地位や財産に恵まれた男が多くの妻を持てるのではなく、むしろその逆で、一夫多妻制をとっている集団なり家系
なりには結果として富が蓄積されてきた。なぜなら一夫多妻制には人口抑制の効果があるからである。集団の人
口の動向には女一人当たりの子の数(出生率)が問題だ。ある集団が一夫多妻制をとっているとどうしてもその
出生率は低く抑えられるだろう。人口が抑制されれば、子を育て上げるための経費は節減され富は蓄積される方
向へ向かう。一方、一夫一婦制をとっているとどうなるかというと、人口は大変な勢いで増加する。一人の男が一
人の女をキープしているわけだから、夫が妻の排卵期をバッチリ捕らえてしまうのだ。人口が増えるから暮らしは貧し
くなる。当然男は多くの妻をもつことができない。
一夫多妻制は哺乳類全般に広く見られ、霊長類の社会でもごくありふれた婚姻形態である。ただそれら動物と
人間とでは決定的に違うことが一つある。メスに発情周期があるかどうかと言うことだ。その結果、人間の一夫多
妻社会ではどういうことが起きるのか。男は何人、何十人といる自分の妻のうち、今夜はさてどの女のところに行
こうかなという夜毎の選択を迫られるようになる。こうして女に対し、他の動物では考えられないような強い選択圧
が働いてしまうのだ。厳しい選択圧にさらされる彼女たちは、女としてますます磨かれる。一夫一婦社会の女たち
とはまるで別の生き物であるかのように進化したとしても不思議はないのである。一夫多妻制社会では女はライ
バルに差をつけ、自分のもとに頻繁に男を通わせるよう進化する。そういう吸引力を持った女が、より多くの子孫を
残すからである。それは具体的にはどういう女なのだろう。姿形が美しい、心根が優しい、頭が良い、話をして面
白い、教養がある、あるいは世間のことも知的世界のことも無知な童女であるが、なぜかよく男の心情を理解す
ることができる、ユーモアやウィットのセンスがある、人間自体がどこかしか面白く、興味をそそられる、男に安らぎ
を与えられる心の余裕を持っている、何か不思議な才能を持っている、等々。以上のうち、多いに越したことは
ないが、少なくともどれか一つの魅力を持っている女と言えばよいだろうか。男を尻に敷いたり、夫の浮気をチェック
するなどという行為は一夫一夫社会でのみ通用する戦術で、この社会では時に命取りとなる。一夫多妻社会
では、要は女はより魅力的な方向へと進化するわけである。しかしながらこれらの魅力には、ある一つの条件が
不可欠であるように思われる。それは、その魅力がなかなか飽きの来ないものであり、不変のものだということだ。
男を長年にわたって飽きずに通わせること、男に捨てられないためにいつまでも魅力を保ち続けることである。
そこらあたりが、とりあえず男を捕まえるために若いうちは魅力的だが、捕まえたとなるや、次第次第に馬脚を現
したり、あちらこちらにガタが来る一夫一婦社会の女と大きく事情が異なるのである。
一夫多妻社会の特徴の一つに、男があぶれてくるという減少がある。そういう男たちはどのような身の振り方を
してきたのだろう。最も多いと思われる道は聖職者になることである。
>ん?兵隊じゃないの?
聖職者となり、妻帯しないということは一見遺伝子のコピーを残す上で不利なことのように思われる。しかし、
文化の担い手としての聖職者がどれほど大きな影響力を持っていることか。彼自身は繁殖しなくても血縁者
の繁殖に貢献すること請け合いである。一夫多妻社会ではどうやら繁殖について分業がなされていたようで
ある。当主である長男は複数の妻を持ち、盛んに繁殖活動を行う。一方、二男、三男は繁殖活動を控え
妻は持たないか、持ったとしてもせいぜい一人とする。そうして文化的活動のために力を注ぐのである。彼が
繁殖を控えることで、肝心の財産の散逸を防ぐことになるのである。
地球規模の人口問題は別として、わが国の出生率低下のこの時勢にわざわざ人口抑制論を言うのは気が
引ける。しかしその一方で、今、女が子を産みたがらないのは、案外一夫一婦制に原因があるのではないか
という気もしてくる。一人の男の世話を一手に引き受けなければならない息苦しさ、そのうえに子を産んだら、
仕事は続けられるのか、男が何人もの妻を持ち、自分のところへは3-4日に一回くらいのペースでしか通っ
てこないとしたら、どんなに精神が開放されることだろう。ひとつ子を産んでみようか、などという気にもなるかも
しれない。ともあれ、これ以上法的な一夫一婦制を続けていると、男はケチで陰険、格好良くもなければ、
取り立てて才能があるわけでもない、女は優美や知性という言葉からは程遠く、夫を尻に敷き、子作り、子
育てとワイドショーにしか興味を示さない。そして中年以降は鬼の姑と化す・・・いずれにしても視野が狭くて
面白みにかける人間が増えてくることは必至である。
その通りだな。
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