東南アジア工業化の牽引者 民族資本・華僑・外資
シンガポール
マラヤ連邦としてマレーシアと合同して独立した当初は、国内市場向け生産を目的とした輸入代替工業化を計画していた。
しかし65年の分離独立後から、マレーシア市場に期待することが不可能となり、国内市場や有力の企業家、資本家を欠く
という初期条件から、シンガポールは市場だけでなく資本も外国を依存する輸出志向工業化を採用
した。外資は特定部門
に集中的に流入し、70年代は石油精製が第一位であり、製造業生産の36%、付加価値の17.5%、輸出の約20%を
占めた。、あた毎年の製造業准投資額のうち75~80%が外資によって行われた。シンガポールは国全体がいわば輸出加工
区のようなものであり、開発途上国では少ない100%外資企業を認めた国であった。
 外資の圧倒的な経済力に対して、一定の防衛手段として機能を果たしたのが公営企業である。売上上位20位のうち外
資14社、公営4社、地場2社、上位100社では外資67社、公営13社、地場20社で、外資の比率が高い一方で公
営が一定の比重を占めている。公営企業の主要業種は航空事業、造船、石油精製、金融、海運、不動産、観光等
に及
び、その企業数は600社を上回る。公営企業の非効率から経済全体を非効率化させるという事例が多いが、シンガポール
の公営企業は効率的で、しかも政府政策を先取りして事業を展開しており、華僑・華人が経営する民間企業といっても過
言ではない。地場民間企業の製造業分野での比重は低い。金融やサービス部門では有力な企業グループが形成されてい
るが、製造業では他のASEAN諸国に比較して企業グループの数が少ない。また三大華僑・華人銀行グループのOCBC、
UOB、OUBは有名であるが、ビールやソフトドリンクの飲料を除いて、製造業への投資は積極的に行っていない。
タイ
農林漁業に代わって製造業を中心とした第二次産業が、80年代中期以降増加してきた。輸出に占める製造業品のシェ
アは85年42.2%、95年72.6%も急増した。80年代前半の経済危機を乗り切るために、政府派輸出拡大を政策
の中心に据えた。外資を積極的に導入するために、輸出産業に加えて労働集約産業に対する100%外資が許可された。
また輸入関税の引き下げ、輸入規制の緩和、産業保護の削減、輸入品と国産品の差別的事業税の修正、価格統制の
緩和等によりタイが輸出を重視する政策に転換したことが明らかになった。政策転換に呼応して、日本、次いでNIES資本
のタイへの流入が増加した。60~85年でタイのBOI(投資委員会)に登録された外資の資本累計は103.59億バー
ツであった。86~94年に許可された外資は3207.29億バーツに達し、空前の投資ブームが起きた。
 しかし、タイは1997年7月に短期国際資本の攻撃から為替相場の暴落、株価の暴落から企業業績が急激に悪化し
97年のGDP成長率はマイナス0.4%低下した。バーツは70年代初期から米ドルとリンクさせていた。開発途上国は為替
取引量が少なく。短期的な外資の流出入で為替相場が大きく変動するのを避けるために有力な国際通貨と連動して変化
させる手段を採用した。IMFのいうようにこれは市場メカニズムによる価格決定ではないが、タイをはじめとして開発途上国で
は為替安定手段として有力であるとみなされた。タイでは85年以降の投資ブーム期にドルリンクが有効に作用した。当時は
円高・ドル安、したがってバーツ安であったことから輸出向け生産を目的とした外資・あるいは輸出向けに転換してきた国内
資本にとって投資インセンティブとなった
。しかし90年代中期にこれが円安・ドル高に変化すると、逆に輸出、投資にマイナス
となり、経常収支の悪化を大きくさせた。経常収支の赤字は93年に開設させたオフショア市場(BIBF)を通じて手当てで
きたことから、ドルリンクは維持されたのである。ドルリンクとオフショア市場は内外資本にとっても為替リスクなしにドル資金を得
ることができ好都合であった。ここに国際資本が目をつけ攻撃し、その資金量からついにタイはドルリンクから変動相場へと転
換したのである。
マレーシア
マレーシアのGDP構成、輸出構成、製造業付加価値構成の推移はほぼタイのそれと同じ傾向を示し、80年代中期以降
に急激に変化した。ブミプトラ政策の大きな柱として1980年代から第二次輸入代替ともいえる重化学工業化をマレー人に
限定して実施
した。これが財政を圧迫し、他方で80年代の世界経済後退から輸出減少して国際収支圧力が高まった。
そのためにさらに外資を流入させることを目指し、86年に投資奨励策と規制緩和を導入した。雇用規模350人以上の投
資は100%外資を認め、FTZに入居しなくても同じインセンティブを与え、工業調整法(一定規模以上の企業は毎年の
ライセンス取得を義務付けられ、取得に際しては種族構成に見合った雇用構成、株式保有比率として30%はマレー人で
なければならない)対象企業の資本金250万リンギ(従来は100万)、従業員75人(従来は50人)に引き上げたこと
から一部の大手企業を除いて多くの企業はこの規定の対象外となった。98年9月、為替管理として、海外市場でのリンギ
取引の禁止、外国人勘定間の資金移動は中銀の承認が必要、輸出入決済は外貨建て、非居住者のリンギ持ち出し・
持ち込みは1000リングを限度とする。居住者による外貨持ち出しは10,000リンギ相当以上は中銀の許可を必要とす
る、を実施した。また貿易にかかわる為替交換、海外からの直接投資による利子、配当の本国送金は認められたが、リンギ
建て資産の売却代金は1年間据え置いた後に外貨への交換が認められることになり、事実上海外からの短期投資はでき
なくなった。
【差別被差別構造】
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