Sep 22 2009 市場は「数学に頼り過ぎ」、数式に「常識」持ち込め-ウィルモット氏
【記者:Thomas R. Keene and Shannon D. Harrington】
9月21日(ブルームバーグ):ロンドン在住の著作家でクオンツファイナンスを教えるポール・
ウィルモット氏によれば、市場は数式を使って値動きを予想する数学者たちに頼り過ぎるよう
になってしまった。数式の一方に、「常識」を持ち込むことが必要だと同氏は語った。
 同氏は、市場予想を数学に頼るいわゆる「クオンツ」運用者らは数式の誤りを見過ごし、
不適切な予測をするリスクがあると指摘した。
 同氏はブルームバーグラジオとのインタビューで、「この業界には数学が多過ぎる。ちょっと立
ち止まって考えてもらいたい。市場参加者は結果を考えずに、こぞって数学モデルを採用して
いる」と述べた。
 同氏は金融における実践的な数学の応用を教える期間半年のプログラム「サーティフィケ
ート・イン・クオンティテーティブ・ファイナンス」の共同創業者。
原題:Markets Rely on ‘Too Much Mathematics,’
Wilmott Says (Update1)(抜粋)

クオンツという日本語がまた曲者なのであるが、ここでウィルモットが言っているクオンツは、
「数式を使って値動きを予想する」いわゆる株クオンツ
で、デリバティブクオンツとは異なる。
株クオンツは一般に、統計を使うことが多い。ありがちなのは、マルチファクターモデルというもので、
いくつかの定量的指標(為替・経済統計値のマクロ指標だったり、ROEなどの財務諸表の値を用いた
ミクロ指標の場合もある)を説明変数とし、過去の株価を被説明変数とするタイプの予想である。
統計といっても、数学的な観点よりは、大量のデータをさばく、データ処理の要素が強いというのが
私の印象である。
フィックストインカム系のクオンツは、さらに滑稽で、基本的に絶対水準は何の意味も持たないので、
テクニカル・平均回帰が主になり、適当にサンプルを足して母集団の数で割るだけだから、統計と
いうよりは、むしろ”算数”
である。
一方、デリバティブ系クオンツが使うのは統計ではなく、確率(測度論)であり、そもそも数式を使って
値動きを予想はしないのが基本となる。株価はマルコフ性を持つものと見なすので、将来の値S(t)
ではなく、現値S(0)を基として考える。
マルコフ性とは、将来の株価の挙動は、現値のみで決まり、過去の挙動とは無関係であるという性質
である。言い換えれば現値肯定論、過去の値段が将来に影響するならば、現値の存在意義を問う
ことになり、現値こそが正しく、将来の株価はこれから入るニュースで形成されるという理論的には最も
整合性のある考え方だと個人的には思う。
しかし、このマルコフ性を仮定すると、株クオンツの多変数回帰・FIクオンツの平均回帰は、いずれも
過去の値を参照するものであることから、デリと株・FIクオンツは完全に矛盾・相反する
考えなのである。
デリバティブ系クオンツからすると、「何を理論的不整合なことを、いかにも理論めいた口振りでやっている
のだ?」としか思えないというところだろう。
私が思わず苦笑したのは、株クオンツの分析とやらの母集団の定義、つまり参照期間や間隔を変えれ
ば、仮説を正当化できる母集団を探してくることは可能
であり、そのいかがわしい半ば必然的な仮説
の成立を彼らの用語では、”チューニング”と呼ぶ
そうだ。
「数学に頼り過ぎ」、数式に「常識」持ち込めと世界のウィルモットが吼えるなら、私はこう言おう。
理論を用いるなら「整合性」を持ち込め。首尾一貫性が全く感じられないぞょ。
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