1.国際通貨とはなにか
財・サービスの国際貿易や資産の国際取引に際して、価格の表示・決済に用いられる通貨、あるいは民間の経済主体と各国通貨当局によって国際流動準備として保有される通貨が国際通貨です。国内通貨の場合には、現金通貨は法律によって受領性を与えられていますから、法貨に関する限り通貨とはなにかは明白に決まっています。しかし国際通貨の定義は、具体的に金(きん)、米ドル、英ポンド、国際通貨基金(IMF)引出権などのうち、どれが国際通貨であるかを定めるのは必ずしも容易ではありません。IMFといえども一国の通貨当局のように強制力を持つわけではなく、また国際通貨の管理に権力と責任を持つ機関も存在しないからです。
国際という言葉が持つ虚しさよのぅ・・・。国際連合、国際司法裁判所、国際通貨基金、国家が最高権威で内政不干渉の原則がある限り、その上に立つ”国際”という言葉に意味は無い。前者2つの平和系=内政不干渉の原則と矛盾する戦争に干渉するという、なんだかよくわからない国際機関に比べれば、IMFやECBは存在意義が強そうな印象があるな。
国際通貨が備えるべき特徴として、1)国際通貨としての歴史の長さ、2)取引される市場の規模の大きさと制約の少なさ、3)当通貨にかかわる金融市場の整備、4)価値の安定、の4つを上げることができます。金は国際通貨としての歴史の点では群を抜いていますが、他の点では劣ります。現在、金は国際取引の決済には用いられていませんし、金を価値尺度にした取引もほとんどありません。価値の安定という見地からも、後述のとおり金を国際通貨とする利点は少ないのです。IMFの引出権とくに特別引出権(SDR)は、やはりいくつかの難点を持っています。すなわち民間取引に用いられない、歴史が浅い、規模が小さいなどですが、価値の安定という面では(主要国通貨のバスケット表示)優れているといえましょうか。
国際通貨問題
国際通貨の場合、ドルあるいは金に国際的な受領性を与える世界政府があるわけではなく、確固たる国際協定さえ存在しないのです。したがって国際通貨と見なされるドルの受領性にもしばしば疑問が抱かれることになります。特に1960年の後半に入ってからは、ドル不安が何度も発生しました。
これはドルに対する「信認の欠如」と呼ばれており、国際通貨問題の重要な側面をなしています。国際通貨に法的受領性を与える政治権力が存在しないことが信認問題を引き起こします。同じ事情は、「流動性の供給」の問題を引き起こします。国際的に流通するドルの量は、アメリカの国内経済政策の結果として受動的に決まるに過ぎず、国際取引の成長に応じて適当な率で国際流動性(国際通貨)の供給を増加することが必要だとされていますが、それを実施する通貨当局がありません。そこから流動性問題が発生します。
最適通貨圏
これまでの議論は、1つの国が1つの通貨を持ち、国の間にはすべて変化しうる為替相場が存在するかのごとくみなしてきました。独立国がすべて独自の通貨を持つのはともかく、各々為替相場が全て変化しうるものと見なすのは必ずしも現実的ではありません。若干の国は、ある「強力な」国の通貨に自国通貨を釘付けし、釘付け相場を容易には変化しないことをもって得策とするでしょう。外国との取引の比率が国内取引に比べて大きい国、すなわち国内市場が比較的小さい国の場合には、外国為替市場が国内市場から離れて独自の動きを示す公算がでてきます。他にも、労働、資本などが国境を越えて自由に移動しうる国の間では、独自の通貨政策を実施する必要はないでしょう。有効需要の過不足は生産要素の移動によって是正されうるからです。
金為替本位制の欠点を数えると次のようになります。信認との関係は、いくつかの国が金の保有を増加しようとする傾向をあげることができます。複数の国が非常用以上の金の保有を計画するようになれば、本来の金為替本位制はうまく機能しなくなり、国際収支の黒字獲得のゲームが始まることになるでしょう。金為替本位制のもとでの調整は、国際収支の黒字国(外貨の蓄積国)が金融緩和策を取り、赤字国が引き締め策をとるのがルールです。しかしインフレを嫌う国は黒字あっても国内経済拡張策を取らないでしょう。1930年代には、大量の金流入に直面したアメリカの金不受胎化政策が調整メカニズムの作用を妨げ、国際通貨体制に混乱を生ぜじめました。赤字国も失業発生を嫌うなら引き締め政策を取らず、かわりに為替平価の切り下げ、輸入制限などの手段に訴えるでしょう。基軸通貨国が赤字になり、平価切り下げを行うなら基軸通貨の保有の収益はマイナスになりえますから、信認を損ないます。
ここでは管理通貨制度のもとで行われた平価の競争的切り下げと、保護貿易政策を説明しておきましょう。大量の失業に悩まされた各国は、国内措置で景気回復をはかるかわりに、輸出促進と輸入抑制を通して景気回復をはかるという安易な道を選びました。輸出促進は平価切下げ、輸入抑制は関税引き上げ、輸入割り当ての強化によって実現されました。輸出が増加し、輸入が減少すると、差し当たり景気は回復し、失業も救済されます。けれども貿易相手国の立場からみますと、輸入が増加し、輸出が減少したわけですから、景気は悪化し失業が増加します。つまり輸出促進と輸入抑制によって景気回復をはかると、あたかも貿易相手国に失業を輸出したような結果になるわけです。1930年代には各国が競争的に平価を切り下げ、保護貿易政策が大手をふってまかり通ったのです。その結果、世界の貿易量は大幅に縮小し、各国間に敵意が生まれました。これが第二次世界大戦の一つの原因になったといえるかもしれません。
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