これ幸田真音のデビュー作の文庫版だったようです。女性っぽい名前だと思いましたが、本当に女性だったとは今知りました。Wikiで見る限りなかなか精力的な女性のようですね。
1日で読んでしまった。内容が軽いな。しかし、ディーリング、アービトラージ、デリバティブ取引というものを詳細を説明せずにドラマティックに面白おかしく書きたてる文章力は私も見習わなければならない。私もこのブログ上でその実態について、何度も書いているが、多くの読者にとって難解で面白くない記事になっている。素人にも読みやすく、プロが読んでも深みのある文章を書いてみたいのだが、どうしても最後に読み返すとプロ向けの記事に仕上がっている結果になってしまう。
「リスクが大きすぎませんか。それじゃあギャンブルになってしまう。あなたは投資家であって、ギャンブラーになってはいけないと思うのですが」
ファンドは投資家だと思うのだが、金融機関のディーリング部隊は投資家とは言えない。どんな取引でも原則は流動性供給者としての参加であり、流動性プレミアムを受け取るというのが基本である。
市場の動きではなく、流動性プレミアムが収益の源泉であり、ポジションは作るものではなく、収益の範囲内で解消する(Unwind)ものだという市場リスクに消極的な立場が一般的だろう。
それに対する反骨精神なのか、当てつけのごとく、「ある投資家」とブログにタイトルづけている著者の意図は、チマチマとした流動性供給ではなく、自身は投資=投資家マインドで市場に臨むという宣言だと私は解釈している。
それからもう一つ。小説の中で終始登場している円高悪玉論。日本では常識の円高=悪は、どこの国にも通じない変わった考え方だ。自国の通貨が買われていて嘆く人は居ない。貿易黒字のドイツ人だって、もはやマルクではないのにユーロが上がると喜ぶし、ユーロ・ポンドのユーロ優位は気分が良いし、ユーロとブンズには常に強気。中国にとって元高は悩みの種ではあるものの、自国通貨が買われる方向は歓迎していることが、買いはよいよい売りは禁止という元の取引規制によく現れている。アメリカ大統領が「強いドルを支持する」以外は言えないだろう?
円高で日本経済破綻っておかしいだろ? 株が買われ過ぎて会社が倒産すると騒いでいるようなものだ。

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幸田 真音

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