東アジアでは効率的で輸出力のある内外企業が存在する。中南米やフィリピンでは経済危機に直面した時点において、
経済を牽引する企業に乏しく、危機によって倒産するものが多かった。東アジアでも企業の倒産は生じているが、しかし
一方で危機以後も輸出を維持、増加させて危機からの脱出を試みている企業も数多く存在する。また絶対的貧困者
が増加し、経済危機がさらに政治的不安定をもたらして経済的困難が長期化する自体を回避する努力が続けられて
いる。東アジアの経済危機は為替金融問題から生じ、金融自由化と硬直的な為替システムのインバランス、金融ガバ
ナンスの問題が解決すれば安定するはずである。欧米や日本に企業による東アジアの企業買収や企業資本シェアの拡
大は、東アジアの成長潜在力の高さと企業の将来性を反映し、中南米のような失われた10年のような事態に東アジア
は陥らないであろう。ただし東アジア経済への影響力が大きい日本経済の安定及び発展が早急にもたらされなかった場合
には、東アジアの経済回復への道のりは厳しくなるだろう。以上が本書の問題意識であり、その核心は東アジアではいか
に経済を牽引できる企業を育ててきたか、なぜ多くの開発途上国ではこれができなかったかということにある。
1999年の本、通貨危機後に出された本ですなぁ。NIESとか言葉遣いが古くていいね。
P12 表1-1 一人当たりGNP
P17 表1-3 貧困人口比率
ILO(国際労働機関)が主要開発途上国の貧困人口を都市と農村で調査した結果から、東アジアと中南米の部分
だけを示している。貧困とは生命を維持するために最低限必要な食事及び身のまわりのものを購入する所得水準以下
の状態と規定している。すでにOECDに加盟した勧告の貧困人口比率は都市と農村で1桁の低水準に達し、輸出志
向工業化による所得増加は確実に貧困層を減少させてきたことを示している。他のNIESの統計は無いが、先進国並
みの一人当たりGNP水準と以下で示す各種統計値から判断して、間違いなく貧困人口比率は韓国のそれに劣らず、
少ないはずである。ASEAN-4では、マレーシア、タイの都市貧困がかなり少ないが、農村の貧困は20~30%に達す
る。インドネシアは都市の貧困人口比率が農村よりも高く、都市部門がいまだ十分に発展していないことを窺わせる。
フィリピンは南アジアと同水準(貧困人口比率はインドは都市38%、農村49%、バングラディシュは都市56%、農村
51%)の高い貧困人口比率であり、これまで経済開発が順調でなかったことを反映している。所得水準と貧困人口比
率を比較すると、中南米の変化は東アジアのそれと異なった状況にある。1995年の一人当たりGNPの水準では、韓
国のそれに近いアルゼンチン、 マレーシアの水準にあるブラジル、メキシコ、 タイの水準に近いベネズエラ、パナマ、コロン
ビア、ペルーでは農村だけでなく都市でも貧困が蔓延し、開発途上国で典型的な貧困地域である南アジアの比率を上
回る国もある。所得水準と貧困人口比率にみられる格差は、所得分配が不平等であるかどうかに関係する。多くの開発
途上国ではいまだに多くの貧しい階層と一群の豊かな階層という構造が強く残っている。NIESのような所得増加→所得
分配の平等化→貧困改善という流れを多くの開発途上国で実現できていない。
経済効果の分配を平等化する機能も重視せねばならない。農地改革もその一つであるが、資産保有や資産譲渡への課
税、累進課税制度の導入とその徴税能力の改善、公的保険制度(厚生及び医療等)の導入は、中央及び地方政府
の財政力を拡充させ、歳出を通じて各種政策を支えることができる。また保険制度は貯蓄の増加、投資資金の確保だけ
でなく労働者の生活安定を通じて経済厚生を高める。所得増加を伴った所得分配の平等化は、消費構造の収斂により
生産にもプラス効果を及ぼす。高額所得階層が所得シェアのかなりを占める国は、彼らの消費性向が消費動向に大きな
影響力を与える。支払い能力を有する彼らは高額な耐久消費財、たとえば輸入乗用車、エアコン等を消費し、輸入される
かノックダウン方式により国内生産されることになる。国内生産されてもその需要は急増するわけでもなく、生産技術も高度
であることからこうした産業が経済発展を牽引するわけではない。もし所得分配が平等であり、一般大衆の消費構造に偏り
がない国では高級な耐久消費財ではなく、低級な、例えばアイロン、電機釜、あるいは扇風機等が需要され、こうした財の
需要規模は高級な耐久消費財に比較して大きい。また所得水準の上昇はさらに需要を増加させ、こうした財の生産技術
は難しくないことから新規企業の参入をもたらし、競争に伴って企業努力により低級品から高級品への移行が生じる。日本
は世界的にも所得分配が平等であり、均一的な消費構造が生産や雇用だけでなく、生産技術蓄積、新製品開発、新
技術開発さらに輸出競争力強化をもたらした。
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