とある先輩と談義の中で。先輩は現在、株式の運用だけで暮らしている無職(失礼)だが、もともと金融業界というわけではないアマチュアの個人投資家である。アマチュアというのは理解が無い、取引が下手という意味ではなく、プロ=他人の金を動かす、アマ=自分の金を動かす、の区分である。原則、日本株ロングオンリーの健全な個人投資家で、成功なさっている方である。

そんな「株式メガネをかけた先輩」には、オプション取引はどのように見えているのであろうか? それは彼が繰り出したいくつかの質問に集約されている。

Q1.「割安な銘柄の判断は?」
Q2.「ボラティリティの高安の相場観とかあるの?」

そして極め付けが、

Q3.「オプションの期待値は株より高いと思ってるの?

だ。

A1.銘柄って…。確かにあるのですが、オプションの銘柄というのはアンダーライング×期間×行使価格×(Put/Call)、という機械的な存在です。だからS&P500の DEC18 1,800のPutとS&P500のDEC 18 1850のPutという差異はあるけども、株に比べれば没個性的です。でもDEC18のPutとMAR16 2000 Callだとかなり性質が異なるような気がするが…、なかなか説明難しいですね。

株式投資とオプション取引は次元が2つ違います。株式の場合は、売りと買いという0次元的投資判断になりますが、オプションの場合は、株価と時間という平面上に損益曲面を描くので2次元的相場観になるわけです。オプションの銘柄の一つ一つは、平面上に損益曲面を描くためのインストルメントの一つにすぎません。

A2.株式はゆっくり上がって、急に下がるという性質があります。オプション価格は、現値を中心として、その距離で値段が決まるわけですが、同じ距離なら、上昇を期待するCallよりもPutが高いというのが普通です。それが同じ値段なら、Putに割安感、あるいはCallに割高感があるわけですが、そういうプライシングはされません。

A3.株の期待値の規定は難しいが、オプションを含むデリバティブの期待値は、アンダーライングや取引戦略、計算方法によって異なると思うが、99%~99.999%程度と思ってよいだろう。コストをいくらかけるかということよりも重大なことは、オプションの期待値はコストの分だけ、マイナスであるというのが私の答えだ。彼は以前に、

先輩「取引コスト払ってまで、オプションなんて、やる価値あるの?」

と聞いてきたことがあるので、オプションの期待値が負であることは、彼の予想通りの答えであって、驚くに値しない答えだ。ただ、私が言いたかったことは、日経オプションなどをチラッと見れば、100Bid/105Offerとなっていて、「5%もスプレッドがあるのかよ!」という印象であろうから、見た目の取引コストより、実質は狭い(S&P500は特にね)ということを言おうとしたのだ。

2015.06.22 オプション取引約2周年記念、トランザクション分析

2000万円分の株を買うのに、手数料が0.1%とすると2万円。0.01%としても2000円である
では、それと同じエコノミーを持つ、インザマネーのコールオプションを買うとしたら、手数料はいくらになるだろうか?

1枚あたり1000円(かなり高いと思うが)のぼったくり証券会社を使ったとしても株より安い。1枚200円としたら0.002%となるw
約定代金に対して0.1%という手数料体系だった場合、日経オプションで2000円ITMの短いコールオプションだったら、2000円×1000=200万円の0.1%なので、0.01%で取引できることになる、というのが、私のオプションの取引コストの解釈だ。

Ask Bid Spreadもこの観点に立てば、100/105と見れば5%だが、2000万円に対して5000円、つまりSpreadは0.025%になる。99.999%(=コストが0.001%)は言いすぎ感があるがw、株よりも手数料は確実に低い、という主張をしようとしている。

コストは異様に低いことはご納得いただいたのだが、期待値99.9%を手間暇かけてまで取引する理由についてはまだ触れていない。

デリバティブは参加者の損益を全部足せば必ずゼロになるゼロサム性という意味ではギャンブルと同じです。ブラックジャックなら、期待値97%で2倍のオッズ、すなわち、リスク(=ボラティリティ)を買うわけですが、デリバティブは博打のルールを自分で決めることができます。株価と時間の平面上で、損益曲面を自由に書くことができ、ある非常に狭い範囲で10倍以上を狙うこともできれば、広範にわたって+10%程度に設定することもできます。

Option-PnL-Surface.jpg

ただ、必勝パターンはなく、プラスを取った分だけ、株価-時間平面上のどこかに必ずマイナス部分が発生します。確率・勝率のコントロールも可能です。例えば、確率的に99%勝てるような戦略も存在しますが、1%の確率で100倍負けるということになります。原則として、オプションは売りが確率が高く、買いは確率が低いです。私の友人で有栖川さんという方がいるのですが、売り戦略で小さく儲けて、その儲けを全額、確率の低い買い戦略に使ってしまい、毎月、オケラ状態の人がいます。これをずっと繰り返していると5年か10年に一度くらい爆発が起きて、彼はそれで家を2軒建てました。(有栖川氏本人の談では、この話し方は少しウソなのですが、まあ、有栖川氏仮名だし、大まかで良いでしょうw) 私の場合は、彼ほど極端なリスクとポジションを取ることはありませんが、オプション取引が博打であることは同じで、売りで小さく儲けて、その金で今度は買いに転じて大きな儲けを狙うという基本的な図式も同じです。

先輩「なんか株と全然違うんだなぁ…」
「はい、投資と思わない方が無難です」

絶望的すぎるオプション観ですかねぇ? でも私はそう思ってます。99.99%でも私はオプション取引するんです。

【デリバティブとは何か?関連記事】
2016.02.12 GPIFデリバティブ解禁かお悩み中? 1/2 一般向け解釈
2015.08.04 野村證券 グローバルハウスの火種 2/2~証券化は魔法のつえ
2015.03.10 仮想通貨革命 ビットコインは始まりにすぎない 6/7~送金
2014.07.29 三田氏を斬るステージ2 5/8~神がかった営業力・スーパーセールス
2013.04.04 投資・投機・ギャンブルの違いを述べよ
2012.04.10 金融史がわかれば世界がわかる 6/6~アメリカの努力
2011.12.09: 個人投資家オプションマニアの会
2011.04.04: 史上最大のボロ儲け ~タイミングの違い 4/6
2010.12.01: シブすぎデリバに男泣き ~たとえ報われなくても触れていたい
2010.10.08: 三田氏を斬る ~デリバティブとは何か?
2010.08.18: 金融庁:野村、ゴールドマン、モルガンS監督強化
2010.05.21: 数学を使わないデリバティブ講座 ~概念と商品
2009.10.27: 誰も答えられない「デリバティブの定義」