1998年の初め、ロングタームはエクイティ・ボラティリティを大量に売り始めた。ブラック=ショールズ理論をそのまま
応用したもので、つまり株式のボラティリティは長期的に見れば一定であるという前提に基づいている。例えば株式
市場の変動幅は通常、年15%から20%程度だ。時にもっと広い幅で変動する局面もあるが、いずれは必ず元の水準
に戻る。少なくとも、グレニッチの数学者たちはそう信じている。
うーん、これどうかな?
ブラックショールズ理論は、ボラティリティは長期的に見れば一定とは言ってないと思うのだが。ボラティリティの平均回帰性・・・
LTCMはブラックショールズの次の段階、ストキャスティック・ボルに到達していたと考えるのが自然ではないか?
ただ、ここに関してはLTCMを敢えて擁護する意見を述べておこう。ボラティリティの平均回帰性は存在すると
言っていい。株価とは違い、ボラティリティが0に張り付いたり、1000%で落ち着くことはまず無いと言えるからだ。
だからと言って、30%を超えたらVol売りで向かえるかというと、その答えは、”資金量による”だ。「無限に資金が
あるならば」とか例える人が居るが、無限の資金があるならば、株式市場は全ての株価は無限大で金利は0、
金融市場は、もはや意味をなさない。その想定はあまり意味が無い。よって、どこまで損失に耐えられるか、
とリターンの実現方法(自分の手元に入ってくるまでの)だけだ。
1998年5月、ロシア中央銀行総裁セルゲイ・ドゥビニンは、ルーブルは安泰だと宣言した。もっと確かな言葉を添えた
いと思ったのか「切り下げはない」と付け加えた。5月末、ドゥビニンは資金流出を阻止するために金利を3倍に引き
上げる。ロシアの金融システムはもともとぐらついていたのが今や崩壊の淵にあった。一方で、米国経済にブレーキ
がかかり始めた。これは当然、債券相場の追い風となる。国債利回りが低下し、したがって国債に対する社債などの
各種債券のスプレッド拡大に向かう。ロングタームにとって見通しとは逆のトレンドで、この月6.7%の損失という過去
最悪の成績を残した。
8月21日 ダウ平均は前場に280ポイント下げた後、後場に入って前場で下げた分をほぼ戻した。これでボラティリティ
が極端に上昇し、ロングタームは数千万ドル失う。値動きが荒い日ならスワップ・スプレッドは1ポイント近く上下すること
がある。しかしこの日の朝、スワップ・スプレッドは20ポイントのレンジで激しく揺れていた。最終的に、なんと9ポイント
拡大し、4月48に対して76で引ける。モーゲージ・スプレッドがわずか一週間前の
107から121ポイントまで急拡大。
ジャンク債では269から276に拡大した。オフ・ザ・ランの国債でも8ポイントから13ポイントへと拡大する。(オフ・ザ・ラン
既発債、LTCMが手がけていたのは29.5年債のロングと30年新発債の流動性プレミアムショート。)
変動幅は絶対値では小幅と見えるかもしれないが、ロングタームが被る影響はその破格なレバレッジの水準と途方も
ないポジションの規模のおかげで何倍にも膨れ上がった。シエナというテラブスとの合併計画を発表した通信会社の
株を買っており、株価が買収価格まであと25セントと迫っていたのだがまだ保有していた。ちょうどこの日、8月21日に
合併延期が発表され、シエナ株は25.5ドル下落して31ドル25セントとなる。これで1億5千万ドル失った。
ともかく買い手がいなくなっている。この状況でロングタームがそのばかでかいポジションを調整しようとすると、相場はど
うしてもますます荒れる。パートナーは当初、他のアービトラージャーが目の前の収益機会に食いついてくると踏んでいた。
なぜ手を出そうとしないのか理由がわからなかった。本能的にメリウェザーをはじめ上級パートナーは同じ戦略を思いつい
た。新たに資本を調達してクッションを厚くし、相場が好転するのを待つ戦略だ。だが、自己資本の減少が響いて、ロングタ
ームのレバレッジは危険な水準まで高まっている。レバレッジが高いほど、損失に加速がつくからだ。リスクを圧縮するため
に何かを売らなければならない。だが、何を売ろう?投資家が求めているのはリスクの低い債券だけで、それはロングターム
にはこれっぽっちも持ち合わせがない。売り物候補のひとつはM&Aアービトラージだった。ロングタームの合併銘柄ポートフ
ォリオは育ちに育って50億ドル相当という途方もないポジションをとっていた。シティーコープ&トラベラーズ、MCI&ワールド
コム、などが含まれていた。
【アービトラージとは、裁定取引とは】
2010.10.21: トップレフト ウォール街の鷲を撃て
2010.08.26: 株メール Q4.複数上場の場合の株価と為替の連動性
2010.05.13: 中国株先物の裁定可能性の検討
2010.01.08: 50% Knock-In PutのPremiumって実現できるの?@理想的な世界にて
2009.12.14: HとAどっち?
2009.12.11: Early RedemptionとCouponの関係
2009.10.06: Black-Scholesは間違っている2
2009.07.28: Exotic Parity2
2009.03.18: 歯磨き粉の買い物と債券Arbitrage
2009.02.27: VolatilityとCredit Spreadの関係
2008.10.14: 日経225オプションの誤発注
2008.02.12: アジア通貨を考える ~アジア最大の中国(CNY)
2009.01.26: Exotic Parity
2007.12.14: 久々のお買い物 C 5.875 FEB 2033
最強ヘッジファンド LTCMの興亡 ~天才たちの誤り特集
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