第6章 第三者割当ビジネスの隆盛と衰退
第1節
MSCBとはMoving Strike Convertible Bondの略で、日本では2000年頃にはすでに発行されていました。株価2桁(100円未満)の企業がMSCBを発行し、すでに投資の了解をもらっている特定の投資家(海外ファンド)に割当をして資金調達をしていたのです。北の家族、シントム、昭和ゴム、イタリヤードなどいくつもの企業が発行しました。資金繰りが苦しく、資金調達手段が他に無い企業がラストリゾートとして利用していたため、ほとんどの発行企業は、発行後、努力むなしく倒産しました。その後、2004年にいすゞ自動車が300億円発行したのを皮切りに、日本でMSCBの大ブームが巻き起こりました。MSCBを発行する企業は以前のような瀕死の企業ではなかったのです。またMSCBの買い手となったのは海外ファンドではなく、国内の証券会社でした。
MSCBとして、いすゞが大きいのは事実です。でもそれより遥かにすごいのは前から強調していることですが、三井住友とみずほが出したMoving Strike条項付の優先株でその発行の規模は300億円なんていう鼻毛な金額ではなく1000億円規模で複数種類、第何種優先株という形で発行され累計では1兆円にのぼる巨額な資金調達を行っていました。確かにMSCBという意味では、いすゞ、双日、ライブドアも発行してはいます。しかし時の総理大臣、小泉さん配下の竹中平蔵氏による銀行いじめ、不良債権処理問題による多額の損失計上による自己資本の充実を迫られた、三井住友・みずほの”Moving Strike型の優先株の発行は、その被害額は壮絶なものでした。転換価格下方修正の下限株価は設定されていたものの、その価格は現値よりも遥かに下の水準でした。当時は、空売り規制が今よりも緩かったので、売り崩して値段が下がったところで、ぶち下がった株価で転換して空売りの返済をすれば儲かるというスキームだったので、本当に銀行の株価が”売り崩された”のです。その当時の銀行株の下落っぷりはかなり激しかったことをご記憶の読者も多いことだろう。そしてあまりにも凶悪なので空売り規制、現在のアップティック・ルール(個人はその規制対象では無い)まで、作られたほどに、既存株主を痛める高コストなエクイティファイナンスでした。しつこいですが確かにMSのCBでは無いのですが、Moving Strikeという意味で、最も凶悪だったこの2つに言及すべきだと私は思います。今では無かった事にされていますがw、三井住友銀行がわかしお銀行に吸収合併される、という不可思議な事態が起きていた当時の、なりふり構わない高コストファイナンスであったことは、忘れてはならないことだと思っています。
CBの価値=MAX(償還額、転換価値)
ちなみに株に転換するかいなかの分岐点は、簡単に言えば償還額<転換価値になるときなので、転換価格<株価の時です。CBに詳しいマニアの人からは反論があるでしょうが、細かい話は止めましょう。
うんwあえて三田さんがツッコミを期待しているので、私はツッコミませんが、これちゃんとわかる、「CBに詳しいマニア」は居るの? ヒントというかほとんど答えだけどもう少し簡単にして、
転換価格<株価でも転換しない場合、その理由は?
転換価格>株価でも転換する場合、その理由は?
ちゃんと答えられる人、日本で何人居るのかな? 分からない人は投資一族のブログのどこかに書いてあるので、”新株予約権”タグ、あるいは下記をクリックして勉強してください。
2008.12.04 CBとCall Option+Bondの違い for Beginner
For Beginnerって書いてあるけど、今読むと全然ビギナー向けじゃない書き方だなw
MSCBの第三者割当増資に対して世論が「なんとなくおかしい」から「間違っている、不公平だ、大変問題だ」へ流れを買えるきっかけとなったのがアーバンCBの事件でした。
8868 スワップ契約についての考察
私の見解で、そのアコギっぷりを示しているが、多少、論点を変えて、三田さんも問題視しています。三田さんの見解を知りたい人は、ケチらず「証券会社の儲けの構造」を買って確認してください。
第2節 本当に大丈夫か?第三者割当増資の評価
適当な第三者評価
新株予約権に限らず、CBも含めて第三者割当増資をする場合は発行価格が正当なものでなければなりません。割当先である投資家に有利な価格となっていれば、有利発行(既存株主が不公平だと怒る)となり、株主総会の特別決議による株主の皆さんのお許しが必要となります。株主総会まで待って発行するのでは第三者割当増資のメリットである機動性を損なうし、特別決議を通すだけの株主への説得も大変なので、株主総会の承認が不要となるよう、公正価格で新株予約権の第三者割当増資を行うのが通常です。その場合、”公正である”ということを割当先でもなく発行企業でもない第三者に認めてもらう必要が出てきます。その第三者は誰でも良いわけではなく、信用されるスキルを有した機関で無ければなりません。
しかし、新株予約権の第三者割当増資に関するプレスリリースを見ていると、本当に専門的な地検を有している人間が予約権の価格算定をしているのか?と疑問に思うような記述が溢れています。これらの評価会社のホームページを見ると、専門用語を並べただけの意味不明な記述が散見されます。評価価格の妥当性はさておいて、奇妙なプレスリリースを紹介しましょう。
(あえて略)
修正CAPMという専門用語を振りかざしているものの、ファイナンス理論どころか資本コストさえも理解して無い人が指南した文章です。
(あえて略)
オプション価格計算におけるモンテカルロ・シュミレーションとブラックショールズモデルの位置づけが、理解できてないことがうかがえます。
現実に、金融実務および数値計算の専門家とはとても思えない門外漢によるいいかげんな価格算定が行われているようです。こんなことを問題としたところで訴える利益を持つ当事者というのは既存株主だけですから、株主ではない私のような第三者は異議を唱える立場にありません。かといって訴える利益を持つ既存株主として、ほとんどが個人投資家であり発行される新株予約権の価値がどうだ?みたいなことに関心は持っておらず、短期的な株価動向にしか関心が無いのが現実です。聞いた話ですが、ある評価会社は「専門家に追及されたらどうしようか」と恐れながらも。でも「訴えてくるような暇なヤツはいないだろう」と高をくくっているらしい。
訴えに付き合う暇なヤツ、ここにいるよ! 俺が付き合ってやる。時間は十分にある暇人がこの俺だ。株主代表訴訟、あるいは発行企業、また証券会社、弁護士事務所、なんでもいいぜ。俺が相談に乗ってやるよ。この”門外漢”に不適切なファイナンスの責任の一部を押し付けたいと思っているならかまわんが、”門外漢”とやらに1ミリでも不信感を持っているなら俺のところの来い。業界の人間に「投資一族って誰?」って聞くか、もっと簡単なのはここにコメントして来いや。コメント入力の際のE-Mailは非公開の設定だが、それでも心配なら捨てアドのE-Mailでも構わんぞ。
まずモデルと手法、三田さんもまったく同じ言葉遣いをしているのが滑稽だが、それについては私も既に述べているので下記をご参照いただきたい。
アメリカン・オプションをモンテカルロするのが難しい理由 1/5 ~ペイオフ・アプローチ手法・モデル
ちなみにちょっと説明に手間取っているので1/5~5/5まで全体5話のシリーズとなっている。ほぼほぼ三田さんと私は似たようなことを言っていますが、違うので、それについて知りたい方は、ケチらず「証券会社の儲けの構造」を買って確認してくださいw
俺、三田さんと面識無いからねw 宣伝してるわけじゃないのよ。普通にデリのトレーディングやってる程度の”トレーダー”なら、まずは三田さんの本を読んで勉強しなさい。その上で投資一族の批判を読みなさい。僕のブログは無料で、三田さんの本は有料なんだけど、その価値はある。俺のブログは、三田さんの本など読む必要が無い人向けに書かれていて、そんな人は世の中、特に日本語が読める人の中に、数えるほどしかいないから、売り物にならないの。三田さんの本は、その点、わかりやすく図解付で書かれているぞ。
最後に、P209~210にあるコラム、「ブラックショールズの思い出」というコラム、なかなか面白いぞw あとがきにて「くだらない挿話の替わりに、真面目な話をもっと書くべきではないかという批判もあると思います」と三田さんは謙虚に書いているが、挿話も悪くなかったと私個人は思います。特に最後の「ブラックショールズの思い出」というコラム、読みたい人は、ケチらず「証券会社の儲けの構造」を買って確認してくださいw
私は三田さん本人ではありませんし、三田さんとはまったく面識ありませんし、回し者でもありません。シリーズを読み返してください。かなり頑張って、いちやもん・楯突いてます。自作自演のツッコミ・批判というレベルではないくらい頑張っています。総じて良い本だと思いますが、私には何のプラスにもならない本です。なのでネタとして引用させてもらっています。この本を読んで、「何のプラスにもならない」と言える人が、このブログで書いていることを理解できる人になるのね。
俺が最後にコトを丸く修めようとして、三田さんに媚を売ってると勘違いしないでね。なぜかというと20人のトレーダーを擁するトレーディング部門において、三田さんとか俺に値する”機能”って一人しか要らないの。だから俺と三田さんが一緒に働くことは難しいし、三田さんに「俺を採用してくださいよ」と言っても、「その機能はもうあるから要らない」って言われるだけのこと。でも、ここであえて三田さんに喧嘩売るようなブログを書くことも、俺にとって特にメリットは無い。そういうことじゃねーの。これだけ叩きがいのある文章は、そうは転がってないっていう意味では、三田さんの本を買う意味あるし、三田さんのことを尊敬してるのよ。だからこそ全身全霊を込めて、一言いちやもんをつけておかないと面白く無いだろ?っていう職人魂であって損得勘定関係無しなのよ。
証券会社の「儲け」の構造 | |
三田 哉
中央経済社 2013-04-06 |
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