世界中のすべての本をスキャンするんだ
2005年5月には、グーグルは創業以来最も大胆かつ危険な賭けに打って出た。新アドワーズが完成した今、グーグルは広告の配信に乗り出そうと考えていた。そのためにも、すでに1日1億5千万件に達していた検索の処理件数をさらに増やす必要がある。そこで目をつけたのがAOLだ。AOLはその後一気に凋落していったため、かつてどれほど隆盛を極めていたかを忘れてしまいがちだ。ネットの業界では、AOLのサービスを補助輪付とバカにする者も多い。しかし初心者にも使いやすいAOLのサービスこそ、ネットの大衆化を促した原動力であり、2002年の段階でAOLが3400万人もの有料会員を擁していた理由でもあった。その膨大な会員を抱えたポータルサイトは、まさにグーグルにとってうってつけのターゲットであった。とはいえ、すでにAOLの検索と広告販売は、ライバルの検索エンジン、オーバーチュアが獲得していた。そのうえ当時AOLの上級副社長であったリンダ・クラリツィオの言葉を借りれば「グーグルなど誰も知らない会社だった」。オーバーチュアの契約が2002年の5月で終了することをしった創業者らは、なんとしてもそれをモノにしようと決意した。
「入札に参加して、絶対に勝つんだ!」
「そんなことをすれば、会社そのものが潰れるリスクがある。オミッド・コーデスタニが応じた。「ページビューが増えれば売上に結びつくはずだ。それができない会社なら、破産したって仕方が無いさ」とペイジははねつけた。そこで銀行預金が千万ドルしかないにもかかわらず、グーグルはAOLに広告収入の85%を渡すことに加え、収入の最低保証として年間1億5千万ドルを約束した。「破産してもおかしくなかった」とブリンは振り返る。「グーグルと契約することによって、AOLはそれまで囲い込んでいた消費者のデータを明け渡したんだ」
「世界中の本はどこに行けば手に入るんだろう?」
「米議会図書館だろうな」とシュミット。
「どうすれば議会図書館と接触できるかな?」とペイジが尋ねた。2人は同時にその答えを思いついた。
「アル・ゴアに連絡したんだ。議会図書館の責任者の友人だったからね」
ペイジも母校のミシガン大学に「金を払うので、700万冊の蔵書を電子化させて欲しい」と打診した。ミシガン大学が同意すると、ワシントンに飛んで議会図書館とも契約した。その後間もなくスタンフォード大学、オックスフォード大学、ニューヨーク公共図書館などとも契約を結んだ。このプロジェクトには重要な目的があるという。ネット上でしかモノを読まない若者たちに、読書を促すことだ。「大学生を集めて『去年図書館に足を運んだ人は?』と聞いたところ半分しか手を挙げなかった。ウェブ上に大量の情報があるので、そうした二次的な情報元で満足してしまうんだ」。一方、このプロジェクトは、本をより多くの読者に紹介するための”プロモーション手段”と表現できる。すでにこれまでに出版された2000万冊以上の本のうち、約90%が絶版となっている。1日あたり1万冊をデジタル化することを目標にした。しかし、いつも拙速に目的を果たそうとするグーグルは、ひと休止して、本の著作権を持つ著者や出版社としっかりと話し合おうとはしなかった。ブリンは言う。「そんなことをしていたら、僕らの計画を始められなかったかもしれない。」この話し合いの欠如は、後に訴訟を呼び込むことになった。
新しいメールシステム、AOLのようなプロバイダーと異なり、グーグルのメールサービスは無料で、しかもユーザーがメールの内容や相手先などを入力すれば、アーカイブから簡単に過去のメールを検索できる機能があった。さらにヤフーの無慮メールでは1人のユーザが使えるストレージの容量は4メガバイトだったのに対し、グーグルはその250倍にあたる1ギガバイトを提供しようとしていた。それだけの記憶容量があればメールを削除する必要は一切なくなるはずだった。そこでメールを削除するという無駄な手間を省くため、Gメールには当初デリートボタンをつけなかった。そこに予想外の反応が沸き起こった。ユーザーはグーグルがメールを盗み見るのではないかという不安を抱いたのだ。グーグルにポール・ブックハイトが開発した、メールをスキャンするソフトウェア(アドセンスを生み出すのに使われたもの)があったことも、こうした不安を助長した。グーグルから見れば、このソフトウェアはメールに入力されたキーワードに適した広告を表示し、売上を得るための道具に過ぎなかった。「グーグルが目論んでいるのはプライバシーの侵害であり、絶対的な権力を持つビッグブラザーのように全てを監視しようとしている」という批判は日に日に強まった。グーグルのエンジニア陣は、マイクロソフトが「パスポート」プログラムの導入で犯した失敗に学ぶことができなかったのだ。1999年に導入されたパスポートは、個人情報を蓄積し、ログインネームとパスワードを入力すればアクセスできるようにする仕組みだった。だが発売と同時に「マイクロソフトなら勝手にこうした個人情報を利用しかねない」という批判の嵐が巻き起こった。
株式公開 一般用と経営者用。権利に差のある株上場に「より良い世界を目指す我々は普通の会社ではない」と創業者は語る。
グーグルは成長のために資金を必要としていたものの、それは同時にグーグル自身に困難な選択を迫るものでもあった。2003年には株主が500人大台を超えた。連邦法上の規定では株主が500人を超えて1年以上経過した企業は、株式を公開するか、財務内容を公表しなければならない。いずれにしてもグーグル・ロケットの内情が公になるのだ。シュミットによると、ペイジとブリンは株式公開を望んではいなかった。ライバルに内部情報や成長の勢いを知らせたくなかったのはもちろん、ウォール街の気まぐれな馬鹿騒ぎに付き合うのは真っ平だった。投資銀行にアドバイス料を恵んでやること、投資家に成長戦略をアピールしにくいこと、ウォール街に株式の売出価格を決めさせること。すべてが2人には不愉快きわまりなかった。
2種類の株
二人はIPOを科学の実験のように捕らえ、独自のソリューションを編み出した。投資銀行が独断で最低価格を決めたり、大口の顧客に有利な価格で株を割り当てたりするのではなく、もっと平等な方法は無いか。そこで行き着いたのが、広告販売と同じようなオークション形式だ。最低価格はグーグルが決め、それを上回る価格で入札した人は、誰でも最低5株買える。株式を販売するウォール街の引受会社が受取る手数料は、通常の7%ではなく3%とした。さらに2人がグーグルの”コア・バリュー”と考えるものや、長期的な視野に立った経営を貫くために、2種類の株(デュアル・ストック制度)を導入することにした。一般投資家向けのクラスA株は議決権が1株あたり1票であるのに対し、創業者やシュミットらグーグル幹部が保有するクラスB株には1株当たり10票の議決権があり、クラスBの株だけで議決権の61.4%を占める仕組みだった。
創業者達が提案したこの株式構造に、ドーアとモリッツは猛反対した。一般株主を二級市民のように扱い、経営陣が株主への説明責任を免れるためのシステムだと考えたのだ。「非民主的な感じがしたんだ」とドーアは振り返る。創業者たちは理論武装を済ませていた。デュアル・ストック制度はニューヨークタイムズ社が採用していた。そして同じ制度を取るワシントン・ポスト社の取締役バリー・ディラーに2人はすでに相談していた。ディラーは著名投資家のウォーレン・バフェットが率いるバークシャー・ハザウェイなど、議決権の違う2種類の株を持つ企業は他にもあることを2人に説明した。
「グーグルは型にはまった会社ではなく、そうなるつもりもない」
創造性を失わず、投資家ではなくユーザー重視の姿勢を貫くため、”四半期ごとに市場から寄せられる期待”におもねるつもりはない。配当を払うつもりもない。さらに四半期ごとの業績を予想して”収益予想”を提示する業界のしきたりに従うつもりもない、とした。「経営陣が短期目標に振り回されるのは、ダイエットをしている人が30分後とに体重計に乗るのと同じくらい無意味なことだ」と言い切っている。
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