金・銀の呪縛
18世紀のフランスで欧州初の紙幣発行という大胆な計画を実行したジョン・ローは「貨幣の価値とは財と交換
されることではなく、財の交換を媒介することにおいて現れる」とその本質を喝破した。現代に至る「信用にも
とづくお金」の原点である。今ではそんな「信用貨幣」が当たり前のように思えるが、我々からほんの3世代前の
20世紀前半まではお金は金や銀と交換できなければならない(金本位制)に縛られ続けていた。景気が悪くな
って経済を刺激したくても金・銀の保有量が少なければ紙幣は発行できないため、景気はいっこうに回復しない。
こうした窮屈なお金の問題は1929年の株式大暴落を契機とする世界的な大恐慌や2度にわたる悲惨の世界大戦
と無縁ではないのである。
デリバティブズは金融における価格革命であると同時に市場構造革命
全世界で最も調達コストの安い場所を選んで債券を発行するといった財務行動が可能になったのは技術のおか
げである。
金融に対する嫌悪感は、お金を右から左に流して利益をあげることに対する倫理的あるいは生理的な反感である。
大半の人は資金と資本の区別がつかない。財布に入っている1000円札は資金である。経済的な意味で資本に
なるのは株式や社債、貸金などの形で資本主義のシステムに投じられた瞬間である。「お金を売買する」というのは
人を騙して1000円を2000円に増やすのと意味が全く違う。「資金が資本に転換された」形態を示している。
国家の金融への取り組み方といってもやや抽象的でわかりにくい。「金融政策への信頼性、民間金融機関の経営力
の強さ、お金の運用力、金融情報提供・分析力など」。思いつきやすい数値を言えば、株式時価総額や国債発行高、
外貨準備高などがあげられるが、金融市場の実力は「市場がどのように実態的な経済成長に役立っているのか」、
「それが民間企業を主体とする財務活動にどれほど利用されているのか」といった視点から評価すべきだろう。
国家の通貨主権
19世紀後半から20世紀後半にかけて注目すべきは英国の経済力と金融力の凋落が同時並行的でないことである。
貿易決済に備えた「ロンドン・バランス」と呼ばれる非居住者によるポンド建て預金勘定は健在であった。だが、米国
資本輸出の増大やニューヨーク手形市場の活性化などを通じて、ドルの影響力が高まるのはもはや必然であった。
さらにインドの貿易力弱体化や対米債権取り崩しなど、英国金融にとっての逆風は強まっていった。実質的にポンド
の凋落を決定付けたのが1931年の金本位制からの再離脱であり、政治的には1944年のブレトンウッズ体制の成立
であった。このポンドからドルへの基軸通貨の移行は、経済と金融における中心が英国から米国に移ったことを裏付
けているが、それは一方で「1国1通貨」という概念を社会に定着されるものであった。そもそも国家と通貨は同一で
はないし、金本位制のもとでの自国通貨とは金への兌換性にもとづいて存在するにすぎない仮想概念である。それ
が国家の経済力や金融力を象徴する通貨として認知された背景には、欧州の各国が19世紀以降ナショナリズムの
昂揚や中央集権国家の建設への手段として通貨主権を利用してきたという事実もある。
【金と金融の意義】
2009.10.22: お金と人の行動の法則
2009.08.28: インド独立史 ~ガンディー登場
2009.04.09: 金(カネ)の重み
2008.10.10: あなたが信じているのはお金だけなの?
2008.07.18: Olympic記念通貨に見る投資可能性
2008.02.20: アジア通貨 ~HKD 通貨発行差益(シニョレッジ)
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