ルービニ教授は「米国はこれから厳しいリセッションに陥る、皆が期待するようなソフトランディングはあり得ない、ハードランディングを回避することはできない」と、予言者のように米国経済の暗い見通しを語ってみせたのであった。その内容を大きく要約すれば、以下5点である。
(1)米国は2006-2007にかけて景気後退に陥る。
(2)FRBは金融緩和に動くだろうが、それはリセッションを回避する効果を持たない。
(3)新興国などは「デカップリング」によって米国リセッションの影響を受けずに済むというのは、根拠のない楽観論に過ぎない。
(4)米国だけでなく他国でも株式や商品などの価格が下落する。
(5)現在の米国の経常赤字は持続不可能であり、他国による「ドル資産離れ」が起きる可能性がある。
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ルービニ教授は、リセッションは不可避であるという主張を支える3つの要因を挙げている。まずは「住宅市況の変調」だ。教授は2006年の時点で住宅価格は1930年代以降で初めて下落を始めたと指摘、それがかなり激しいものになると予想している。2番目は「原油価格」である。教授は、上昇するエネルギー価格は経済にスタグフレーション効果を与え、FRBは引き締めへと向かわざるを得ない、と見ている。この「FRBによる金融政策」が3番目の要素だ


米国のリセッションは、2001年3月に始まった。「ハイテクバブルの崩壊」である。2000年3月にナスダック指数は5000近くまで上昇した後、2002年10月には1100台にまで暴落した。リセッション入りの主因はハイテク産業における過剰投資であるが、ルービニ教授はそれに加えて、FRBによる急激な引き締めやイスラエルとパレスチナの緊張による原油価格上昇の気配が影響している。まさに「ハイテク、原油、金融政策」の3点セットである。1990年のリセッションも2001年によく似ている。1988年以降、商業用不動産の価格が急落してS&L(貯蓄投資組合)の破綻が急増した。1980年代後半はブラックマンデーを克服したFRBが金利引き上げに向かい、1990年6月にはイラクによるクウェート侵攻で原油価格が急騰したのだった。「商業用不動産、金融政策、原油」の3点セットだ。つまり、資産の下落、金利上昇、石油価格上昇という3つの要素が加われば、リセッション入りは避けられないのだ、とルービニ教授は解説する。
金融機関の評価損の合計はルービニ教授が予想した金額に近づき、ファニーメイとフレディーマックは国有化され、大手投資銀行も銀行持ち株会社化を決め、ヘッジファンドの淘汰が進んでいく。こうしてルービニ教授が約10兆ドル規模と推定していた規制外の「シャドーバンキング」の大部分が消滅していった。ルービニ教授は「シャドーバンキング」を大きく4つのカテゴリーに分けている。まず商業銀行が簿外に作ったSIV(Structured Investment Vehicle)と呼ばれる投資目的の特別会社、規制対象外の投資銀行のバランスシート、GSE(Government Sponsored Enterprise)と呼ばれるファニーメイ、フレディーマックなど政府系住宅金融公社、そしてヘッジファンドやPEファンドなどのファンドである。米国金融当局は、こうした「シャドーバンキング」が「リアル・バンキング」と同じくらいの資産規模にまで膨張していることに気づいていなかったのである。
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