現在の米国GDPの70%は消費が占めており、個人消費が成長を牽引する構造になっている。ちなみに新興国では中国のように米国の消費を前提とした設備投資が経済を引っ張っており、経済が成熟するにしたがって徐々に消費のシェアが高まると予想されている。だが消費はそもそも所得が増えなければ増加しない。所得は逆に消費が増えて生産が刺激されなければ増加しないはずである。米国はその堂々巡りをどう打ち破ったのだろうか。その説明のために、「個人への割賦販売が消費の増加に寄与した」という事実をたどっておくことにしよう。個人が、自分の貯蓄を越える価値の商品を買うことは、本来不可能である。それあ借金や贈与などによって初めて可能になる。企業が借金によって生産を拡大できるように、個人もまた借金によってその生活水準を上げることができるのだ。レバレッジの原点でもある。
借金の源流は、メソポタミア期の耕作のための種子などに求めることができるが、それが「生活必需品の購入」というよりも「耐久財の購入」に制度的に設計されたのは、個人向けの割賦販売が制度として「発明」されたからである。その手法を編み出したのは、政府金融と企業金融とを大西洋間で発展させることに成功した英国と米国、すなわちアングロ・アメリカンであった。このDNAは、クレジットカードのローン残高の世界一が米国で、二番目が英国であるという、21世紀の現代社会にまでしっかりと受け継がれている。
個人向けの金融は誰が牽引したのだろうか。米国の消費者金融モデルをイタリア系移民のA・P・ジアニーニが設立した「バンク・オブ・アメリカ」(設立当時はバンク・オブ・イタリア)に置いている。西海岸で銀行を開業したジアニーニは、1906年のサンフランシスコ大地震の際に他行が営業できなくなったのに対して、早めに金貨や営業記録を持ち出して数日後には港近くで営業を再開する。都市復興のための融資である。これで資金のメドがついた船長らはシアトルやポートランドにまで船を出港させて、サンフランシスコ復興のための資材を確保することができたという。また、ハリウッド映画の基礎を作ったのもジアニーニであった。当時、担保力のない映画産業は銀行から借り入れることができなかった。そこでジアニーニは一案をめぐらし、映画産業への融資のための担保を見つけた。映画フィルムそのものである。これで映画への融資が始まり、ハリウッドは世界に冠たる映画のメッカとなった。
国際金融システムにおける「ドル一極支配体制の終焉」が言われて久しい。だが、現実にはまだドルは紛れもなく基軸通貨の地位にある。為替相場に見るドルのしぶとさの背景には、誰もドルを売るに売れないという恐怖の均衡に陥ってしまった事実がある。結果的に、世界中の投資家や中央銀行が消去法的にドルを支える構造が定着しているのが現実の姿だ。日本だけでなく中国も産油国も、自ら率先してドル売りを始めれば自分のクビを絞めることになる。国際金融体制は「ドル支援システム」を内蔵してしまったかのようだ。
もっともドルが主軸通貨の地位を維持しているのはそれだけではない。通貨体制の歴史を見ればわかる通り、経済力や外交力の低下がそのまま通過派遣の直結するわけではないからだ。19世紀から20世紀にかけて、ポンドからドルへと「権威」が移行するタイミングと、英国経済と米国経済の力が逆転するタイミングとは、相当のズレがあった。米国の経済力は19世紀後半にはすでに英国を凌駕していたが、明確な形でドルが基軸通貨としてポンドに代替したのはあくまで1944年のブレトンウッズ体制以降のことである。それまでは、金本位制の下で実質的にはポンドとドルの二大通貨が共生する形で国際金融システムを支えていたとみることができる。すなわち、相対的に国力が揺らいだからと言って、すぐに基軸通貨が変わるわけではないのである。ドルという欠陥が至る所に張り巡らされた世界の金融システムを過小評価してはいけない。通貨制度はそれほど単純なものではない。基軸通貨として当時のポンドと現在のドルを比べてみると、むしろドルの基盤は強固である。例えば、北朝鮮もイランもドルが使えなければ交易的に孤立してしまう。金融制裁に威力があるのはドルの基軸性の強さを示している。また機関投資家が資金運用する場合もドル建て市場が提供する商品の豊富さや効率の良さは貴重である。
9月に実行されたファニーメイとフレディーマックの実質国有化が米国の財政に与える影響は、やや曖昧な議論として放置されている。具体的な支援策として財務省はそれぞれの企業に1000億ドルずつ、合計2000億ドルの優先株購入枠を設定したが、二社がすでに発行している5兆ドルを超える債券に関して、政府の財政赤字に合算するかどうかの議論は巧妙に避けられている。そもそも政府支援機関(GSE)の発行債券は「暗黙の政府保証」という曖昧な立場を利用して低利調達を行ってきた。それが今回の「実質国有化」によって「明示的な政府保証」に変わったと考えるべきであり、GSE債は名実ともに米政府保証が加わったと見るべきだ。しからば、それは米国の財政赤字としてカウントされるべきだろう。だが米国政府は公式にそれを認めていない。
中国経済が成長目標を8%に置く一方で、実体経済が10%を超える伸長を見せていた頃は、まだ引き締め政策という切り札と余裕があった。だが2008年第3四半期には成長率が9.0%へと減速し、第4四半期以降はさらに低下する見通しだ。ルービニ教授は「7%よりも下振れするかどうか微妙な状況にある」と警告を発しつつ、中国にも米国同様のハードランディングの危機が迫っていると説く。もっとも中国には税収に支えられた財政出動の余地がある。中国では金利が市場機能を果たしているとは言い難い所があるので、多少利下げしてもそれが景気刺激に直結しにくいところがある。その一方で、財政黒字の活用で経済を底支えすることは可能だろう。そんな期待感に応えるように、中国政府は2008年11月向こう5860億ドルの財政支出を行うことを発表した。
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