金丸信摘発の舞台裏
割引債のサイズは紙幣より少し大きい程度しかない。仮に1億円の額面の割引債に整理すれば、30億円分の札束も30枚の紙切れに収まる便利さがあった。84年に行われた福島交通グループに対する税務調査で、小針暦二が
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2億2400万円の日債銀割引債を購入していたことを把握していた国税庁は、その後の継続調査で小針が金丸にも割引債の購入を勧め、共同購入したという情報を得ていたようだ。
金丸のタヌキ爺が収賄しようが脱税しようがかまわん。金丸の罪は、割引金融債を「メディアに公開されたマネロン手法」に貶めたことにある。おそらく金丸以上に購入していた富裕層は、私以上に怒ったに違いない。完全に昔話になり果ててしまったが、「一族家における投資教育~税金と名義」という話もある。
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検察や警察は、公判に向けての世論作りをするために、捜査情報を記者にリークすることがある。新聞や雑誌の記事はそんなリークによるものである。国税がそれをしないのは、税務調査が基本的に相手の協力を前提に進められるものだからである。通常の税務調査は相手先から任意で帳簿や書類を提出してもらい、聞き取りにも協力してもらいながらすすめるのが前提だ。かつて最高幹部を務めた国税OBの一人は「国税は世直し機関ではない」が口癖だった。
竹下登申告漏れ、調査のポイントは世田谷区代沢の自宅新築資金5300万円の出所にあった。竹下は資金の出所について次のように説明した。
(1)協和銀行(現・りそな)からの借り入れ2000万円、(2)所有する青木建設株の売却代金、(3)定期貯金、(4)その他
東京・杉並区にある協和銀行荻窪支店で、裏付け調査にあたっていた東京国税局資料調査課の調査官は二口の不審な口座に目を留めた。名義人は「吉田志郎」と「吉田一枝」で預金額は2つ合わせて1300万円。いずれも架空名義だった。架空名義預金は脱税に直結する。調査官はこの口座の主を銀行側に質したが、支店幹部は緊張した面持ちで、「言えない」と繰り返したという。
この口座は架空名義口座だった。竹下は協和銀行から新築資金として借り入れた2000万円のうち1300万円を密かにプールし、「吉田」名義口座に隠していたのである。建築代金に充てられていたのは700万円だけだった。足りない分はどうしたのか。実は政治資金を利用したのである。建築代金5300万円のうち2000万円が竹下の政治団体から「一時借入金」の形で払われていた。政治資金を自宅新築資金に流用すれば「私的流用」として課税される。そこで「銀行借入」の体裁を整えたわけである。調査対象となった73年から75年までの3年間に竹下の個人資産の純増額は5000万円にものぼった。東京国税局はこの5000万円を政治資金からの流用と認定し課税対象とした。調査の深度は文句のないものだったが課税処分は甘かった。竹下は自宅新築資金を「銀行からの借入金」と偽っており、明らかに税逃れの意図があった。にもかかわらず国税局は、悪質事案に適用される重加算税の追徴を見送っている
グループ企業間の株式持ち合い状況が一目でわかるように整理したんですが、個人名義に偽装している株式をコクドのものとすると、コクドが保有する西武鉄道株が79.6%に達していたのでびっくりしました。西武建設の約7%を加えてると軽く80%を越えていたと思います。東京証券取引所の上場廃止基準は当時も「少数特定株主が80%を越えた場合」となっていた。国税当局者の誰かが通報すればたちまち上場廃止になるばかりか、証券取引法違反に問われる事態になっていたのだが国税は沈黙を守った
西武鉄道株の偽装を知ってはいても肝心の徴税はなかなか思うようにまかせなかった。グループ企業の中でとりわけ国税が関心をもったのがコクドだったが、毎年のように赤字申告が続いていたからだ。
86年3月期 ▲4億3800万円、87年3月期 ▲11億7300万円、88年3月期 ▲5億9300万円
不動産や有価証券など多額の資産を保有しながら、なぜこんな申告になるのか。
「何度も調査したが、銀行から多額の借入金があり、その支配利息が営業利益を上回っている。だから赤字になる。儲けが無いのに法人税を課すことはできません。これは税務上は何の問題もない。」
コクドの申告によると88年3月期の土地保有高は208億円。同じ時期の森ビルは1597億円だから意外なほど少ない。これは購入した際の簿価が基準になっているためで、コクドの土地取得時期がいかに早く、その分価格がいかに安かったかを物語っている。この莫大な含み益が信用力となって、銀行はコクドにドンドン融資した。「新規事業にどんどん投資していますから利益が出ないわけです。新規事業は利益を減らすためではなく、将来に備えての先行投資なんです。法人税を払わないと言われるけど、法人税は利益が出た時に納めるということなのであって・・・。日本の税制はよくできてますよね。やる気のあるものをちゃんと助けるシステムになっている。」 こんなナメた発言をされても国税は手をこまねくしかなかった。

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