ギリシア神話の怪物は、ほぼ3つのタイプに分けられる。巨体タイプ、器官の欠損/過剰タイプ、そして異種混合のハイブリッド・タイプである。ギリシア神話における最も代表的な巨体型は、ギガス、キュクロプス、ヘカトンケイルである。ギガス(Gigas)は、クロノスが父のウラノスを去勢した時、その生殖器から流れ出た血のしずくをガイアが受け止めて生んだ巨人族である。英語のgiant(巨人、大男)は、ギリシア語の形容詞のgigasの語幹gigant-にさかのぼる。巨人族は戦いを好む傲岸不遜な無法者で、オリュンポスの神々による神界制覇を妨害する敵対者である。巨人族との戦い(ギガントマキア)はティタン神族との争い(ティタノマキア)としばしば混同されるが、両者は別物である。ゼウスがティタン神族を破って奈落の底に幽閉したとき、ガイアがギガスたちを奮起させて支配者に反乱を起こさせようとしたことからオリュンポス神族と巨人族の戦いが始まった。この戦いでオリュンポス神族に勝利をもたらしたのは、意外なことにヘラクレスである。この剛勇の登場には、一つの予言が関係している。その予言は、巨人族は神々の力だけでは滅ぼされず、人間の力を借りなければ征服されないというものであった。この予言を知っていたガイアは先手を打ち、巨人族をあらゆる敵から守る魔法の薬草を生じさせた。しかし、ゼウスは太陽と月と曙に出現を禁じて、その薬草の育成を妨げ、それを摘み取ってしまう。そしてアテナを通してヘラクレスを呼び寄せ、ガイアの企みを阻止した。巨人族との激しい戦闘は、ヘラクレスが放った矢によって終止符を打たれる。
器官の欠損/過剰タイプでも尺度の基準を通常形態におくことが暗黙の前提になっている。とはいえ、バリエーションの点ではギリシア神話は中世や近世のヨーロッパほど豊富ではない。中世以降にはあらん限りの想像力を駆使した奇抜で不思議な生き物たちが跳梁跋扈する。器官欠損タイプの最も代表的なものは、目が一つしかないキュクロプスである。キュクロプスは巨人でもあるので巨体タイプとの混合型である。ヘシオドス『神統記』に登場する3人のキュクロプスたちは父ウラノスによって地下に幽閉されたが後にゼウスによって解放され感謝のしるしとしてこのオリュンポスの最高神に雷のパワーを授けた。「オデュッセイア第9歌」にも登場するが「神統記」とは系譜が異なり、海神ポセイドンの息子である。ポリュペモスという名の一つ目巨人は礼儀作法とは無縁な、粗野で残忍な怪物であった。
グライアイは3人の老婆たちで3人合わせても目が一つと歯が一本しかなく、その共有している一眼一歯を交代で使うのである。グライアイはゴルゴン退治の冒険談に登場する。ゴルゴンとグライアイは同じ両親から生まれ、ペルセウスはゴルゴンのところに行くために、彼女達の目と歯を取り上げ、ゴルゴンの居場所を教えなければそれらを返さないと恫喝することによって、冒険の目的地がどこにあるかを聞き出した。グライアイは危害を加えるような破壊的な怪物ではなく、むしろ同情を誘う。器官過剰タイプは欠損タイプより頻繁に登場する。腕が100本あるヘカトンケイル、体中に目が100個ついているアルゴス、複数の頭がついているヒュドラ、ケルベロス、ゲリュオン。
ハイブリッド・タイプにはキマイラ、頭がライオン、胴体がヤギ、尻尾が蛇で口からは火を吹き出す。(ベレロポンに倒される)
ミノタウロス、頭部だけが牛で首からは下は人間。ミノス王の妻パシパエの子。(テセウスに倒される)
メドゥサ、ゴルゴン三姉妹のうち、二人は不死であったが、メドゥサだけは死すべき運命のみ。(ペルセウスに倒される)
オウィディウスの「変身物語第4巻」によると、メドゥサはとりわけ髪の麗しさがきわだつ美女であったが、アテナ女神の神殿で海神ポセイドンと交わったため、この不敬な行為への罰として、女神はメデゥサの頭髪を醜い蛇に変えたという。ペルセウスは蛇髪の怪女を討ち取ると宣言したものの、その居場所さえわからない。グライアイから場所を聞き出し、次に別のところに行って妖精たちから翼のついたサンダルとかぶると姿の見えなくなる魔法の帽子、そしてゴルゴンの首を入れる袋を借り受けた。また、ヘルメスからは、金剛の鎌を授けられた。ペルセウスは有翼のサンダルで一足飛びに西の果てに到着すると眠っているメドゥサの姿を盾に映し出し、直視しないように目をそむけながらその首を鎌で掻き切ると袋につめて即座に逃げ去った。他の二人のゴルゴンが緊急事態に気づいてすぐにペルセウスを追いかけたが、魔法の帽子をかぶった彼の姿は誰にも見えない。こうしてペルセウスは難なくメメドゥサを討ち取った。ペルセウスは母親ダナエのところに戻り、母を苦しめてきたアクリシオス王にメドゥサの首を示すと、王はたちまち不動の石と化した。邪悪な王への復讐を遂げたペルセウスは、援助を与えてくれた女神アテナに感謝のしるしとしてメドゥサの首を贈ったのである。アテナはアイギスという山羊皮のケープのようなものをいつもまとっているが、これをペルセウスからの贈り物で飾り、常にゴルゴンの首を身につけている。この蛇髪女の頭部はゴルゴネイオンと呼ばれ、古代から頻繁に形象化された。魔除けとして、盾や武器、あるいは屋根瓦、印章などを飾り、実生活でもゴルゴネイオンには恐るべき魔力があると信じられた。一方、メドゥサのほうは英雄ペルセウスに頭を切り落とされた時、すでにポセイドンの子を宿していた。そして刎ねられた喉元から、有翼の馬ペガソスとクリュサオルが生まれた。クリュサオルは「黄金の剣を持つ者」を意味し、自身はこれといった特徴を持つ怪物ではなかったが、三頭三身のゲリュオンを生んだ。
4 Responses to ギリシア神話 神々と英雄に出会う13/17 ~怪物老現学
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皆様のご興味はどこにあるのでしょうか。コメント数から探っていますが、イロイロデスネ。
なかなかマーケティング(こういった言葉で良いのかはんだしかねますが)とは難しそうです。
来月からいえ今からマーケティングの下僕に転職です。
> なかなかマーケティング(こういった言葉で良いのかはんだしかねますが)とは難しそうです。
意外に思われるかもしれませんが、デリバティブの専門知識がかなり高い人は、デリバティブの記事は読みませんね。別に新しくないし、意味があるのは、さらにもう一歩踏み込んだ内容だからです。私が読者であったとしても、デリバティブの記事は読まないと思います。
数式嫌いの女性読者の中で、「おっぱいと太腿」などという単語に反応している人もいます。当事者意識が重要なのでしょうか。
エキゾさん独自の視点や語彙がたくさん書かれている記事が私は面白いです。
ギリシャ神話はそういうものが少ないので個人的にはあんまり面白くないです。
その他様、率直なコメントありがとうございます。
>ギリシャ神話はそういうものが少ないので個人的にはあんまり面白くないです。
ギリシア神話に限らず、本に関しては、書評というより写実的に内容を書いており、直接的な私の意見はほとんど入っておりません。ただ、実際その本を読んでみて、どういう部分が面白いと思ったか、重要であると思ったかということに関しては、人によって違うと思うのです。写実的な内容ではあるのですが、「この本のこういう部分を書きとめておこうとと思った」という私なりの意見表明でもあるのです。
ギリシア神話は親子対決、父と息子の対決がモティーフになっております。クロノス、ゼウス、オイディプス、そのいずれもが権力者である父を倒して自らが覇者となるというシナリオで目白押しなのです。ギリシア神話における親子対決の根源は、地を這う赤子が成長して、自分の肩に手をかけてきた時、父として息子に脅威の念を抱く心理から来ていると思っています。
赤ちゃんだった子供が、父であるこの私に放った第一刀が、ギリシア神話だったりすると因縁めいたものを感じ、対抗心から特別な思い入れができたりするという背景もありあす。
http://www.ichizoku.net/2011/11/proud-of-father.html
この事件さえなければ、私もギリシア神話を真剣に読むことはなかったでしょう。