香港の発展とアジアへのインパクト
香港で始まった輸出志向工業化は、当初から政策的な裏づけがあったわけではない。香港が植民地であり、レッセフェール
(自由放任)のもとにあったからである
。香港は自由貿易港としてイギリスの支配の下で第二次大戦前から貿易・金融を
中心としたサービス産業が発展していたが、独立した政治体制を有しておらず、政策支援によって工業化を推進することは
なかった。香港は市場としては狭く、工業化にとってはマイナスであった。しかし商品や原種資金の調達も容易であるという
特徴を有していた。第二次大戦後はこれに加えて中国大陸から多数の難民が流入し、多くの未熟練労働力を抱えること
になった。大陸からの難民は労働者だけでなく、上海で発展していた紡績業を行っていた企業家も含まれていた。これらが
結びつき、香港で製造業品の加工輸出が展開される契機が生まれた。
経済規模の小さな香港の急速な発展は、生産要素価格を高騰させ、それを吸収するために経済構造を高度化させなけれ
ばならなくなった。特に労働供給が限定されていることから賃金上昇が著しかった。1980年代後半の香港ドルの対米ドル
に対する為替レート上昇によって拍車がかかり、香港ドルは85-91年間に約20%きりあがった。したがって企業は対応と
ともに生産拠点を香港外に求めるようになった。特に80年代の中国における改革・開放政策の本格化に伴い、隣接する
広東省への生産拠点移転が増大
した。広東省への海外直接投資は1985~92年末までの累計で中国全体の39.8
%(契約額ベース、件数では38.7%)と圧倒的なシェアを占めた。また広東省への直接投資の契約金額の80.1%が
香港・マカオからのものである(ただし、香港を経由して投資された香港以外の国の投資がかなり含まれている)。
広東省の面積は中国の2%、人口は5.5%を占めるにすぎないが、経済的には1991年のGDP、工業生産、農業生産
は中国全体の約9%を占め、中国経済の中心となった。
アジア発展モデルとしての台湾中小企業とその将来
54年時点で実施された調査によれば、製造業企業数は39,748、このうち公営企業が52で圧倒的に民間企業の数
が多かった。しかし資本総額の約60%、生産の約50%を公営企業が占め
、民間の1企業当たり資本額は公営の1万分
の1で、民間企業の多くは食品、衣服、履物等の日用雑貨産業が中心の零細規模であった。政府は公営企業を中核と
して輸入代替工業化を推進するために、基幹産業のほとんどを公営化におくとともに、製造業だけでなく資金配分機能を有
する金融機関を公営とした。このため公営企業=大企業、民間企業=零細・中小企業という構造が50年代に形成され
たのである。しかし公営企業は94年に固定資産総額の14.4%、付加価値総額の7.1%、総従業員数の2.9%を占
めるにすぎず、製造業は民間企業の発展に支えられてきた。多くの中小企業が誕生した要因の一つが、農地改革による旧
地主階層の製造業への参入である。台湾当局は農地改革において、農地買収の補償として旧日本人所有の接収企業
である台湾セメントと台湾紙業の2大企業、ならびに台湾工こう会社、台湾農林会社の管理下にあった多数の中小企業を
地主に払い下げた。企業払い下げ価格は水増しされていたといわれているが、企業を創業時から運営するよりも既存企業を
もらい受けたほうが企業経営の経験の無い地主層が製造業へ参入しやすい方法であった。台湾では一般銀行16行のうち
13行が公営であり、民間銀行は設立時の政府支援、公営銀行の資本参加、規模が小さい等の理由から金融部門に占
める比重は小さい。台湾銀行の調査では、中小・零細企業の借入金の90%強(1976~85年平均)が短期借入で
あったと推計している。つまり担保力の弱い中小・零細企業、あるいは家計は必要資金を高金利な短期借入や未組織金
融部門から調達せざるをえない状況
であった。その平均金利は、銀行貸出金利のほぼ2倍になっている。
 中小企業が積極的に規模を拡大させる誘因を乏しくさせた理由は、労働市場からも生じた。台湾の製造業部門の労働
移動率は、業種による違いはあるが全体的に高く、1974年は製造業・年平均で入職率4.40%、退職率3.40%、
90年は各々3.07%、3.58%でこれは日本の2~3倍の水準であり、企業間でもかなり自由に移動が行われている。
台湾の賃金構造は規模格差や年齢格差が小さく、したがって有利な条件があればすぐに移動する要因となる。このため中小
企業は技術訓練等を通して労働者の質の向上を図ることが難しかったといえよう。台湾では中小企業が数多く誕生しながら
も、中小企業は日本のように大企業との系列関係の中で生成、発展したわけではない。中小企業は国内企業の関係より
も、外国商社や外国企業との国際的な関係の元で発展した。
 中小企業からなる内資企業の輸出を拡大させた要因を実施された政策面から見ると、まず為替制度の合理化を指摘する
ことができる。一般的に、輸入代替工業化を推進してきた発展途上国は、輸入代替産業が必要とする資本財や中間財を
輸入しやすくするために過大評価された為替レートを設定する傾向が強い。またこの一方で主要一次産品の輸出を維持する
ために、為替レートを設定する二重ないしは複式為替レート制をとる国も1950~60年代に多く見られた。複数または実勢
を反映しない為替制度のもとでは合理的な経済運営を行うことは難しく、価格プレミアム等から不正が蔓延するとともに要素
価格に歪み
をもたらし、経済発展の大きな障害となる。台湾では58年に外国為替貿易改善案を発表し、まず複式レート制
を二重レート制に転換した。基本レート(1ドル=24.8元)と基本レートに外国為替取組証の公定価格(11.6元)を
加えた2つの為替レートを適用した。60年には当時最大の輸出企業である台湾糖業公司に適用していた1ドル=40.03
元をすべての輸出入商品及び外貨送金レートとし、為替レートの合理的体系が整えられた。40.03元の相場水準は実質
的な為替切下げであり、輸出増加に貢献した。
>24.8と11.6の2重レート制って・・・
韓国の経済発展と財閥
 韓国は1960年代以降に急速に発展を遂げ、90年代には先進国クラブと呼称されるOECDへの加盟が実現した。自動
車や半導体等の先端産業分野でも先進国にキャッチアップしてきた韓国であったが、97年末から経済危機に遭遇し、IMF
コンディショナリー下で構造改革を余儀なくされるに至った。その要因は、急速な発展を実現してきた韓国の工業化メカニズム
そのものにある。
 韓国は台湾やASEANのように有力な一次産品を有しておらず、一次産品輸出による外貨獲得に依存した輸入代替工
業化を継続できる能力に乏しかった
。また地下資源やこれを加工する産業も日本の植民地時代から北朝鮮に集中し、南の
韓国は農業地域として位置づけられてきた。そのため日本から引き継いだ製造業部門や企業経営者も無いに等しい状況で
あった。南北で独立を達成した1950年代に輸入代替工業化を実施したが、こうした初期条件からうまく機能しなかった。
代わって60年代から輸出志向工業化が実施され、製造業品の輸出拡大を経済発展の中核とした。輸出企業には格段の
優遇を与え、政府保証で海外から取り入れた資金を公営銀行を通じて融資した。海外資金に依存して新たな分野への参
入を推し進めることになった。韓国のこうした発展メカニズムの要点は輸出にあり、輸出により海外借入資金を返済することが
でき、輸出が増加する限りにおいて経済危機に直面することはなかった。機械を中心とした先端産業は価格、品質、販売力
等の多くの要因が輸出競争力に関係し、簡単に先進国企業から市場を奪うことが難しい。また機械産業は多くの部品や素
材を含む裾野産業を必要とするが、財閥を中心に発展してきた韓国ではこれが決定的に欠けていた

 1990年代のマクロ指標を韓国と台湾で比較すると、韓国では貿易及び経常収支の赤字の継続拡大と対外債務の増
加が続いている。韓国と台湾はすでに対外投資や援助を行い、国民所得水準からもはや中進国というより先進国といえる
経済構造に変わった。台湾は80年代以降に経常収支の黒字が続き、800億ドルを超える外貨準備高を誇り、これを対
外投資や援助として投入してきた。韓国は90年から貿易収支及び経常収支の赤字が続き、これを海外資金で補填して
きたことから97年の対外債務残高は1000億ドルを超えた

 政府が大財閥として公表してきた30財閥の自己資本比率は18.2%であり、日本の東証一部上場企業平均の32.
8%に匹敵する自己資本比率を有しているのはロッテだけであった。
p91 表4-5 製造業の従業員規模別構成
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