最近呼んだ中で最も面白い本でした。
私の主張と近すぎて、思わず「俺が書いてるのか?」と筆者プロフィールを確認したほどです。
金融と国家・・・わがブログのテーマとも一致しており、お勧めですよ。これ。
国際金融は対外的に重要な戦略ツールとしての性格も強い。国家がそのような大局観をもたなければ、金融産業は
成長しないし、国益も生まれない
。「500年の長い歴史を持つ欧米金融を、国家プロジェクトとしてどう相対化するか」
これをまず戦略の始点におく必要がある。
1998年テポドン発射事件を機に、朝鮮半島の非核化へ向けた外交努力が開始され、経済制裁を実施していくが、
結果的に北朝鮮を動かしたのは、輸出規制ではなく、米国による金融制裁であった。この金融制裁は2005年に
米国財務相が米愛国者法にもとづいてマカオのバンコ・デルタ・アジア(BDA)をマネーロンダリング懸念先に指定し、
米銀に同行と取引を停止するように求めたことに始まる。その後、米国側はBDAが北朝鮮の数々の違法行為を容認
していた事実を把握し、北朝鮮関連の資金2500万ドルは凍結されることになった。この資金は政府高官への私的
援助基金として利用されており、北朝鮮の体制維持のための重要な資金であったといわれる。2500万ドルは国際市
場ではほとんど無視できるほどの金額であり、そうした小額の資金凍結や解除が、核兵器問題というきわめて高度な
外交的交渉に影響を及ぼした、というのは見逃せない事実である。輸出入に規制をかける経済制裁はたしかに効果
があるが闇ルートが存在する限り致命的な結果を期待することはできない。だが銀行を通じた資金の受け渡しができ
なくなる金融制裁は国の存亡にかかわる
ものとなる。BDAをめぐる問題は銀行を経由する資金授受ルートの確保が
軍事力と同様に国家にとっていかに重要であるか浮き彫りにさせた事件であったということができるだろう。基軸通貨
をもつ米国にとって金融力は軍事力に劣らぬ、あるいは核兵器よりも威力を発揮しうる力である。
金融史の観点から歴史を読む
軍事力は資金がなければ育成できない。古代の政治権力がもつ軍事力は搾取によって支えられたものであったが
徐々にそれは献金や借入金によって賄われるようになる。なかには14世紀の英国エドワード3世のように何度も債務
不履行を起こした国王もいた。19世紀、金融市場の中心であった英国で日本が戦費調達のためにポンド建ての国債
を発行したことはよく知られた事実である。日本が国際金融の舞台にデビューしたのは軍事と無関係ではなかった
日露戦争敗戦濃厚の思惑が広がり、高橋是清は足元を見られて金利コストの上昇を飲まざるを得なかった。
日清戦争の時は、文明化した日本と野蛮な中国という日本流の説明が欧州に通じたこともあったが、日露戦争では
そうした論理は成立しなかった。人種問題に加えて、キリスト教国対異教国という欧州の歴史観に根付く否定的な
イメージも手伝って、日本の資金調達には高いハードルが聳え立ったのである。ユダヤ人を迫害するロシアに反感を
抱いていたヤコブ・シフが日本国債の引受を快諾し、その斡旋によって日本は以後4回もの外債発行に成功したので
ある。総額8200万ポンドの資金調達を行い、この外債発行額は日露戦争の戦費の40%に相当すると言われており
まさに外債発行が日露戦争の隠された勝因にもなったのである。また1970年代のオイルマネー全盛時代に顕著と
なったアラブ諸国によるユダヤ・ボイコット・リストというのもシオニズム問題を引きずる国際金融の影の部分であった。
債券発行などの世界で、ユダヤ系のゴールドマンやソロモン・ブラザーズなどが主幹事や幹事を務める案件には
アラブ系銀行は参加しないというものだ。

金融vs.国家 (ちくま新書)
金融vs.国家 (ちくま新書)
おすすめ平均
stars大雑把な金融界の全体図を知るには良い本
stars日本の金融は確実に遅れているが追従が正しいとは限らない
stars日本が良くなるだけでいいのか?
stars金融力を欠いた日本
stars金融と国家の切っても切れぬ関係・・・

Amazonで詳しく見る by G-Tools

【国家主権系関連記事】
2009.11.05: 核拡散 ~新時代の核兵器のあり方
2009.07.20: タイ旅行 国土がある、通貨がある、言語がある
2009.05.19: 俺の欲しい車
2009.03.27: 私の株式営業 ~Fiat Moneyの裏打ち
2008.10.01: オレはオレの国を手に入れる
2008.09.24: 俺の欲しいもの
2008.09.23: 被支配階級の特権
2008.08.22: Olympicと国家
2008.04.15: 国境 ~統治権の狭間