絵画取引と並んで、特別背任容疑で強制捜査の対象となったのは資本金わずか1000万円の地上げ業者
「太平産業」(大阪)に対する融資をめぐる疑惑である。同社は91年3月末、約2000億円の負債を抱えて事実
上倒産した。融資は大阪、東京、福岡など約30箇所の不動産事業の資金でイトマン内部文書によると90年
9月のピーク時で、約1600億円にのぼった。このうち、大阪府警が注目しているのは伊藤氏の関連会社を通
じてトンネル融資された資金。この一部を伊藤氏が自らの資金などに流用した疑いがもたれている。さらに、
太平産業は許氏周辺に100億円以上を貸し付けたことも明らかになっている。イトマンの債権がこげつくのは
必至の情勢だ。
大阪府民信組の貸付が、伊藤氏関連企業など特定企業に対する大口融資に偏っており、監督官庁の大阪府
が行政指導に乗り出していることが表面化したのが1990年の年の瀬が押しつまったころのことである。協和総
合開発研究所など伊藤氏周辺に約860億円など、91年1月時点で伊藤氏、許氏関連融資は約1200億円と同
信組の融資額の半分近くにのぼっていた。
大阪府民信組の設立は1915年、90年10月時点預金残高、3560億円程度の目立った存在ではなかった。その
中堅信組で「えっ」と信組業界を驚かせる人事があったのが85年5月。不動産業者として当時からあまり評判の
良くなかった「新千里ビル」の代表取締役でオーナーだった南野氏が突然大阪府民信組の理事・会長の座につ
いたのである。当時の事情に詳しい関係者によると、永く経営に携わっていた理事長が急死、同信組と関係が
深かった三和銀行出身の水野忠護氏が理事長に就任、その矢先にある融資が焦げ付いた。水野氏はその道
に詳しいとされる南野氏に担保調査を依頼した。「南野氏はそこで水野氏絡みの何か弱みをつかんだのでしょう
ね」という。監督官庁の大阪府商工部はこの人事に実は難色を示した。「南野氏は過去に銃刀法違反で逮捕さ
れたこともある。広域暴力団山口組とのつながりも噂される。金融機関のトップにふさわしくないとの判断からだ
ったという。ところが大阪府首脳部から南野氏を推す鶴の一声が入った。当時の岸昌大阪府知事の後援会長は
野村周史氏。大阪府政の大物フィクサーと呼ばれた人物である。その野村氏の”自称養子”を名乗っていたのが
許永中氏である。南野氏と許氏を結ぶつながりはこのころからあったようだ。
住友銀行首脳の間で、内紛がある。イトマン再建を巡って「もう少し様子をみる」磯田会長派と、巽頭取、玉井
副頭取派。アングラ情報作戦が磯田会長の判断に影響を与えたことは確実で、住友銀行のイトマン再建につ
いての意思決定は先送りになった。それをいいことにイトマンは6月以降も無謀な投融資計画を推進した。
米国カリフォルニア、ハワイで住宅開発事業、892億円、韓国の財閥、大宇グループとの間で新会社設立に調
印した。しかし発表になった「新会社のあらまし」を読むと、事業内容の一つに「美術、工芸品、貴金属などの
輸出入と売買」とあり、この時点では明らかになっていない許永中氏との絵画取引との関連を窺わせるものだ
った。密かに進行していたのは絵画取引ではない。熊取谷稔氏率いるコスモワールドグループから、ゴルフ場
の会員権の独占販売権を950億円で取得したのもこのころだ。熊取谷稔氏はゴルフ場経営を足場に東証二部
上場のオリムピックなどを買収、事業拡大してきた。リクルート事件ではNTTの真藤恒前会長との関係の深さが
取り沙汰された人物だが、その経営するゴルフ場は会員数が過大で有名。
伊藤氏は一見温厚な青年実業家風だが、コワモテの”地上げ屋”として知られる。実業家としてのスタートは67
年に始めたバッティングセンターだった。68年にはインテリア会社を興し、72年に始めた「平安閣」という冠婚葬
祭互助会で成功を収めている。伊藤氏の名前を一躍有名にしたのは90年1月、協和総合開発研究所が雅叙園
観光の筆頭株主として正式に登場してからだ。雅叙園観光は関西の有力仕手筋、コスモポリタンの池田保次会
長に乗っ取られた。だが、コスモポリタンは700億円の手形を乱発したあげくに倒産し、池田氏は失踪した。
>伊藤氏は一見温厚な青年実業家風
ホントかよ? まぁ、実物見たことねぇんだけどよ。にわかに信じがたい記述だな。
許永中氏が表舞台に登場 5%ルールで明るみに
90年12月、イトマンの実質的な筆頭株主に不動産業の海浜開発(本社、千代田区、井上昭徳社長)という耳慣れ
ない企業が登場した。大蔵省が株式の大量保有者に株式数や取得目的の報告を義務付けた5%ルールにより、
闇の中に居た株主が続々と明らかになったが、海浜開発の名前が表舞台に表れたのもこの時が初めてだった。
海浜開発によるイトマン株保有数は20,937,000株(10.27%)とそれまで筆頭株主だった大正海上火災3.9%を大きく
上回った。海浜開発の経営実態は不透明で、イトマンとの関係や株式買い集めの狙いについて様々な憶測を呼ん
だ。だが、その後、海浜開発の背後には関西の実業家、許永中氏が存在することが徐々に明らかになった。
不自然な絵画取引
関西新聞ルート557億円、ピサルート121億円、相場の倍を越す取引があった上、関西新聞ルートの取引について
当初は売買だったのを90年10月12日付で合意解約、絵画を担保にしたイトマンから関西新聞など三社に対する融
資に切り替えるという不自然な処理も明るみに出た。関西新聞、関西コミュニティ、富国産業、取締役の一部が同
じ顔ぶれで、三社とも許永中氏の関係会社であった。
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