前回、工業地帯見学は、
MM2100、丸紅による開発、Astra Hondaを中心に数多くの自動車部品会社の工場。
が中心でしたが、次の電子部品系工場地帯である
(EJIP)East Jakarta Industrial Park、住友商事、パナソニック中心。
を越えて
KIIC:Karawang International Industrial City、伊藤忠による開発、トヨタ中心
に行ってまいりました。
MM2100がジャカルタから約40kmで、10km単位でEJIPとKIICとあり、KIICは60kmほど離れています。Cikampekで1時間から2時間程度の距離ですが、広さは千代田区と同じくらいのインドネシア最大の工業地帯で、そこでは日本の株式市場のドンであるトヨタが陣を構えています。アポまで時間があったので運転手さんにゆっくりめの速度で、工場地帯を回ってもらいました。超大手企業で言うと、信越化学、ユニチャーム、YAMAHA、シャープ、大日本印刷などが見えました。ユニチャームは自動車産業ではありませんが、紙おむつがバカ売れで、相当景気が良いようです。
トヨタの工場はさすがに広く、最大手企業の風格が感じられます。また入り口付近には暇そうな警官が30名ほどブラブラしていました。これは10月3日に起きた全国で200万人が参加したインドネシア市場最大のデモの影響です。5文字ですが、200万人です。これがどういう数値か分かりやすく言うと、この人数が怒ってシンガポールになだれ込めば、シンガポールという国家は消滅するくらいの人数ということで、その数がお分かりいただけるでしょう。全国一斉蜂起なので、トヨタの工場に200万人が押し掛けたわけではないですが、3000人の労働者たちがバイクや車で乗り付けて、工場の周りの道いっぱいに広がって抗議したということです。今回のデモは賃上げ要求ではなく、非正規から正規雇用への転換を求めるものです。インドネシアでは正規雇用はかなり保護されていて、会社で盗みを働いてクビにする時でも退職金を払わなければならないというくらい守られており、終身雇用を求め、中産階級に転化したい民どもの願いが暴徒化したもののようです。10月3日のデモは事前宣告ありだったので、工業地帯の各社は門を閉め、「私たちはデモを支援します」の張り紙をして、デモに備え、工場が破壊されないよう準備していたようです。
中国のスト・デモにおいても
「日本企業が他の外国企業より狙われやすいのは民工を一人前の人間扱いするからだ。彼らに必要なのは厳しい管理」とは、以前のストライキ取材のとき中国人企業家から言われた言葉ですが、私も持論として
国家の高度経済成長段階において、民に権利など必要ない。民に権利などを与えるから、成長が鈍いのだ。
さらに、リー・クアン・ユーも同じようなことを言っていますが、先進国が途上国の国際競争力を高めさせないためにメディアを使って、「労働者の権利と人権」だとか喚いておりますが、やはり発展段階において、「民に多くを期待してはならない。我々は与えるだけで良い。支配される特権をだッ!」はマジで正しい。そして重要なのは、この事実は中国やインドネシアだけのことではなく、日本にも全く同じように当てはまる。民どもが飲み屋やネットでブツブツと不平不満を言っている・言えるような環境だから成長(発展)が遅いのだ。もし仮に日本経済が激しい勢いで復興している時は、民は文句を言う前に労働し、何も考えずに消費していることであろう。民の行動をかきたてるために、銃で脅すのか、夢を見させるのか、宗教的信仰心を使うのかが、国家戦略によって選ばれる。
さて、トヨタの工場に話を戻しますが、トヨタは工場建設地として買い入れた土地の半分に工場を建てただけなので、さらに新しく工場を建設し2倍の生産量に拡張できる準備があるということです。また、トヨタくらいになると、工場の労働者とは言え中産階級が多く居ることが、工場敷地内の駐車場面積から推測できます。車は日本円で約150~200万円で、月収1-2万の最低賃金の労働者に買うことはできません。土地が余っているインドネシアではちょっと郊外のボロい家なら車より安く手に入ることでしょう。例えば、家賃1mil/月のジャカ1のアパートですが、年間12mil=12万円。銀行金利が10%もあるので、不動産の割引率(期待利回り)を20%と想定するならば60万円。10-20%で想定してもジャカルタ市内の一人暮らし用の小さなアパートなら60-120万円程度で手に入ることがなんとなく計算できます。だからあれだけ広大な駐車場を持っているトヨタの工場の工員は、既に中産階級化していると言えるのです。
カラワンの工業地帯は、絶好調のインドネシア経済の象徴で、建設中の工場が目立ちます。増産・増築という日本では耳慣れない言葉が飛び交い、自動車生産量・販売台数もさることながら、この工業地帯辺り一帯の地価もこの数年で数倍という伸びを見せています。
2005年 USD 30~40 / ㎡
2010年 USD 50→70 / ㎡
2011年 USD 80→150 / ㎡
現在 USD 190 / ㎡
トヨタはこの土地を30年ほど前に買い入れていたようです。当時はジャカルタを中心に工業地帯候補が東と西に2つありました。西は比較的港まで近く有利とされていましたが、道路予定地の地上げが進まず、今では工業地帯の中心は天下のCikampekが横断するジャカルタより東になりました。さすがは日本一のトヨタ、先見の明ありですが、逆説的にいうと、最大手のトヨタがいるから、開発が進んだという面もあると思います。現在、Karawangの北部に港を建設中で2年後には完成予定らしいですが、港までの道路がまだ建設されていない状態です。
これも民に権利を認めた弊害で、日本で言うなら借地借家法、居住者の権利なるものを認める悪法がインドネシアにもあり、中国のような強制退去が難しいことが、地上げを難航させ、インドネシア経済の発展のための開発を妨げています。
トヨタの工場の周りをしばらくウロウロしていれば見ることができるのですが、完成車はトレーラーに載せられて運んでいますが、その数わずかに6台です。6台運ぶのにトレーラー1台、一人の運転手、そして長い長いCikampekの渋滞をくぐりぬけて港まで(下手したら片道3-4時間はかかる)輸送しなければならないと思うと、ひっきりなしに輸送しないといけません。
私の友人が勤める工場も見ました。かなり綺麗なのでまだできてからそれほど時間が経っていないのがわかります。その周りは空き地が多いですが、まさに工事中で、すべて完売済み、工場建設地となっています。友人が3年ほど前にここを訪れた時は、工場の前にある道路はなく、うっそうと茂る木々を見ながら、「あの辺りが御社が買うことになりそうな土地です」と双眼鏡を使って、舗装道路から眺めていたという状況だったそうですが、3年で道路・電燈がつき、工場が急ピッチで建設され、既に稼働しています。
インドネシアの自動車産業は凄まじい勢いで伸びているので、増産の嵐。景気は絶好調で、工場も人員も必死に拡大して生産が間に合うように努力しているようです。しかし、現場で働いている友人は、数値だけで判断されがちなインドネシア経済楽観論に警笛を鳴らしています。
数年間は今のペースで成長するのは間違いないが、5-10年で考えると、成長は疑問視せざるを得ないという。
増大する人件費を止められない。人件費が上がる=コスト増という企業にとって悪い面もある一方、人件費が上がる=中産階級の増大は、内需の拡大にもつながり、一概に給与を低くすることだけが利とは限らないというのが政府と企業の一致した見解であろう。
人件費の伸びに対して技術の伸びが遅い。この技術の伸びというのを数値化するのは難しいが、このまま生産台数を増やせば、内需だけではなく外需、すなわち輸出用の生産になるが、国際競争に耐えうる競争力のある技術とは思えない。
これインドネシアを楽観的に見ている日本に伝えるべき重要な情報だ。
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