政府軍の尖兵部隊 東方貿易
東方貿易は中国国営貿易会社によって設立された会社で、東方貿易系列の中間卸会社や小売会社は東方貿易から商品を仕入れて市場相場よりかなり安い値段で売っている。江南省対外貿易輸入輸出公司を主要出資先とする会社で旧ソ連邦・東欧向けの貿易を担当していた。しかし1990年にハンガリーの社会体制が変わって以降、バーター貿易ができなくなり、外貨決済に変更を余儀なくされた。しかし、外貨決済となると工業製品など従来の中国製品に対して、ハンガリーは見向きもしなくなってしまった。危機感を抱いた江南省対外貿易輸入輸出公司では、東欧に進出した新華僑にヒントを得、ハンガリーに会社を設立することに決めたのである。国営企業の有利さを最大限に利用して衣料品を大量輸入し、安い価格でどんどん卸していく。東方貿易はハンガリー進出当初、ハンガリー消費財輸入輸出会社といった国営企業あるいは国営貿易会社を相手に商売しようと考えていた。しかし彼らには積極的に商売を推し進めようという意欲がまったくなく、また、品物を輸入するための外貨さえないという困窮ぶり。当時、新華僑系企業はすでに系列化の傾向を見せ始めていた。しかし、在ハンガリー中国人社会に完全に浸透しているわけではなかった。紅七市場に頻繁に足を運び、携帯電話を持っている人や露店で景気良く商売している人たちにかまわず声をかけ、格安で売れ筋の商品を卸しましょう、と商談を持ちかけ、ハンガリー市場に根を下ろすようになった。
ハンガリーからルーマニアへ
チャウシシェスク政権当時のルーマニアは、ソ連邦とは一線を画していた。そして、政治教育の影響から大多数の中国人はルーマニアに対して親近感を持っている。東欧ではハンガリーが一番豊かな国ということぐらいは東欧を目指す中国人は一応知っている。1991年7月7日、ハンガリー政府はこれまで中国政府との間に結ばれていた相互査証免除協定に基づいた中国人のハンガリー入国を突然制限し、ハンガリー滞在中の中国人を強制送還する政策を打ち出した。わずか数カ月で中国人が経営する会社の95%が倒産に追い込まれて逝った。こうした状況下、ハンガリーに留まることができず、しかも中国に戻ることも望まない中国人の大逃亡がはじまった。その逃亡先が、ルーマニアであった。そのうち、ブカレストなどルーマニアの大都市に投資し会社などを設立した中国人は約10分の1、大多数の中国人はルーマニアを経由して西側諸国に行こうとしている、という。
ルーマニアの平均賃金は、年収で約1万レイ、生活水準は非常に低い。中国製品を輸入しても販売価格がコストを下回ってしまうため、まったく利益が上がらない。ルーマニア人は品質が高い商品よりも値段の安いものを求めている。したがって商売がなかなか軌道に乗っていかない。東欧をビジネスチャンスの地と思いルーマニアにやってきた中国人は、ほとんど後悔している。ブカレストには中華レストランが10件近くあるが、いずれも最近開店したものである。中華レストランをオープンしようと計画している人は200人は下らない。いっぽう、ルーマニア人は一般的に他人に店舗を貸そうとしない。貸したとしても1か月から3ヶ月くらいの短期賃貸契約しか結ばないのだ。契約期間内に中華レストランがうまく軌道に乗るようだと、大家は家賃の大幅な値上げを要求する。中国人が内装に金を費やすなどの投資をしていることなどまったく考慮せず、ただ貪欲に金を取ろうとするだけだ。貿易を行いたいと考えている新華僑も多いが、ルーマニアには投資保護といった条例が無く、投資した資金が回収できない恐れもある。また輸入品の代金を外貨で海外に送金しようとしても、外貨管理規制があるので自由に外国へ送金できない。輸入税などの相次ぐ大幅値上げ、最近まで外国製のテレビに課せられていた8-15%の輸入税が、いまでは70%に引き上げられた。
ベルリンのアルバイト事情
ドイツで事業を興すのは非常に困難であり、いままで会社を設立したという新華僑の話を耳にしたことがないという。まず、滞在ビザの許可がおりにくい、かなりの額の資本金が必要、年間のアルバイト時間が厳しく制限されているドイツでは、なかなか思うように稼げず、資金が容易に溜まらない。さらに労働時間はヨーロッパで一番短く、賃金は一番高く、そして、休暇を長く楽しむと言うドイツ流の生活に中国人もすっかり馴れてしまっていたから、コツコツと長い時間労働することに対し、本能的に抵抗を覚えてしまうのだ。
中国最高のシンクタンクである中国科学院におかれた国政分析研究グループが1989年に中国政府に提出したレポート『生存と発展』の予測によると、2020年代、中国では3つの人口のピークを迎える。総人口は少なくとも15億人になり、労働人口は10億人、老齢者人口は3億人以上になる。この3つの人口のピークが到来するまでに経済を大いに発展させることができず、かつ人口抑制政策を効果的に徹底させられずに1980年代後半当時の現状で推移した場合、「大動乱が発生し、近代化の実現どころか、中華民族の基本的生存条件さえも維持できず、中国は永遠に日の目を見られなくなってしまう恐れがある。中国は大規模な農産物輸入を迫られるか、あるいは世界各国に対し、大規模な人口輸出を行う以外、選択の余地は無いだろう。
1986年天安門広場で民主化運動が弾圧された直後、鄧小平は東南アジアを震撼させるような発言を行った。「もし中国共産党が中国をコントロールできなくなったならば、1億人の中国人がインドネシアに流れ、1000万人がタイへ、50万人が香港に流れるだろう」 脅迫に聞こえなくもない鄧小平の発言は、誰もが無視できないリアリティを持っている。中国経済が順調に発展することは目前に迫った人口危機問題を回避ないし解決するための最良の方法であろう。その意味で中国の高度経済成長は両手を上げて歓迎すべきだ。一部の日本人はすでに中国を経済ライバルに見立て、経済大国中国の出現に強い警戒心を示すという過剰反応を引き起こしている。普遍的に中国市場を日本経済の下請け、孫請け状態におきたがるそうした人間の時代遅れの思考に、いかほどの現実性があるのか。私は強く疑問を抱くと同時に、中国の人口問題の重大性と深刻さに目を向けようとしない近視眼的思考に対し、批判の矢を放ちたい。

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