銀行と企業と日本(地域)の利害が一致した、ベクトルが揃った状態でのモデルは「疑似エクイティ」モデルと呼ばれる。疑似エクイティを供給する銀行は一般的に「主力銀行、メインバンク」を想定した場合が多い。こうした形態は比較的大手の法人企業と取引する大手銀行にあてはまるものが多い。
信用仲介を銀行が一手に担うなかで銀行と企業の一体化が進んだことを表している。銀行が株式保有も含めプロセスを一手に囲い込んでいたと考えられる。それは銀行が資金を供給し経営にも関与する意味で成長の見込まれる未公開企業に出資しそれを育て上げる「プライベートエクイティ」モデルでもあった。すなわち、戦後の日本の主力銀行を中心とした貸出モデルは株式保有が前提となっており、株式保有によって企業価値増加のアップワードポテンシャルを享受していたと考えることもできる。そのモデルは戦後一貫して成功裏に推移したが、日本の銀行が日本経済のインデックスファンドになってしまったばかりに、本来、プライベートエクイティファンドでは売却・新規公開で利益を確定させるエクジットが必要であるにもかかわらず、エクジットすることもできずに「共倒れ」の流れに入ってしまった。
主力銀行の貸出は劣後貸出
債務の償還の確実性が最も高い優先貸出と優先貸出が全額返済された後で返済となる劣後貸出に分けられる。主力銀行に貸出先に対して強いコミットメントを持つということ、すなわち、「最後まで逃げない」ということは、自ら持つ貸出債権に対する返済を最も後回しにするという点で、先に想定した負担の序列が崩れ、劣後性を持つことになる。つまり、主力銀行の取引先の取引先に対するコミットメントの強さは、債券の性格を非主力銀行のものとは異なったものにしていた。すなわち主力銀行の貸出は、契約上明記されていないものの、実態上は「劣後性の貸出」であった。貸出先の企業価値(融資先の信用状況)によって、主力銀行と非主力銀行の実質的な貸出価値は大きく異なっていたはずである。さらに主力銀行の貸出は「メイン寄せ」というオプション取引が暗黙のうちに含まれていたと考えられる。主力銀行と非主力銀行との関係は企業価値が低下して破綻状況に近づけば近づくほど、主力銀行の負担が大きくなり、本来ありえないはずの負担を背負うことにもなりうる。主力銀行から見れば暗黙のうちに「企業価値のプットオプション」を売却売る契約が付いていたようなものである。主力銀行は「メイン寄せ」によって企業価値が低下すると急速にキャッシュフローが悪化し、マイナスになる場合もある。しかも主力銀行と非主力銀行の貸出金利に違いがない場合が多かったことからすると、主力銀行はこのプットオプションをただ同然で売却していた可能性が強い。主力銀行の損益は、本来、①貸出、②メイン寄せ効果(非主力銀行が保有する貸出を主力銀行に肩代わりさせること)、③株式の三つの取引が組み合わさったものと考える。主力銀行が収益を拡大させるためには、貸出先企業が成長して株式価値が高まることが必要となる。まさに主力銀行は「企業とともにある銀行」であり、一蓮托生の関係になる。すなわち、理論上も企業価値の動きと同一性を持つ、文字通り「企業と一体化」した状態にあったと考える。
銀行はリスクを取り過ぎていて、証券は逃げ過ぎていた。株屋と揶揄されるゆえんは「手数料商売」に徹しすぎて、顧客とともに栄えるなどという考えはなく、「客を殺す」という証券会社の体質にもこの原因として考えられる。メインバンクはプットをタダで売っているのだろうが、収益の絶対額の大きさ(収益性ではない)、シェアを取るということが、プット売却の際の受益である。
銀行の改革を”証券化”を通じて直接金融化する流れを作るのは難しいだろう。この暗黙の劣後ローンを明文化すると、時価で売却したら主力銀行は大きな赤字になってしまう。また劣後ローンの劣後性を取りやめると貸出先が持たない。証券化を本来担うべき証券会社の参入もご時世的に難しい。証券会社はブローカレッジに徹し、バランスシートを使うトレーディングが縮小傾向にあるのは、日本だけでなく世界の潮流で、日本だけがそれを拡大することを期待するのは難しい。
それでは主力銀行はなぜ、割に合わない主力銀行の立場を引き受けてきたのか。戦後、拡大期においては金融機関のビジネスモデルはいかに規模を拡大するか、シェアを上げるかの椅子取りゲームであり、金融機関の優劣は資金量を中心に規模で序列付けられる時代でもあった。主力銀行の地位を確保し、常に資金需要の拡大に応えられる長期安定益な関係の確保が優先された。そうした状況下で「不義理」な対応を行えば、その後、シェア拡大時の恩恵に浴することはできなかった。大手行にとって「規模拡大」「シェア拡大」のビジネスモデルは不可欠なものであり、大手行に入っていない金融機関は安定した成長、規模拡大を実現しにくく、同時に金融サークルでのプレステージも高く見られにくかった。
最も重要な視点は、株式投資によって本源的なクレジット投資が可能となることである。企業金融においてはデットとエクイティをどのような割合で組み合わせて効率的に資金を仲介するかが重要である。当時の銀行は貸出によってデットを供給する傍ら、投資家として株式を持つことで企業ファイナンスを支えていたのである。メインバンクシステムとは持ち合い株式構造そのものといってもよい。主力銀行の大きなメリットは取引企業の成長を株式投資のキャピタルゲインで実現できる点と、デットとエクイティの両方の金融手段を活用したクレジットの投資機会を広げることにあったのだ。
大手行と地域金融機関の持つ地元企業向けの「疑似エクイティ」は異なる性格を持っていることに注意する必要がある。大手行の取引先である大企業向け取引では、株式市場に上場している場合もあり、当該企業の業績が拡大した時に銀行が収益機会を獲得する手段がある。具体的には取引先企業の株式を市場で売却すればいい。しかし、地域金融機関が地元企業に対する取引のなかで、収益機会を実現化させる手段は極めて限定的であり、逆に当該企業の業績が悪化した場合に支えなくてはならなくなる。地域金融機関にとっての疑似エクイティは、ダウンサイドリスクの方が高いという非対称な性質を持ちやすい。90年代後半から行われた債務調整は大企業と大手行が中心であったが、経営難に陥った企業の中には一定の存在基盤を有するものも多く、債務負担を切り離せばキャッシュフローを生む部分を持つことも多かった。しかし地域経済の場合、その劣後部分のリスクの引受手が限られることから処理は一段と難しい。地方への権限及び税源委譲の具体的方向性が定まらない中で、三位一体改革の名のもとに、地方交付税縮小、補助金削減、公共投資削減等、地域への資金配分機能を低下させる状況が生じており、これも環境を一層困難にさせている。こうしたなかで比較的負担を免れてきたのは、公的金融機関と新たにビジネスを開始した外資系の金融機関等であった。公的金融機関はその制度上の制約からデットリストラクチャリングが行いにくく負担が除外されやすかった。また、外国資本を導入した新たな金融機関は非主力銀行に徹することをビジネスモデルとしているケースが多い。
新生銀行のことですね。ダイエーに対する貸し剥がしとか見事な逃げっぷりだったな。そんな新生も今や虫の息ですが・・・
【金と金融の意義】
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