核拡散―軍縮の風は起こせるか (岩波新書 新赤版 (861))
核拡散―軍縮の風は起こせるか (岩波新書 新赤版 (861))
岩波書店 2003-11
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核分裂物質
核分裂を起こすウラン235は、天然ウランの中で0.7%を占めるに過ぎない。残りのほとんどはウラン
238である。核分裂を引き起こすためにウラン濃縮という作業を施してウラン235の比率を高める必要
がある。
一方のプルトニウムは天然には存在せず、原子炉で人工的に生み出される物質である。
例えば、原子力発電でウラン燃料を燃やした後に残る使用済み燃料を再処理することでプルトニウム
を抽出することができる。
国際原子力機関(IAEA)によれば非核保有国が最初の一個の原爆を製造するために必要な核分裂物
質の量は、高濃度ウランの場合はウラン235の量にして25kg、プルトニウムの場合は8kgとされている

広島に投下された原爆リトルボーイは、80%濃縮ウランを64kg使用し、威力15キロトンの核爆発
(1キロトンとはTNT火薬1000トンに相当する威力のこと)によって同年内だけで14万人の命を奪った。
大量破壊兵器とは一度使用されるときわめて大規模な破壊や大量の殺戮がもたらされる兵器を他の一
般の兵器と区別して呼ぶ言い方であり、核兵器・生物兵器・化学兵器の3つの総称である。
生物兵器とは、炭疽菌などの細菌や天然痘などのウイルスによる兵器であり、化学兵器とは、サリン、
VXガス、マスタードガスといった毒ガスなど化学物質による兵器である。核兵器は熱線・爆風・放射能
という3つの要素により、大量破壊兵器の中でもっとも甚大な被害を瞬間的および長期的にもたらす兵
器であり、無差別大量殺戮を目的として設計された兵器といってよい。
核兵器はミサイルや潜水艦や爆撃機などの運搬手段と結びついて配備されることで、攻撃可能な戦
力となる

配備とは、核弾頭がミサイルにつまれて発射台にあるとか、そうしたミサイルを発射できる潜水艦が海
洋を巡回しているとか爆撃機につまれて核爆弾として投下できるといった状態にあることをいう。
ミサイルへの搭載には重量の制限がある。そのため核兵器の小型化を図らなくてはならない。
これには高度な技術が必要であり、核爆発を伴う核実験を行ってデータを入手することが不可欠だと
一般的には考えられている。核爆発があれば地震観測所が振動を探知できる。探知されない規模の
核実験を秘密裡に行うことは理論的にはありえないこともでは無いが威力の小さい核爆発を起こすこ
とは高度の技術を要する
ので、新たに核兵器を開発しようとしている国が最初からそれに成功すると
いうことは想定しにくい。
世界には現在どのくらいの核兵器が存在するのだろうか?
2003年1月現在で、地球上には約3万発の核兵器が存在する。
その中でロシアにおいて予備ないし解体待ちで貯蔵されている1万発が含まれ、実際に配備されてい
るのは1万6千発強と考えられている。配備されている核兵器のうち、数千発は即時発射体勢にある
と見られている。
NPT核不拡散条約
1986年に署名が開始され1970年に発効したNPTは、条約成立前にすでに核兵器を保有していた
5カ国を「核兵器国」残りの条約加盟国を「非核兵器国」と呼んでいる。
核兵器国とは、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5カ国であり、国連安全保障理事会の
常任理事国5カ国と完全に重なる

NPTに加盟していないのは、インド、パキスタン、イスラエルの3カ国である。いずれも事実上の核保
有国である。
インド・パキスタン両国は1998年に核実験を行い、核武装を進めることを公然と宣言した。イスラエル
は公言してはいないものの1960年代から核兵器を開発している核保有国であると考えられている。
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