純度3%に濃縮されたウラン燃料を使って発電したり、実験や核兵器製造の原料となるプルトニウムを生産するた
めの原子炉で燃やした後の使用済み核燃料の組成は、ウラン238が95%、ウラン235が1%、プルトニウム1%、核分
裂性廃棄物3%
となる。プルトニウムは自然界には存在せず、以上のようにウランを燃焼させることによってのみ得
られる。原子力発電所での燃焼の場合、軽水炉型と黒鉛減速型の二つのタイプの発電炉があり、現在世界の主
流となっている。軽水炉型での発電後に生成される1%プルトニウムの組成は、プルトニウム239が58%、これに対
し、黒鉛減速型では90%とかなり純度が高い
。このプルトニウム239はプルトニウム型原爆の材料として使われる
ことから、黒鉛減速型発電炉は軽水炉型に比べて核兵器開発に限りなく近いところに位置するものと見られる。
核兵器疑惑を受けて締結された94年の「米朝枠組み合意」で、北朝鮮の黒鉛減速型発電炉を廃棄する代わりに
韓国と日本が軽水炉型2基を新規に建設することにしたのは、以上の理由からだった。
インドもパキスタンも発表された核爆発装置の破壊力の数値と実際に地震波でモニターされた数値とのあまりの
開きはどう説明すればよいのだろうか。地下核実験を行う場合、地中深くに大きな穴を掘り、実験用原爆をセット
して起爆の信管につながる装置を地上に連結したうえで、穴そのものは分厚いコンクリートの蓋で厳重に密閉さ
れる。これは爆発によって物凄いエネルギーが地上に噴出し、有害な放射性物質が空中に吹き上げられるのを
防ぐためだ。インドもパキスタンも発表された破壊力数値より実際のモニターされた数値の方が大幅に低かた
ということは、セットされた爆発装置(インドは3つ、パキスタンは5つ)が全て予定通り爆発しなかった可能性が高
いと考えられる。複雑な構造を持った現代タイプの核兵器は通常、①概念設計、②概念設計に基づいて作った
部品をテストする部品群テスト、③テストで不具合を直した上での本格設計、④開発、⑤爆発実験、⑥生産、
⑦配備、の7つのプロセスを経て初めて正真正銘の核保有国となる。問題は、今後インドが「生産」「配備」とい
う「核兵器保有国」のプロセス完結まで進むかどうか
に移ってくる。
パキスタンを通じ、イスラムへの波及の可能性は薄い。リビア、イランといった中東のイスラム国家が核保有を
虎視眈々とうかがっていることから、同じイスラム国家のパキスタンが今回獲得した核兵器技術を流すのではな
いかと懸念されている。いわゆる「イスラムの核」だ。パキスタンはインドと同様これまで一度も核兵器技術を海
外に輸出した疑惑を引き起こしたことは無い。「イスラム世界の中でも穏健派を代表していく。イスラム原理主義
などの急進派とは一線を画している」。これはイスラムの穏健派にとどまることで、日本や米国、さらにはサウジ
アラビアなどのイスラム穏健諸国からの経済支援を獲得できるという冷静な計算があるからだ。
95年9月には米上院外交委員会中東南アジア小委でロビン・ラフェル国務次官補が証言し、「米政府は対パキ
スタン政策について議会と次のことで合意したことを明らかにした。
1.パキスタンは米国にとって、不安定なイスラム圏の中にあって穏健で民主的なイスラム国家、国際テロ対策を
支援している国家、世界のPKO活動で米国のパートナー国家、麻薬取引と民族紛争の脅威に直面している国
家、建設的協力的関係を維持していく。
2.核開発を凍結させ地域の緊張を高めることは避ける観点からF-16の供与と政府間の軍事支援再開は慎む。
3.パキスタンが支払った金も装備品も両方渡さないという不公正な態度を取り続けることはしない。
これを受けて、米国は対パキスタン武器禁輸を5年ぶりに一次解除することを決定し、F-16戦闘機の本体を除く
艦対艦ミサイル、空対空ミサイルなど総計3億6800万ドル分の武器がパキスタンに売却された
。凍結されてい
るF-16戦闘機28機については、第三国(フィリピン、タイ、台湾は除かれる見込み)に売却し、その代金をパキス
タンに返還するとクリントン大統領は表明した。
レス・アスピン米国防長官は、核戦力見直し作業をリードしていたが、米国内のタカ派の猛烈な反対にあって
挫折した。アスピン長官が推進した劇的核削減案実現の障害になったのは、皮肉にも唯一の被爆国、日本の
存在だった。米国による核の傘の提供だ。日米安保条約に基づいて米国は日本に対し、核を含むあらゆる攻
撃に対する防衛を約束している
。「米国は日本などの同盟国に核の傘を提供しているのだから米本土を守るに
足るだけの核では不足する」というのが核兵器の劇的削減を回避する論理であり、口実をひとつでもあった。
筆者がインド・パキスタンを訪れて「核実験をしないよう」求めたところ、異口同音に「米国の核の傘に守られて
いる日本が、我々にそんなことを言えた義理か」
と反撃された。96年の中国による駆け込み核実験を日本が
唯一の被爆国の立場から厳しく非難した時、中仏両国から同じ反論を受けて、返す言葉を見つけられなかった。
【軍事・軍隊・国防】
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2010.02.18: ロシアの軍需産業 ~軍事国家の下の軍需産業 
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2010.02.05: ロシアの軍需産業 -軍事大国はどこへ行くか- 
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2009.11.05: 核拡散 ~新時代の核兵器のあり方
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