・ガバナンス(株主)などの意見に左右されるゆえに、誰も買い手がつかないようなものを買うことは難しい。一番肝心の底値近辺で、プロとしての判断は無用で、普段そんなことには無関心な外部の”素人”によって意思決定される。底値で買うことはできないという宿命を背負っているのかもしれないと感じる今日この頃です。
ディスクローズ資料から参照できる具体例を示します。
サンリオは昔実質資産運用会社と化しているということで有名でしたが、サンリオが株式運用を辞めるとアナウンスした時、日経平均はいくらだったか?
2003年から2004年の有価証券報告書を見れば、200億円超の売買目的有価証券が綺麗に消えているのが見て取れます。
ね?底で「売らされてる」でしょ?
これこそ、レバレッジとガバナンスが最悪に働いている一例で、社長もさぞかし悔しかったろうに。
損すると今まで黙っていたヤツがここぞとばかりに口を出してくる。これが流動性が枯渇する原因で、かつまた、流動性プレミアムを払わされる構造なのかと思います。
また、トレーダーの報酬は、多くの場合、PLリンクしています。毎年ボーナスの評価があるので、それをプロとしてバリュエーションした場合、自分が従事するビジネスユニットそのものの1Y Call OptionのLongと等価です。ゆえにビジネスユニットのVolatilityは高い方が良いわけで、PLに対してレバレッジをかける方向にインセンティブが働きます。
これが結果として何を引き起こすか?

人間は不思議なもので、株は上がるほど参加者が増えます。

我々の収益源泉が流動性供給にあるとすれば、取引が増えるほど、収益が増えます。

PLレバレッジをかけるインセンティブが従業員に働く。

取るべきマーケットリスクはエクイティ・ロングが心地良い。

上がっている時は絶好調なのに下がるとダブルパンチでマネジメントサイドより損切れの指示。

ディスクローズ資料にあるわけではないから明確には言えませんが、株式トレーディングの世界で似たような話はよく耳にします。業種や立場こそ違えども、株式会社でトレーディングを行うということは、上記の例と同じ環境になるので、私のような考えを貫き通すのは難しいように思えてきました。今日も会社の連中と飲んでましたが、同業他社の連中の飛ばし具合の噂話が飛び交ってました。誰か教えてください。このマーケットで益が出せたトレーディングデスクはあるのかい?