「元気そうだな」男は笑いかけてきた。だがその目はどす黒く濁って見えた。
「あんた・・・どうしてここに」
「そんなに驚くことはないだろう。俺だってその気になれば、別れた女房の居場所ぐらい突き止められる」
「今さら何の用?」
「そう目くじら立てるなって。久しぶりに会ったんだから嘘でも笑って見せたらどうなんだ。ああ?」
「おめーにそんなに冷たくされたんじゃ仕方ないな。じゃあ、あっちに行ってみるか」
男は首の後ろをこすった。
「何よ、あっちって」嫌な予感がした。
「女房が話を聞いてくれないなら、娘に会うしかないだろ。中学校はこの近くだったな」
一親等をおさえる。恫喝の基本です。私も同意できます。
この男・・・そう、この親子に殺されるってストーリーですが。
「この一ヶ月間、何も変わっちゃいない。彼らは時計のように正確に生きている」
「人間は時計から解放されるとかえってそうなる」
時間の制約がない路上生活者の振る舞いか。
なるほど・・・。
微分積分なんて一体何の役に立つんだよ。
だがあんな質問をしてきた森岡の姿勢が、石神は嫌いではなかった。なぜこんな勉強するのか、という疑問
を持つのは当然のことだ。その疑問が解消されるところから学問に取り組む目的が生まれる。数学の本質を
理解する道にも繋がる。ところが彼らの素朴な疑問に答えようとしない教師が多すぎる。いや、多分答えられ
ないのだろうと石神は考えていた。本当の意味で数学を理解しておらず、決められたカリキュラムに従って教
え、生徒に一定の点数を取らせることしか考えていないのだから、森岡が投げかけたような質問は、タダ煩わ
しいだけなのだ。
数学だけでなく、学問、もとい子供に対する発言全てに対し、何故なのか?一体何なのか?を明らかにする姿
勢が必要だと考えています。それが、教師だけでなく、親、子供に接する大人としての責務と思います。
もしかしたら、子供の教育だけでなく、先輩後輩間の教育においても同様のことが言えそうです。
容疑者Xの献身 (文春文庫)
文藝春秋 2008-08-05 |
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